piece.14-5
僕は質問を続けた。
「セリちゃんに見つからないようにしながら、オレを連れ出してどうする気だったの?
オレのことをセリちゃんから引き離して、どうする気だったの? 今のこの状態って、シロさんにとっては思った通りの展開になってる? なにが目的なの?」
シロさんは僕に背を向けたまま答える。
「べーつーにー。前に言っただろ? ただの時間つぶしさ。悪だくみなんかしちゃいねえよ。
ナナクサ団長様が直々に即席キャラバンを解散させたし、しばらくやることもねえから女装やめてふらふらしてたらよ、あのアホたれが俺のことを探し回ってんの。
めんどくせえなあって思って適当に隠れてみてたら、お前が一緒にいねえじゃん? どこで留守番させてんのかなあって思って、様子見に行ったらベソかいて泣いてんじゃん?
んで話してたら勝手についてきたいって言い出すじゃん?
だからこうなってんだけど、それをお前……企んでるとかさ。被害妄想しすぎじゃね?」
……あれ? なんだろう……。なんか僕が悪いみたいな気がしてきた……。
え……? もしかして……この事態って……全部僕のせい……?
シロさんの方を見たら、いつの間にかこっちを向いていて、僕を馬鹿にしたように笑っていた。
「ふはっ! 青くなってやんの!
ま、思ったよりも楽しかったしな。いい時間つぶしになったし、だから一個おもしろいネタを教えてやるよ」
シロさんが寝っ転がりながら、荷物をあさり始め、一枚の紙を出して僕に渡した。
折られた紙を開いてみると――。
「……なにこれ。馬鹿にしてんの? おもしろいってこのラクガキのこと? こんなヘタクソでひどい絵を見てなにを笑えって?
僕は真面目な話をして……って、シロさん!!」
シロさんが笑いをこらえている。
「それな……あいつの描いた、俺の似顔絵……っ」
「――え?」
セリちゃんが描いた、シロさんの似顔絵?
――え? これ、似顔絵だったの? どのへんが?
「ちなみにそれが俺の似顔絵な。んでこっちはナナクサしてるときの俺の似顔絵らしい」
シロさんがもう一枚の紙を出してくる。二つの絵の違いが、僕にはまったく分からなかった。
……あ。もしかしてこのいっぱい生えてるトゲみたいなのって、ナナクサが髪に挿してた飾りかな?
え? じゃあここが頭? え? どこまでが顔?
ダメだ……。ちょっと人の似顔絵だということすら僕には理解できない。
僕の困惑した顔を見て、シロさんが吹き出した。
「すげえだろそれ。あいつがさ、俺を探して、いろんな店にその似顔絵配って聞き込みしててよ。
おもしろいから、あいつが声かけてた店に頼んで、その似顔絵を譲ってもらったのさ。
ちなみに誰も俺がその似顔絵の本人だって気づきゃしねえ。当たり前だけどな」
セリちゃん……。
こんなに絵が下手だったなんて、僕びっくりだよ。
でもなんだろう。この絵を一生懸命描いているセリちゃんを想像すると、どうしてか顔がにやけてしまいそうになる。ちょっとかわいいかもしれない……。
そうだ。セリちゃんと合流できたら、またあの村に戻って、絵のうまいお母さんの所へ習いに行こう。うん、そうしよう。
「……それが、おもしろい話?」
僕はシロさんの意図が読めなかった。
まあ、意外なセリちゃんの一面が知れたのは、ちょっと嬉しいけど。
「まだ分かんねえ? 大の女がガキのお絵描きレベルを遥かに下回る似顔絵もって人探ししてんだぞ? 強烈すぎるだろ。
お前、その絵のインパクト……今日明日中に忘れられるか? しかもそんなおかしな女は、実は立派なお尋ね者だ。目立たねえわけねえだろ?」
僕はシロさんの言わんとしていることが分かったような気がした。
「わかった! つまり……」
「『ヘタクソな絵を持った、お尋ね者の変な女を見たか?』って聞けば、あいつの足取りを追えるってわけだ」
言い方が良くないけど、つまりはそういうことだ。
セリちゃん……!
もうすぐでセリちゃんに追いつける。
もうすぐセリちゃんに会える。
早くセリちゃんに会いたかった。




