piece.17-1
piece17-5からpiece18-1まで残酷な描写が続きます。
苦手な方はご注意ください。
アスパードがいると言われている、リアルガという町――。
その町に到着して、僕は気づいた。
なにかの気配がする。
――たぶん、『毒』の気配なんだと思う。
なんで分かるようになったんだろう。
手が、ざわざわする。
皮膚の下で虫が這いずり回っているような、不快な感覚――。
自分の腕を、自分で握り潰したくなるような――。
斬り落としてしまいたくなるような――。
そんな衝動に駆られる。
町全体が毒に包まれている。
その事実が、肌感覚で理解できた。
僕の腕の中に棲んでいる『虫』は、この町の毒に反応しているらしい。
(この街は毒だらけだ……)
セリちゃんと会ったばかりのときに、セリちゃんはそんなことを言っていた。
きっとセリちゃんは僕の街に来たときに、こんな感覚を感じたのかもしれない。
僕の腕に棲みついているレネーマの毒虫が、この町の毒の気配に興奮して騒いでいる。
もしかしたらこの虫は、仲間が近くにいるから喜んでいるのかもしれない。
僕は全然喜べないけど。
「……なるほどね、こういう空気か。なーるほどね……はいはい」
シロさんが一人でぶつぶつとつぶやいている。
シロさんも気づいたのかもしれない。この毒の気配に――。
……ということは、もしかして――……。
「シロさ……」
「はいここで俺から質問です」
僕が声をかけようとした途端、いきなりシロさんが振り返った。
「……え? な……なに……?」
「ここでアホたれと遭遇します。
俺とお前が一緒にいる状態で遭遇するのと、お前が先に感動の再会をして、あとで俺がびっくりサプライズで登場するのだったらどっちの方が面白いでしょうか。はい答えは2番です」
質問しといて速攻で自分で答えているけど……。
そして無表情なのが、なんか怖い。
「シロさん……?」
「二手に分かれようぜ。
感動の再会シーンの最初はお前に譲ってやるよ。俺は適当なタイミングであいつビビらせっから」
シロさんの言い方は、まるでセリちゃんがここにいて当然だと言わんばかりだ。
「え……? もしかして、ここに……セリちゃんも……?」
シロさんは無表情なまま、淡々と答えた。
「これだけ期間があって、まだ獲物のアジトが見つけられないようなヘッポコに育てた覚えはない。
もしこれでまだここが見つけ出せないようなやつなら、速攻で俺が吊るしてボコる。
おそらく……狩るタイミングを探ってるか、狩るに狩れない理由があるか……。
ヘッポコだからやっぱりボコらねえとダメなパターンか……。
そのどれかだろうな」
『狩る』――。
『獲物』――。
前にシロさんが話してくれた、エサと食べる側の話を思い出した。
シロさんにとっては、アスパードも所詮はエサなのだということを痛感する。
でも、セリちゃんはダメだ。
セリちゃんにはそんなことはさせたくない。
セリちゃんの手は、もうこれ以上血で汚れて欲しくない。
僕はある覚悟をして、ここにやって来た。
セリちゃんがもしアスパードを殺そうとするのなら――。
僕がセリちゃんよりも先に――。
セリちゃんの代わりに――。
アスパードを、殺す覚悟を――――。




