piece.17-7
セリちゃんは苦しそうに息をして、よろよろと立ち上がった。
アスパードが僕の横で満足そうな笑い声をあげる。
「そーそー、人殺すの好きでしょー?
もったいぶるなってー。斬るもんならいくらでも用意してやるからさー。
オレたち似た者同士、これから仲良くやってこうぜー」
「……こんなことして……何がそんなに……楽しいの……?」
セリちゃんがかすれた声でアスパードへ問いかけた。
「なに言ってんのブラッド・バス! 楽しいに決まってんじゃんよ! あったりまえじゃん! 悲鳴最高! 血しぶき最高!
そんで何が一番最高ってさ……人殺してるときのお前の顔が最高なんだよ。
お前は人を殺すために生まれた女なんだ。そんなお前に相応しい男はオレしかいないだろ?
オレならお前にいつも最高の表情をさせてやれる。お前にいつだって殺す相手を用意してやれる。毎日だって斬らせてやれる……」
セリちゃんは、蒼白な顔で首を横に振った。
「やめて……! 違う……っ」
「……ブラッド・バスー、オレを煽ってどーしたいのさー? 今までだってさー、オレが留守してるときにばーっかり奇襲してさー、みーんな皆殺しにしちゃうしさー。
お前が殺すとこ見るの、オレがだーい好きなの分かっててー、わざとオレのいないときにばっかりアジト潰しに来てさー」
アスパードの靴音が忙しない音をたてている。見上げなくても気配で分かる。
アスパードが苛立ってきているのが……。
「血の海になったアジトを見たオレが、どんな気分だったか分かる?
欲しいものが手に入らないって、めちゃくちゃ気分悪いだろ? さすがのオレもさ、我慢の限界ってやつ。
ほら、早く見せろよ。でないとこのガキ生きたまま端から刻む。リリーパスのガキどもみたいに」
セリちゃんの顔が怒りに歪む。
でもすぐに、胸を掻きむしるように押さえてうずくまった。
アスパードが舌打ちした。
「もったいぶるんじゃねえよ! さっさと殺して見せろって言ってんだよ!」
鈍い音と衝撃。
僕の足に、灼熱感が走った。
「――カインっ!!」
セリちゃんの悲鳴が聞こえてから、遅れて痛みがやってきた。




