piece.14-9
レネーマに背を向け、走り去ろうとしたとき、誰かにぶつかった。
そのときに足を引っかけられたみたいで、僕は盛大に転ばされた。
転んだときに、斧が手から離れて、鎖がやけに大きく音を立てた。
「貴様、その鎖をどこで手に入れた?」
鋭い声に思わず体がすくむ。この威圧的な声は――知っている人の声だった。
「それは我々ディマーズの鎖だ。なぜ貴様が持っている? ……貴様、前にどこかで見たな……」
ディマーズのアダリーさんだ。
あわてて立ち上がり、逃げようとした。だけどアダリーさんが斧を踏みつけた。
「鎖を返せ! 貴様のものではないだろう!」
「ダメだ! この鎖は持ち主に返すんだから! 持ち主以外に返すもんか! 斧、踏むなよ! 大事なものなんだから!」
僕はアダリーさんの足の急所に、手首に仕込んだ棒を使って渾身の力で叩きつけた。呻いて怯んだアダリーさんから、斧も鎖も無事に奪還する。
「――その鎖はレミケイドのものだ!」
アダリーさんが足を押さえながら叫んだ。僕も叫び返した。
「じゃあそのレミケイドさんって人に直接返すんだからほっといてよ!」
アダリーさんの顔が歪んだ。
今まで見たどのアダリーさんよりも怖い顔をしていた。
「レミケイドは……レミケイドはもういない……! 【皆殺しのセリ】が殺した!
お前が返す相手はもういない! 私が受け取る! 私によこせ!」
その悲鳴のような叫びを、僕はすぐに理解できなかった。
ただアダリーさんが怖くて、夢中でつかみかかってくるアダリーさんを振り払って逃げた。
僕は逃げた。
僕はレネーマから逃げた。アダリーさんからも逃げた。
セリちゃんの仲間だってバレた。
たぶんこのままじゃ僕も捕まる。
捕まったらセリちゃんを探しに行けなくなる。
そしたらもう会えなくなるかもしれない。
そんなのは嫌だ。
どこをどう逃げたのかはもう覚えていなかった。
薄暗くて狭い路地に入って、ゴミの山に身を寄せて隠れた。息を殺して、人の気配をうかがう――。
ずっとそうやって生きてた。
まるで、セリちゃんに会う前に戻ったみたいだ。
すごく情けなくて、情けなさすぎて笑えてきた。
やっぱり僕は、セリちゃんがいないとダメなんだ。
僕にはやっぱり、こういう暗くて汚い路地がお似合いで……ゴミみたいに生きるのがお似合いで……。
「――っんぐ……っ!」
まったく気配なく背後から忍び寄った誰かに、僕は口を塞がれた。




