表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流転するアルケウス ~inherited Meme~  作者: イトウ モリ
第14章 由縁の紫 ~pollution~
153/395

piece.14-13



 静かに近づく気配。

 僕の真正面に、その気配はとどまった。


 沈黙。


「……笑わないの? 『だっせえ』って」


 僕は顔を伏せたままシロさんに問いかけた。


「そりゃおねだりか? 悪いな、俺は欲しがってるやつにはあげたくなくなる性分なんだ。残念だったな」


 僕は少しだけ笑った。


「性格悪いね」


「なんだよ、とっくに知ってると思ってたぜ?」


 シロさんは優しい。


 僕が顔をあげるまで待っててくれる。

 僕が立ち上がるまで待っててくれる。


 ……甘えていられない。


 僕は大きく息をついて、目元をぬぐった。そして立ち上がる。


「今までどこにいたの?」


「情・報・収・集。

 アホたれが世話になってたっていうディマーズの女と、少し話し込んでたのさ。

 もちろん、俺は善良な通りすがりのふりしてな」


「どんな話が聞けたの?」


「んー? 嫉妬に狂った女はおっかねえな、って話さ」


「え……? なにそれ。嫉妬?」


「あのアホたれが、男なんかたらしこめるわけねえのにな。女って本当に……」


 そこでシロさんは言葉を切った。

 気になってシロさんを見ると、シロさんは目を細めて僕に伝えてくれた。


「お前の母親、大丈夫そうだ」


「……え?」


「ディマーズの若い男が戻ってきて、なんかすげえ技ぶちかまして毒を吹き飛ばしたんだとさ。

 しばらくは治療が必要だとかで、どっかの街に連れてかれるらしいけど。

 …………良かったな」


 シロさんの声が優しかった。


 もう泣くもんかって思ったのに、また涙があふれてきた。


「……シロさん……っ、ずるいよ……。こういうときばっかり優しいの……っ」


 シロさんが鼻で笑った。


「俺は性格が悪いからな。こういう弱ってるときに優しくしとけば、つけこめるだろ?

 そこも計算済みなんだよ」


「……本当、性格悪いね」


 僕も笑う。


 シロさんがいてくれて良かった。


 心の底から、そう思った。

 第14章 由縁の紫 

<YUEN no MURASAKI>

 ~pollution~ END

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ