piece.17-8
僕は悲鳴をあげそうになるのを必死でこらえた。
アスパートのナイフが、僕の太腿に突き立てられている。
悲鳴なんか上げない。
必死で歯を食いしばった。
セリちゃんに悲鳴なんか聞かせるもんか。
セリちゃんをこれ以上、苦しめたりなんかしたくない。
僕は痛みをこらえると、声を絞り出した。
「……セリちゃん……っ! 僕のことはいいから早く逃げて! 急いで!」
大丈夫。ここにはシロさんがいる。きっと助けてくれる。
「……誰が口を利いて良いって言った?」
「――っうあぁぁぁあっ!」
アスパードが僕の足に刺さったナイフを、抜いてもう一度突き立てた。しかもそれだけでは終わらず中をえぐるようにかき回す。
あまりの痛みに、勝手に口から叫び声があがった。
「やめて! お願い! アスパード!
……っお願いだから……っ、もうやめて……っ!」
セリちゃんが泣きながら叫んでいた。
「……じゃあほらー、早く見せてよー。
でないとほらー……こいつ、細かくして、ちっちゃい箱に詰めちゃうよ?
オレのこと、あんまり怒らせるなよ。オレが本気だってこと……もちろん分かるだろ?」
セリちゃんが立ち上がり、震える手で剣に手をかける。
「嫌だ……やめろ……死にたくない……っ」
ずっと仲間たちに羽交い締めにされたままの男が、左右に激しく首を振り続けている。
「待ってましたー! ブラッド・バスの血みどろ惨殺ショー!
いいよいいよー! 始めて始めて!」
アスパードただ一人だけが、手を叩いて子供のようにはしゃいでいた。
異様な光景だった。
でも今がチャンスだ。
アスパードの注意が僕から逸れているうちに縄を切る……!
手甲の中から無事にナイフを引っ張り出すことに成功した。バレないように慎重に手首の縄を切っていく。
セリちゃんはためらいながら剣を抜こうとして――だけど剣は抜けなかった。
剣は金属音を響かせるだけで、鞘から刀身は出てこない。
固い金属の音が何度も響く。
剣が鞘から抜けないみたいだった。
まるでくっついてしまったみたいに。




