piece.14-10
シロさんかと思ったけれど、手の感じが違った。
あわてて抵抗しかけた時、耳元に優しい声がかかった。
「驚かせてごめんね、レキサです。僕のこと覚えてるかな? 大丈夫、君のことは逃がしてあげるから……」
僕が力を抜いたことが分かると、レキサさんはそっと僕を解放してくれた。
「そのかわり、セリ姉に会ったら伝言をお願いしたいんだ。できれば……なるべく早く……」
レキサさんはすごく真剣な顔で、僕のことを見た。
レキサさんの目を見たら、嘘をつくことはできなかった。
「……ごめんなさい。実はセリちゃんとはぐれてしまって、僕も今……探してるんだ……」
レキサさんの落胆の表情が、僕の胸に刺さる。
「そっか……。たぶん、セリ姉はこの街にはもういないと思うよ。
でもきっとそんな遠くにはいないと思う。なるべく早くセリ姉と合流してほしんだ。僕は単独行動させてもらえないから。だから探しに行けない」
セリちゃんが近くにいる……?
僕はすがる思いで、レキサさんに尋ねた。
「セリちゃんの居場所……分かるの?」
レキサさんは少し考え込むような表情を見せ、話し出した。
「最近、急にこの周辺で子供が増えたの、知ってる?」
「あ、はい、えっと、それまではいなくなるって言われてたのに、今度は増えてるんですよね?」
レキサさんはうなづいた。
「子供をさらって売り飛ばしている組織がいたんだ。そのアジトが――把握している分だけでも三か所、この短期間に潰されてるんだ」
「潰されてる?」
「うん。急に子供が増えたって言われてるのは、捕まっていた子供たちが解放されて、行く当てのない子たちが、こういう大きな街に住み着いたから。
だから今、ディマーズが総出で、家まで帰してあげたり、親を探してあげたり、……治療が必要な子は、保護したりしてるところなんだ」
「それがセリちゃんとどういう関係が?」
「……その組織を潰してるのは……セリ姉だと思う」
レキサさんは、僕の目をまっすぐ見ながら言った。断定しているような口ぶりだった。
「どうしてそう思うの?」
「……『すごく強い女の人が助けてくれた』『踊ってるみたいにきれいだった』
保護した子供たちから確認した情報だよ。
……残念ながら証言は子供たちからしか入手できなかったんだ。
大人は――全員、殺されていたからね……」
セリちゃんだ。
僕は確信した。絶対にセリちゃんだ。
「……アスパードっていう男がいるんだ。
その男とセリ姉を、絶対に会わせないでほしい。
セリ姉に会ったら、『お願いだからアスパードには近づかないで』って伝えてほしいんだ」
アスパード? 誰だろう……。
「アスパードを見つけたら、絶対にセリ姉はあいつを殺そうとする。
でも、絶対にそれはダメなんだ。あんな毒まみれのやつを殺したりなんかしたら、セリ姉は、今度こそ完全に毒に飲まれてしまう」
「待って。レキサさん、話が急すぎて」
「アスパードはセリ姉に異常に執着してる。わざわざディマーズの本拠地リリーパスまで来て、ひどいことをして……。
セリ姉がおかしくなってディマーズを脱走したのも、あいつのせいなんだ。
絶対にあいつに近づいてほしくない。でも、セリ姉は絶対にアスパードを許さないと思う。
でもあいつの近くにいたら――、あんなに強い毒を持つやつに近づいたら――、その毒がセリ姉に移ってしまう。
手遅れになる前に、一刻も早くディマーズに戻って治療を再開してほしいんだ。
今ならまだ間に合うから! 毒に完全に飲み込まれたら……もう……助けられない……」
レキサさんの表情から、すごく緊迫した気配が伝わってきた。たぶん、すごく急がなければいけないのだということも。
「セリちゃんはどうしてそのアスパードってやつを……殺そうとしているの……?」
「……僕はそのとき、まだディマーズにはいなかったから、人から聞いたことしか言えないけど……」
レキサさんは、そう前置きをして話し出した。
セリちゃんがどうしてディマーズに追われるようになったのかを――。




