piece.14-12
「……それが、セリちゃんがお尋ね者にされてる理由?」
僕の質問にレキサさんはゆっくりとうなづいた。
「アダリーさんは……完全に毒に飲まれたら治療は不可能だから、もう消すしかないって……。
でも僕は、治したいって思ってるよ。セリ姉に、治ってほしいって思ってる。
だって……君といたセリ姉は毒になんか飲まれてなかったでしょ? ロキさんがあんなふうに笑ってたんだから、ちゃんとセリ姉は、毒を抑え込んでたんでしょ? 君といたセリ姉は、ちゃんと普通の優しい女の人だったでしょ?」
レキサさんは泣きそうな顔をしていた。
僕にはレキサさんの気持ちがすごくよく分かった。
「うん。僕といたセリちゃんは、すごく優しくて、ちょっとおっちょこちょいで、すごくかわいい女の人だよ」
レキサさんは僕から顔を隠すように、下を向いた。
「……アダリーさんには、君に逃げられちゃったって報告しておくよ。
お願い、早くセリ姉を見つけて。アスパードには関わっちゃダメだって伝えて。僕が絶対になんとかするから、早く治療を受けてって伝えて」
早口の鼻声を残して、レキサさんが去っていく。
「……あ、待って」
レキサさんが振り向いた。
僕が呼び止めたからだ。
僕はいったい、どうして呼び止めてしまったんだろう。
言葉がうまく出なかった。でも僕の口は、勝手に声を出していた。
「……あの人……どうなるの……?」
「あの人?」
レキサさんが首をかしげた。
「さっき……騒いでた人……」
「あ……あの女の人? ああ、毒がかなり蓄積してる感じだったね。……もしかして、触られたりした?」
無意識に首を横に振っていた。
僕がレネーマの首を絞めたこと、僕の手にレネーマの爪が深く食い込んだこと、どちらも言えなかった。
「人にうつすと厄介だから、おそらく今ごろ拘束してるんじゃないかと思うよ」
「……治るの? ……さっき、完全に毒に飲まれたら……助からないって……」
自分の声が震えている。
その声は、まるで誰か他の人がしゃべっているのを聞いているみたいな感じだった。
「どうかな。ちょっと分からないな」
「治らないとどうするの? 殺すの? レネーマを……殺すの……?」
レキサさんが戸惑ったような表情を浮かべる。
「……助けてよ。殺さないでよ……!」
僕の口は勝手にしゃべり続けていた。止まらなかった。
「お……お、お母さんなんだ! あんなのでも、僕の……お母さんなんだ! 治してよ……っ! ねえ! 元のレネーマに戻してよ! 本当はちゃんときれいな人だったんだ! すごく優しかったんだ! だから……! だから……っ! 助けて……っ、レネーマを殺さないで……!」
さっき僕はレネーマを殺そうと思った。
レネーマなんかいなくなってしまえばいいって思った。
でも……だけど……。
「分かった。任せて」
レキサさんは僕の肩に優しく手をおいてくれた。
「君のお母さんは、絶対に僕が治す。約束する。任せて」
僕は何もしゃべれなくなって、その場にしゃがみ込んだ。
レキサさんがいなくなったあとも、僕はしばらくそこから動けなかった。




