piece.13-10
「なんか、俺の思ってたのと違う展開だな……」
僕が動揺している横で、シロさんはすごく真剣な顔で考え込み始めた。
僕は警戒しながら、そっとシロさんの表情をうかがう。
しばらく考え込んでいたシロさんは、突然大きなため息をつくと、大の字にひっくり返った。
「あーダメだ! やめやめ!
あのアホたれがなに考えてんのか分かんねえのなんて、今に始まったことじゃねえし!
……っとにあいつは思った通りにならねえ女だな。くそ、セリって女はどいつもこいつも……」
シロさんはさらに舌打ちをして、ごろんと横寝してしまう。
あれ? 野営の準備は? もしかして、残りは僕が全部やるの?
……ん?
――セリって女はどいつもこいつも?
「……え……? セリちゃんって、たくさんいるの?」
シロさんがうんざりした顔でこっちを向いた。
「あんなアホたれが何人もいるかよ。俺たちの名前は使い回しなんだよ。
ナナクサが死ねば次の誰かがナナクサになる。それと同じで、あいつが『セリ』って名乗る前に『セリ』をやってた女がいたってこと」
「……セリちゃんの前に『セリ』だった人……?」
「あれとは比べ物にならねえくらい、超〜いい女だったんだぞ」
シロさんが寝転がったままニヤリと笑った。
「セリちゃんを『あれ』とか言わないで。あとセリちゃんはアホたれじゃないから」
シロさんは僕の文句を鼻で笑い飛ばすと、起き上がって野営の準備を再開した。
「まあそんなわけで、俺たちはその辺の雑草と同じ扱いなわけさ。いくらでも代わりは生えてくる。
要は使い捨てなんだよ。それが俺たち【ナナクサ】ってキャラバンの正体だ」
『そんなわけで』なんて言葉でまとめられても、僕はまったく話について行けなかった。
「待ってよ、意味が分からないよ。使い捨てってどういうこと?」
「お前が前に言ってただろ? 人間の『毒』ってやつの話。
毒持ちの人間を殺すと、そいつの毒は殺したやつにうつるのさ。全部じゃねえけどな。
『毒持ちの人間は消したい。でも自分の手は汚したくない』……そう考えてるやつが世の中にいるってことさ」
僕は言われてることが、やっぱりまだ理解できなかった。
そんな僕の顔を見て、シロさんが笑った。
その笑い方が優しすぎて、僕はなんだか胸が苦しくなった。
「『世界をきれいに浄化したい』……そんなご立派なお考えをお持ちのお偉いさんがこの世界にはいらっしゃるのさ。
ただし自分たちの手は汚したくない。なんてったって、毒を消して回るきれい好きな人間は、いずれは自分が毒まみれになって、きれいな世界に相応しくなくなっちまうからな。
どうだカイン? お前はそんな『きれいな世界』のために、そんな汚れ役やりたいか? やりたくねえだろ?」
シロさんがナナクサの表情をしていた。
笑っているのに笑っていない……。
あまりにも綺麗すぎる、作り物の笑顔――――。
「だから拾ってくるんだよ。汚れたって文句も言わねえような、消えても誰も悲しまないような、雑草みたいなガキをさ……」
シロさんの目の奥に、真っ暗な闇がある。
初めてシロさんに会ったとき、僕はシロさんの目の奥にこの闇を見た。
あの時は、ただ怖いと思った。
でも今は違う。
その目を見ていると苦しくて、僕は息ができなくなった。
すごく、悲しいと思った。
そして同じだけ、すごく腹が立った。




