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流転するアルケウス ~inherited Meme~  作者: イトウ モリ
第2章 荼毘の赤 ~annihilation~
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piece.2-6




 目が覚めた。


 誰もいない。


 セリちゃんの姿が見当たらなくて、僕は体が一気に冷たくなった。


 でも自分の手の中に鎖があるのに気づいて、少しだけほっとする。鎖の先にはセリちゃんの宝物である小さな斧がつながっている。


 大丈夫。セリちゃんはちゃんと戻ってくる。


 セリちゃん、どこ行ったんだろ。おしっこかな?


 まだほんの少しだけ火が灯っているランタンを手に持って、洞窟の出口の近くまで歩いていってみる。


 外から赤い光が差し込んでいた。

 夕日の色じゃない。朝日でもない。もっと真っ赤な色だ。


 変なにおいもする。変な音も――。


 思わず僕は走って洞窟を飛び出す。僕が目にしたのは、大きな炎だった。





 大きな炎が、昼間のように村の中を明るくさせていた。

 僕は引き寄せられるようにその炎に近づいていく。


 炎の音。炎の熱。


 すごすぎて、怖くて、あまり近くには行けなかった。


 炎の中で、影たちが踊っていた。


 剣を持って踊る影――。


 一人だけすごく踊りが上手な影がいる。踊りが下手な影たちは倒されて――影の数はどんどん減っていく。


 その光景を見て、急に僕は思い出した。


 ずっと前に、街へ旅団(キャラバン)の人たちが来たことがあって、今みたいな劇をしてくれたことを。


 宣伝のために、ほんの少しだけ、街の広場でやってくれたのだった。もっとすごいのはお金を払った人しか見れなかったけれど、それでも僕はすごいと思った。


 きれいな服を着た人たちが、今みたいに剣を持ちながら、すごい技を出して踊っていた。


 その劇のことを僕は思い出していた。


 バサァッと大きな羽ばたきが聞こえる。

 強い風が巻き起こり、火の粉が夜空に舞う。


 上を見上げると、夜空の中を炎に照らされて、巨大な羽のある化け物が空を飛んでいるのが見えた。


 ――(ドラゴン)だ。


 竜は口から激しく炎を吹き出し、あたりを焼き払うと、影の隣に降りていった。


 もう、影は一人しかいない。

 たぶん、あの踊りが一番上手だった影だと思う。


 そして竜は長い首を下げると、踊りを止めた影に頭をなでてもらっていた。


 炎が燃える音に紛れて、小さな音楽が聞こえてきた。ポンポンというような何かを叩いて鳴らしている音だ。


 竜の足元にとても小さな影がいくつも現れた。その小さい影たちが踊り出す。


 一度踊るのをやめた影も、もう一度踊り出した。もう手に剣は持っていない。


 風に乗って歌声が聞こえてくる。


 どこかで聞いたことのある歌だった。どこで聞いたのかは全く思い出せないけれど。


 とても悲しくて、優しい歌だった。



 僕はその歌を、どこで聞いたんだろう?



 舞い上がる火の粉が、夜空に向かって昇っていく。


 きっと火の粉は、空の星になりたいのかもしれない。


 僕はその無数の小さな赤い光を、ただずっと見上げていた。


 星になれたらいいね、と思いながら――。



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