piece.3-1
僕はだめだとは分かっていたけれど、ダメもとでもう一回セリちゃんに声をかけてみた。
「ねえ! セリちゃん、本当に大丈夫だからさ! 引き返そうよ!」
しかし、やっぱりセリちゃんは僕のことをほんの少し振り返っただけで、進路を変えようとはしなかった。
「なに言ってんのカイン。ちゃんとお医者さんのいる街で見てもらった方がいいよ」
僕たちはもう何回目か分からないやり取りを繰り返していた。
毎日ではないんだけど、夜になると僕の足が謎の激痛に襲われる。
セリちゃんが「痛いのとんでけ」の魔法をかけてくれるけれど、あんまり効かないときもあって、セリちゃんがすごく心配してくれる……のはないしょだけど、ちょっと嬉しかったりする。
でも不思議なことに痛いのは夜だけで、昼間は嘘みたいに痛くない。
だから僕はお尋ね者の【皆殺しのセリ】ちゃんが、わざわざ人通りの多い街道を選んで、わざわざ人がたくさんいるような街へ行こうとまでしなくていいと一生懸命訴えているわけだ。
でもセリちゃんも頑固なのか、僕の言うことを全然聞いてくれない。
人の多いところは見つかるから行かない方がいいっていう僕に対してセリちゃんは――、
①おいしい食事を食べて体力全回復
②宿屋のふかふかベッドで、良質な睡眠をとって体力全回復
③今度こそ僕のジャストフィットサイズの装備品調達
などなど子供の僕が言い返せなくなるような、街に行くための正当な理由というものをどんどん出してくる。
……ちょっと大人げないと思う。
結局、僕が何度もやめようよと言っているにもかかわらず、セリちゃんも僕も、現在進行形で街道を歩いてしまっているわけだ。
街道は人がよく通る。
だから、もしかしたらセリちゃんのことを見て、お尋ね者だって気づく人がいるかもしれない。
僕はただ、セリちゃんが【皆殺しのセリ】ちゃんだとバレませんようにと祈ることしかできない。
なので僕はこっそり、人に会ったらすぐに『セリ』ちゃんではなく、偽名の方の『トーキ』で呼べるように心の中で準備をしていた。
できれば、誰にも会わずに済みますようにと、祈りながら――。




