piece.15-6
どこをどう走ったのか覚えていない。
どこに行けばいいのか。それも分からない。
ただ怖かった。
自分がどんどん何かに染まっていくのが。
誰かを苦しめてしまうのが。
僕はいなくなった方がいい存在なのかもしれない。
僕の心は醜くて、汚れている。
セリちゃんがいないと、僕はただのゴミだ。
セリちゃんがいたから、僕は人でいられた。
セリちゃんがいなければ、僕は――……。
僕は――……?
・・・・・
誰かが歩いてくる気配がして、僕は目を覚ました。
いつの間にか、もう朝になっている。
こんな汚い路地を通るなんて、一体どんな人だろう。
街の人たちは、臭くなくて、ゴミがなくて、きれいで広い路地を使う。
きれいな路地は、人のための路地だ。
だから僕みたいなゴミが身を潜めて、ゆっくり眠れるような路地は、汚くて狭くて臭い路地しかない。
でもその路地にもゴミ同士の縄張りがあって、勝手に使っていると痛い目に遭う。
僕みたいにケンカも強くない小さなゴミは、誰の縄張りでもない路地をいつも必死で探している。
弱いゴミはせっかく見つけた居場所だって、すぐに追いだされてしまうからだ。
……懐かしい。
セリちゃんと最初に会ったころの夢だ。
セリちゃんの足音が近づいてくる。
セリちゃんのお腹がかわいい音で鳴って、セリちゃんが赤くなってかわいくて……。
お腹いっぱいになるまで、僕はセリちゃんとパンを食べた。
懐かしいな……。
足音が、離れていく。
――あれ? セリちゃん待って! 僕はここにいるよ! 気づいてよ!
足音が小さくなっていく。
セリちゃん!! お願い!! 行かないで!!
セリちゃんを呼ぼうとしても声が出せない。
僕には、口がなかったから。
追いかけようとしても、動けない。
僕には、足がなかったから。
僕には――体がなかった。
僕は、人じゃなくてゴミだから――。
今まで感じたことのない恐怖が僕を襲った。
でも、誰にも僕の悲鳴は聞こえない。
嫌だ! セリちゃん行かないで!
お願い待って! 置いていかないで! 僕に気づいて!
戻ってきて……! お願いだから……!
セリちゃんの姿はどこにも見当たらない。
足音も、もう聞こえない。
路地もない。
そこは真っ暗な闇の中だった。
誰もいない。
なにもない。
僕すらいない。
いやだ……。
こんなのは嫌だ。
ひとりにしないで。
セリちゃん……! セリちゃん助けて……!
お願いだから……! 戻ってきてよ……!
セリちゃん……。
嫌だ……。
誰か助けて。
誰か――!
誰かお願い!
誰か僕を助けて――……!




