表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流転するアルケウス ~inherited Meme~  作者: イトウ モリ
第14章 由縁の紫 ~pollution~
150/395

piece.14-10



 シロさんかと思ったけれど、手の感じが違った。

 あわてて抵抗しかけた時、耳元に優しい声がかかった。


「驚かせてごめんね、レキサです。僕のこと覚えてるかな? 大丈夫、君のことは逃がしてあげるから……」


 僕が力を抜いたことが分かると、レキサさんはそっと僕を解放してくれた。


「そのかわり、セリ姉に会ったら伝言をお願いしたいんだ。できれば……なるべく早く……」


 レキサさんはすごく真剣な顔で、僕のことを見た。

 レキサさんの目を見たら、嘘をつくことはできなかった。


「……ごめんなさい。実はセリちゃんとはぐれてしまって、僕も今……探してるんだ……」


 レキサさんの落胆の表情が、僕の胸に刺さる。


「そっか……。たぶん、セリ姉はこの街にはもういないと思うよ。

 でもきっとそんな遠くにはいないと思う。なるべく早くセリ姉と合流してほしんだ。僕は単独行動させてもらえないから。だから探しに行けない」


 セリちゃんが近くにいる……?


 僕はすがる思いで、レキサさんに尋ねた。


「セリちゃんの居場所……分かるの?」


 レキサさんは少し考え込むような表情を見せ、話し出した。


「最近、急にこの周辺で子供が増えたの、知ってる?」


「あ、はい、えっと、それまではいなくなるって言われてたのに、今度は増えてるんですよね?」


 レキサさんはうなづいた。


「子供をさらって売り飛ばしている組織がいたんだ。そのアジトが――把握している分だけでも三か所、この短期間に潰されてるんだ」


「潰されてる?」


「うん。急に子供が増えたって言われてるのは、捕まっていた子供たちが解放されて、行く当てのない子たちが、こういう大きな街に住み着いたから。

 だから今、ディマーズが総出で、家まで帰してあげたり、親を探してあげたり、……治療が必要な子は、保護したりしてるところなんだ」


「それがセリちゃんとどういう関係が?」


「……その組織を潰してるのは……セリ姉だと思う」


 レキサさんは、僕の目をまっすぐ見ながら言った。断定しているような口ぶりだった。


「どうしてそう思うの?」


「……『すごく強い女の人が助けてくれた』『踊ってるみたいにきれいだった』

 保護した子供たちから確認した情報だよ。

 ……残念ながら証言は子供たちからしか入手できなかったんだ。

 大人は――全員、殺されていたからね……」


 セリちゃんだ。


 僕は確信した。絶対にセリちゃんだ。


「……アスパードっていう男がいるんだ。

 その男とセリ姉を、絶対に会わせないでほしい。

 セリ姉に会ったら、『お願いだからアスパードには近づかないで』って伝えてほしいんだ」


 アスパード? 誰だろう……。


「アスパードを見つけたら、絶対にセリ姉はあいつを殺そうとする。

 でも、絶対にそれはダメなんだ。あんな毒まみれのやつを殺したりなんかしたら、セリ姉は、今度こそ完全に毒に飲まれてしまう」


「待って。レキサさん、話が急すぎて」


「アスパードはセリ姉に異常に執着してる。わざわざディマーズの本拠地リリーパスまで来て、ひどいことをして……。

 セリ姉がおかしくなってディマーズを脱走したのも、あいつのせいなんだ。

 絶対にあいつに近づいてほしくない。でも、セリ姉は絶対にアスパードを許さないと思う。

 でもあいつの近くにいたら――、あんなに強い毒を持つやつに近づいたら――、その毒がセリ姉に移ってしまう。

 手遅れになる前に、一刻も早くディマーズに戻って治療を再開してほしいんだ。

 今ならまだ間に合うから! 毒に完全に飲み込まれたら……もう……助けられない……」


 レキサさんの表情から、すごく緊迫した気配が伝わってきた。たぶん、すごく急がなければいけないのだということも。


「セリちゃんはどうしてそのアスパードってやつを……殺そうとしているの……?」


「……僕はそのとき、まだディマーズにはいなかったから、人から聞いたことしか言えないけど……」


 レキサさんは、そう前置きをして話し出した。


 セリちゃんがどうしてディマーズに追われるようになったのかを――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ