piece.16-8
バルさんの暴走はまだ続く。
「だって、俺がセリを見つけるとよ、文句言いながらも『しょうがないやつだな、バルは……』って、デレるんだぜ!」
デレてないデレてないデレてない!
絶対にデレてないよ!
僕は体中がざわざわして、掻きむしりたく衝動に駆られた。
なんか今、すっごい大きい声が出したくてしょうがない。
前にセリちゃんが斧を見つめながら、『あいつ……たまに本気でどつきたくなることがあるんだよね……』ってボヤいてたのなら聞いたことあるよ!
斧でどつくって、絶対に好きな人なんかにすることじゃないと思うよ! バルさんは大きな誤解をしてるんだよ!
「あの【皆殺しのセリ】がデレるとか……お前の幻覚だろ?」
そう! オルメスさんの言うとおり! バルさんの幻覚!
デレたセリちゃんなんか僕だって見たことないもん! バルさんが見てるはずがない!
しかしバルさんは全く動じない。
「ふっ、オルメス……女ってのは、惚れた男にしか見せない顔があるんだぜ……」
ここでシロさんが限界を突破した。
笑いが止められないらしく、口を押さえたまま、うつむいて震えている。
オルメスさんがシロさんに気づいて、恥ずかしそうな顔をした。
「ほら! 笑われてるぞバルサール!
お前自分のキャラを考えろ! 偉そうに女について語れる見た目じゃねえだろ!」
バルさんは机を叩いて抗議する。
「ああん!? 男は見た目じゃねえ! 愛の強さだろーが!」
シロさんが涙目になりながら、大きく息を吸った。
そして咳払いして一回笑うのをこらえると、席を立ってバルさんたちのテーブルの方へ近づいて行く。
うわわわ……! シロさん、なに話す気だよ……!
心配する僕をよそに、シロさんは人懐っこそうな雰囲気で二人へ話しかけた。
「いやいや、笑って悪かったよ。
あんたらが話してんのってお尋ね者の【皆殺しのセリ】って呼ばれてる女のことだったりするかい?
兄さんたちは、お尋ね者の女を探す愛の旅の真っ最中ってところ?」
シロさんに答えたのはオルメスさんの方だ。苦笑いで「こいつだけな」とバルさんを指さしながら言葉を続ける。
「ひとつ仕事が片づいたんで、次の仕事をもらいにマイカに行こうと思ってたところだよ。
賞金稼ぎもいいんだが、今はディマーズの下請けで仕事してる方が割りがいいからな」
「へえ、そうかい。俺たちはマイカからこっちに来たんだ。
実はさ……俺はこの先の町に嫁さんつれて数年ぶりに帰るとこなんだけどな……。
マイカの酒場でさ、どうも俺の故郷の雰囲気が良くないって言われちまって、ビビってるんだ。あんたら、その町は通って来たかい?」
でた。シロさんお得意の即興の大ウソ。
そして僕は恋人からお嫁さんに昇格だ。もちろん全然嬉しくない。
だけどここでシロさんを睨んでしまうと話がこじれてしまうので、仕方なく僕はシロさんのことを心配そうに見つめるお嫁さんの演技をしてあげる。
まったく、つきあわされる側の身にもなってほしいよ。




