piece.15-3
僕はもうシロさんと話すのに疲れてしまった。
「もういいよ、シロさんは好きにすればいいけど、オレは……」
「大丈夫だ」
なぜかシロさんは自信満々で言い切った。
なにが大丈夫なのかは、まったく意味が分からない。
「首から上は想像力を働かせろ。『いまボクがしてる相手はせりちゅわんだ。しゅきしゅきだいしゅっきなせりちゅわんだ』と思い込めばいい。
あれのどこがいいのか俺にはさっぱり分からないが、まあそういう方法もある」
くそ! まだその話を続ける気かよ。しつこいな。
「くっ、だから……っ!」
「忠告しておく」
シロさんが僕の言葉を遮った。
その鋭い眼光に、僕は思わず怯んでしまう。
「あれにそっちの才能はない。そっちの方面は壊滅的だ。
色気もなけりゃ体も貧相。あれで楽しみたけりゃお前がレベルを上げるしかない。今日から心を入れ替えて経験値を上げろ」
ものすごく真面目な表情で、ものすごくセリちゃんのことをボロカスに言っている。
「そんなひどい言い方ないだろ! セ……ちゃんは……貧相じゃないし……胸だっておっきいし、柔らかいし……」
大きい声でセリちゃんの名前を呼びそうになり、あわてて声を落とした。
「は! あいつの胸がでかいって? お前はまだまだガキだなあ、だまされてんだよ。
あの晒の中にパンだの饅頭だの詰めて、寄せて上げてカサ増ししてるに決まってんだろーが。
いやー、あれを見たとき俺は幻滅したね。あんな見苦しい真似をする女に育てた覚えはないって思ったね。観衆の見てる前で公開処刑してやろうって本気で思ったぜ」
「違うよ! パンなんか詰めてないよ! あれは全部本物なんだって! 嘘じゃないって! ちゃんと見たんだって!」
そう言いながら僕はいったい、なんでこんなことを大声でシロさんに説明しているんだろうと思った。
こんな昼間にこんな街中で、ディマーズに見つかるわけにはいかないのに大声出して、セリちゃんの胸の大きさについて言い合いしてるのって、なんかおかしくないか?
うん、絶対におかしいと思う。なにやってんだろ僕……。
「いーや、偽物だ。俺の経験上、ああいう体形の女で胸だけでかいなんてのは見たことがない。
もしそんな女がいるとしたら、そいつは胸をでかくするために黒魔術でも使ってるに決まってる」
そんなレベル!? しかも断定!?
どうしたのシロさん? 過去になにか嫌なことでもあったの?
こんなに頑ななシロさんは初めてだ。
「そんなのムチャクチャだよ、シロさん……」
「よし、なら賭けでもするか? あいつの胸が偽物か本物か。
負けた方が勝ったやつの言うことをなんでも聞く。どうする?」
不敵な笑みを浮かべたシロさんが、突然妙な提案をしてきた。
「……別にいいよ。オレはもちろん本物に賭けるから」
だって見たもん。だから僕の勝ちだ。
勝ったらシロさんになんかすっごく恥ずかしいことさせてやる。
「はは! すげえ自信に満ちた顔してんな、お前。俺に賭け事で勝つ気かよ、生意気なやつ!」
シロさんは僕の頭をポンっと一回叩くと、そのあとは何事もなかったみたいに、先を進んでいく。
提案者のシロさんは、結局どっちに賭けるかを宣言しない。
「……ん?」
僕はその背中を立ち止まったまま見つめた。
そして、一つの可能性に思い当たる。
もしかして、今までのやり取り全部……僕のこと元気づけようとしてた……?
まさか……ね。そんなわけないか。




