piece.17-4
・・・・・
顔に痛みが走る。
僕はもうさすがに我慢の限界で文句を言った。
「シロさんっ! いい加減、顔に木の実ぶつけんのやめてよっ!」
僕は逆さまになって吊るされたまま、シロさんに文句を言う。
「んー? 聞こえねえなあ」
シロさんは僕の方を見向きもせず、寝っ転がった状態で木の実をぶつけてくる。
こっちを見てもいないのに、確実に僕の目の付近にあたるのって一体どういうことなんだろう。
ちなみに今日は手も縛られているから、ぶつけられると分かっていても手で防ぐことができない。
「いった! 痛いってもう! いい加減にしないと……!」
シロさんが面白そうに僕を見た。
「……ほーん。『しないと』?」
「お……怒るよっ!」
シロさんが盛大に吹き出した。
「ぶっ! ばーか、へなちょこ! なんだよそのへなちょこなキレ方は。全然怖くねえよ。
そんなんじゃもっとかわいがられちまうに決まってんだろ。天性のいじめられっ子かお前は。
お前みたいなへなちょこが怒ったってちっとも怖くねえんだよ。8点!」
また木の実が飛んできてぶつかった。くそ、痛い。
……あ、でもようやく手首の縄が緩んできた。くっそ、今日こそ自力で脱出してやる。
「ハッタリでもいいからビビらせてみろって。一瞬でもビビらせれば形勢は変わる。たとえ本当は中身がへなちょこでもな。
怖そうなセリフが思い浮かばないんだったら、なんでもいいからクソでかい声で怒鳴ってみろって。
ほら。俺の手が止まるくらいのやつだよ。なんか言ってみ?
ほらほらほらほらほら。俺をビビらせて止めてみな」
怒涛の木の実連続投げだ。
「わ――――っ! ちょっとその数なにっ!? いった! いたたたっ!
も――――っ! いい加減にしろ――――っ!」
・・・・・
なにかがコツンと、頭にぶつかって――。
僕は目を覚ましてすぐに、自分の状況を察した。
「――っ!?」
もがいてみたけど動けない。
腕と手が縛られている。
場所は薄暗い袋小路の突き当りだ。
通りに出るための道には、男たちが何人もいる。逃げるにはあの中を突破するしかなかった。
「おいおい、誰だよこいつ殴ったやつー。もう起きちまったじゃねーかよー。
まだこれから交渉開始だっていうのにさー」
冷たい地面に僕は座らされていた。すぐ後ろは高い壁だ。逃げ道はない。
隣にいる男の姿を目にして、反射的に寒気がした。
軽薄そうに笑っている男が、決してにこやかな性格ではないことは直感でわかった。
絶対にヤバいやつだ……。
たぶん、こいつがアスパードだ。
全身がざわざわする。
触られていなくても、アスパードの毒が僕に移ってくるみたいだった。
早くこいつの近くから離れたい。息を吸うのも嫌になる。
でも、刺激しない方がいい。
なにがどうヤバいのか、よく分からないけれど、直感的に危険だということだけは分かった。
ばれないように慎重に、縛られている縄の強度と結び加減を確かめる。
かなりきつく縛られている。
抜け出すにはちょっと時間がかかりそうだった。




