piece.16-2
うん。……そうだね。
これなら見つからないね。
僕は複雑な気持ちで、シロさんの隣に座りながら、酒場でひきつった愛想笑いを浮かべていた。
なぜかシロさんの恋人役として――。
そうだね。この前は妹になったしね。
だったら今回だって妹役でも良かったと思うんだけど、なんで恋人にされてしまうのか……。
もしかして……これ罰ゲーム?
昨日の夜、宿屋を飛び出しちゃったこと、実はまだ怒ってるとか? それでこの仕打ち? だとしたら性格悪くない?
そういうことならさ、ちゃんと怒ってるってさ、言ってくれないとさ、分かんないよね。
こんなまわりくどい嫌がらせしなくったってさ……わざわざ新しい服なんか買ってきちゃってさ。
絶対僕のことからかってるよね……。くそ、腹立つ。
マイカの街の中心。
冒険者たちが賑わう大きな酒場。
こんな昼間から酒を飲もうとするやつなんて、シロさんくらいかと思ったけど、意外や意外、いるものである。
情報通の冒険者たちが最新情報を持ち寄って情報交換をしている、まさに社交場だ。
僕の耳にも噂話が入ってくる。
『なんか昨日、お尋ね者の仲間がこの街にいたらしいぜ』とか。
……はい。それは僕のことだと思います。
『なんかディマーズの女をキレさせて大変だったらしいぜ』とか。
……はい。それがアダリーさんのことなら、たぶんキレさせたのは僕のことだと思います。
僕の噂をしている人たちの声を聞きながら、僕は昼間からシロさんの隣で女装をさせられている。
もちろんバレていない。
あんまり嬉しくないけど、シロさん仕込の女装をしている僕は完璧に女の子だった。
「よう、兄ちゃん。随分とかわいい女のコ連れてるじゃねえかよ。見せびらかしに来たのかい?」
男の人がシロさんに話しかけてきた。
「まあな。なあ? こいつ、いくらなら買う?」
――はいっ!? 僕、まさか売られるの?
僕がぎょっとしてシロさんの方を見ると、シロさんはニヤニヤ笑いながら言った。
「嘘だよ、嘘。売るわけねえだろ。
お前があんまりぶすっとした顔ばっかしてるから、ちょっとおどかしただけだよ」
……やりかねなくて怖い。
僕は無言でシロさんを睨んだが、シロさんはもう僕ではなくて話しかけてきた男の人の方を見ていた。
「かわいいだろ。南の村から攫ってきたんだ。
マイカの観光でもさせてやれば機嫌が直ると思ってたんだけどさあ……こんな感じで、まだ機嫌が直らねえんだよねー」
……へー、そうなんだ。
僕は攫われてきちゃった可哀想な女の子の設定なわけね……。ふーん、へーえ……。
よくもまあそんな嘘がすぐにつけるよな……。
僕はシロさんのことを睨んだ。




