piece.17-9
アスパードが低く、いらだった声でなじった。
「おい……もったいぶるなよ。そういうのはいらないんだよ。あんまりふざけてるとこいつの足、斬り落とすぞ」
でもセリちゃんは、ふざけているようには見えない。あせった顔で、何度も剣を抜こうとしている。
「……こら! やめてよ、こんな時に……っ! ふざけないで……っ!」
セリちゃんが誰かにしゃべっている。
でも誰に向けた言葉なのか、僕には分からなかった。
でも突然、『誰か』が返事をした。
『ダメだよ! これ以上人を殺したら、セリもう元に戻れなくなるよ! ダメだよ! そんなの絶対にダメだよ!』
「……あ?」
アスパードが不愉快そうな声を出した。
セリちゃんが誰かとしゃべっている。
もしかして……剣が……しゃべってる……? まさか……。
「うるさい黙って! 今はそれどころじゃ……!」
『ダメ! 絶対にもう殺しちゃダメ! あの人みたいになってもいいの!?』
この声に僕は聞き覚えがあった。
セリちゃんがナナクサに――というよりシロさんに刺されたときだ。
誰もいない宿屋の一室で、セリちゃんが誰かと話していた。
そのときに聞いた声と同じだった。
横からアスパードの大きなため息と舌打ちが聞こえた。
「がっかりだぜ、ブラッド・バス。
お前がそんな頭の悪い小芝居をするような女だったなんて幻滅だよ。
……もういい、お前らもういいぞ。そいつ離してやれ」
アスパードが言うと、男たちは羽交い絞めにしていた男を解放する。
解放された男は、放心状態でその場にへたりこんだ。
「その女もういい。
ムカつくからすぐに殺すな。……オレの言いたいことは分かったな」
アスパードの命令に、男たちがすぐに反応する。
武器が使えないセリちゃんは、あっという間に男たちに殴り倒された。数人の男たちから袋叩きにされる。
「――セリちゃん……っ!」
切れたと思った縄は、まだ切り損ねた部分があった。解けたと思ったのに、まだ手が自由にならない。
あせりで自分の手を切ってしまったが、今は一刻を争う事態だ。
そんなことに構っている余裕はなかった。
早くセリちゃんを助けないと――!




