piece.14-13
静かに近づく気配。
僕の真正面に、その気配はとどまった。
沈黙。
「……笑わないの? 『だっせえ』って」
僕は顔を伏せたままシロさんに問いかけた。
「そりゃおねだりか? 悪いな、俺は欲しがってるやつにはあげたくなくなる性分なんだ。残念だったな」
僕は少しだけ笑った。
「性格悪いね」
「なんだよ、とっくに知ってると思ってたぜ?」
シロさんは優しい。
僕が顔をあげるまで待っててくれる。
僕が立ち上がるまで待っててくれる。
……甘えていられない。
僕は大きく息をついて、目元をぬぐった。そして立ち上がる。
「今までどこにいたの?」
「情・報・収・集。
アホたれが世話になってたっていうディマーズの女と、少し話し込んでたのさ。
もちろん、俺は善良な通りすがりのふりしてな」
「どんな話が聞けたの?」
「んー? 嫉妬に狂った女はおっかねえな、って話さ」
「え……? なにそれ。嫉妬?」
「あのアホたれが、男なんかたらしこめるわけねえのにな。女って本当に……」
そこでシロさんは言葉を切った。
気になってシロさんを見ると、シロさんは目を細めて僕に伝えてくれた。
「お前の母親、大丈夫そうだ」
「……え?」
「ディマーズの若い男が戻ってきて、なんかすげえ技ぶちかまして毒を吹き飛ばしたんだとさ。
しばらくは治療が必要だとかで、どっかの街に連れてかれるらしいけど。
…………良かったな」
シロさんの声が優しかった。
もう泣くもんかって思ったのに、また涙があふれてきた。
「……シロさん……っ、ずるいよ……。こういうときばっかり優しいの……っ」
シロさんが鼻で笑った。
「俺は性格が悪いからな。こういう弱ってるときに優しくしとけば、つけこめるだろ?
そこも計算済みなんだよ」
「……本当、性格悪いね」
僕も笑う。
シロさんがいてくれて良かった。
心の底から、そう思った。
第14章 由縁の紫
<YUEN no MURASAKI>
~pollution~ END




