piece.13-9
朝になり、街道沿いの休憩所に到着すると、シロさんはいつの間にか盗み出していた備品や宝石、さらに変装に使った女装用の服も、みんなまとめて売ってしまった。
連れてきた馬も、売り払ってお金に変える。
そして一息つく間もなく、そのお金で食料や必要な道具に交換すると、すぐに休憩所を出発した。
たぶん証拠の隠滅なんだろうな。
そんなことを思いながら、僕は黙ってシロさんの後ろをついていった。
街道を避けて、歩き続けているうちに森に入った。どこに向かっているのかは全然分からなかった。
時間的にはまだ昼くらいだと思うけど、森の中は暗い。
まだ歩くつもりなのかな……。
心配になりながら、僕はシロさんと歩き続けた。
会話は一切ない。シロさんも僕も、一言もしゃべらなかった。
僕は頭の中で、どうやって質問したらシロさんが答えてくれるかだけを考えていた。
でも、なんて切り出したらいいのか、まだ分からなかった。
シロさんが立ち止まった。
どうやら野営の準備を始めるらしい。
僕も黙って一緒に準備をする。
頭の中では、ずっとどうやってシロさんにしゃべらせるかを考えていた。
「あいつの髪……いつから短いんだ?」
シロさんの方から声をかけてきてくれた。『あいつ』とは、セリちゃんのことだ。
シロさんの方から話してくれた……!
喜んでることをシロさんに悟られないように、僕はなるべくいつもと変わらない表情で質問に答えた。
「……オレと初めて会ったときは、もう短かったよ。手配書のセリちゃんの髪は、すごく長かったけど。
キャラバンにいたころからセリちゃんは、髪が長かったんだ?」
シロさんは静かに「ああ」と答えた。
僕に背を向けているから、表情は分からない。
でも心なしか、その声は疲れているように聞こえた。
「……あいつ、俺が化けた団長様を見て、どんなこと言ってた?」
セリちゃんが僕にナナクサの話をしてくれたのは、グートの屋敷に行く前の日だった。
一緒のベッドで横になりながら、セリちゃんは僕にナナクサの話をしてくれた。
あの時の泣いてるセリちゃんの顔を、僕は今でも鮮明に思い出せる。
「シロさんのナナクサは、自分の知ってるナナクサじゃないって言ってた。本当のナナクサを殺してしまったのは自分だからって。
だけど、きっとあのナナクサはキャラバンの生き残りの人だから、会って話をしてみたいって言ってたよ。
きっと、シロさんだとは気づいてなかったんじゃないかな」
「……ちょっと待て」
シロさんが僕の言葉を中断させた。
「『殺した』? あいつがそう言ったのか?」
シロさんが驚いた顔で僕を見ていた。
しまった……! これ、言わない方がいい話だった!?
僕はもしかして、取り返しのつかないことをしゃべってしまったのかもしれない。
セリちゃんとシロさんが仲良しだなんて話を、そもそも信じちゃいけなかったんだ。
シロさんがナナクサと仲が悪かったっていう話だって、適当にシロさんがその場で言っただけの話かもしれなかったのに。
実はシロさんはナナクサのことが大好きで、ナナクサを殺したセリちゃんのことを恨む可能性だってあるのに。
僕は自分の軽率さを呪った。




