piece.17-5
「まー起きちまったもんは仕方ねーかー。なーガキ、痛い目に遭いたくなきゃ静かにしてろよー?
オレはさー、今からブラッド・バスと大事な話があるわけー。
もしオレとブラッド・バスの話に割って入るような真似したらさー。オレ頭きてなにすっか分かんないからさー」
この場の雰囲気にまったく合わない陽気な口調のアスパードが、楽しそうに笑っている。
あまりの違和感に寒気が消えない。
「ねー? ブラッド・バス? オレがうるさいガキが大っ嫌いなの、知ってるもんねー?」
よく見ると、男たちに囲まれた中に、セリちゃんが膝をついていた。
セリちゃんの顔には、さっきまでなかったはずの傷がついている。
セリちゃんは苦しそうな顔でアスパードを睨んでいた。
やっぱりセリちゃんの顔色はかなり悪い。
早くセリちゃんと、ここから逃げないと……。
あせる気持ちを抑え、僕はこの場をどうにかする方法を考え始めた。
僕の隣でアスパードが唸った。
「うーん、なんかさー、オレが見たいのって、そーゆー顔じゃないんだよなー。
ほらほら! 前のさー! リリーパスのときみたいなあの顔ー! オレあの顔がまた見たいんだよねー!
ねーねー、あの顔見せてよー。
……あ! もしかしてガキをバラさないと見せてくれない的な?」
「――やめて!」
セリちゃんの悲鳴と同時に、僕の目の前にナイフの先端が突きつけられた。
髪をつかまれて、頭が動かせなかった。
僕の右目に触れるギリギリの距離で、冷たい刃の先端が光る。
まばたきをするたびに、ナイフと僕のまつ毛がかすっていく。
息をするのも忘れて、僕はナイフの先端と見つめ合った。
「お願い……。お願いやめてアスパード。その子に何もしないで……。
逃がしてあげて……お願い……なんでも……言うとおりにするから……」
苦しそうに咳をしながら、セリちゃんがアスパードに頭を下げていた。
どうしよう……僕のせいだ……。
僕が油断しなければ。
僕がこいつらに捕まらなければ。
僕のせいでセリちゃんが……。
ダメだ。
今はそんなことを考えている場合じゃない。
すぐにここから逃げる方法を考えないと。
少し緩んだ縄の隙間から、そっと指を差し込んで手甲の中を探る。
すぐ隣にはアスパードがいる。
見つからないように、慎重に縄を切らなければ――。
僕はシロさんからもらった小さなナイフを、慎重に探り出した。




