piece.16-7
「あーあ、セリはどこ行っちまったんだろうなー」
唐突に口を開いたバルさんの第一声は、いきなりさっそくセリちゃんの話題だった。
バルさんは前にもセリちゃんの仲間だと思われてディマーズに捕まったことがあるって言ってたけど、全然懲りてないらしい。
誰が聞いてるか分からない状況で、普通にセリちゃんの名前を出している。
きっとなにも考えていないんだと思う。
「お前……ぜんぜん相手にされてないのに、よくもまあそこまで熱が上げられるよな」
バルさんと一緒に座っている男の人が、あきれたように返事をする。
「なに言ってんだよ。あれは恥ずかしいからああいう態度をとっちまうんだよ! オルメスは女心がわかってねえなあ!」
「お前よりは分かってると思うぞ……」
オルメスと呼ばれた相手の人は、大きなため息をつきながら肉料理をつついていた。
「セリはな、俺の愛を試してるんだよ! わざと俺を置いてけぼりにすんのは追いかけて来てほしいんだよ! だから俺はセリの試練に応えなきゃなんねんだよ!」
あまりの恥ずかしさに、僕は思わず顔を覆ってしまった。
何でこんなに恥ずかしいんだろう。僕が変なことを言ってるわけじゃないのに。
……バルさん、酔っぱらってんのかな……?
別にバルさんの話を聞きたいわけじゃないんだけど、声が大きいせいで嫌でも耳に入ってしまう。
うぅ、なんか背中がムズムズしてかゆい。
一方でシロさんの様子をうかがうと、ものすごく冷めた目をしてバルさんのことを一瞥し、ものすごくだるそうにつまみを口に運んでいた。
シロさんも背中かゆかったりするのかな……?
僕がシロさんを見ていることに気づいたのか、僕の方を見てボソッと小さくささやいた。
バルさんたちには聞こえないように、いつもよりもちょっと低めの声だ。
「……あいつさあ、昔っからガキか頭のおかしいやつにしか好かれねえんだよなあ。
ロクなやつが近づかないんだよなあ。かわいそうなやつだよなあ。呪われてんのかもなあ。
まあ他人事だから、別にどーでもいーけどー」
本当に心底どうでもよさそうな表情だ。
シロさんって、セリちゃんと超仲良しだって前に言ってたけど、あれ絶対に噓でしょ。
それにね、シロさん。
今のシロさんの発言は、僕のことをガキか頭のおかしいやつって言っていることになると思うんだけど、もしかしてケンカ売ってるのかな?
しかし、今はバルさんがいるのでそんなことを言うわけにはいかない。
そうこうしている間に、オルメスさんとバルさんの会話が続く。
「バルサール、お前は昔から一度思い込むとまわりの意見を聞かなくなるのが悪い癖だ。
それでさんざんあちこちで失敗したの忘れたのか? いろんなやつに尻ぬぐいしてもらっただろうが」
「あー……あったなあ。
そういやあ、そんときにセリと会ったんだよなあ。……あれは……運命の出会いだった……」
バルさんがうっとりしている。
たぶん頭の中身はどこか遠くに旅立っていったのかもしれない。
「そこに話を持っていくなバルサール」
「絶対にセリは俺のこと好きだと思うんだ。どう思うオルメス」
バルさんのセリフに、僕とシロさんは同時にむせた。
それはない。絶対にない。
あやうく大きな声で反論しそうになってしまった。……あぶないあぶない。
ここでツッコんでしまったら僕の正体がばれてしまう。
僕は口を押さえて、心を落ち着かせることにした。




