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流転するアルケウス ~inherited Meme~  作者: イトウ モリ
第13章 截然の紫 ~revelation~
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piece.13-6



 なんとなく気配でわかった。入ってきたのは、シロさんではない。別の誰かだ。


 思わず左手首に仕込んであるナイフを確認した。それからやっぱり考え直して、右手首に隠してある棒の方を取り出して、手の中に握り込んだ。


 気配が近づく。息づかいは男のものだ。


 寝たふりをしながら距離をはかる。


 まだ遠い。……もう少し。――今だ!


 飛び起きてまずは枕を相手にぶつけた。そのまま飛びかかって、急所に思いっきり――……!


「ん?」


 僕の目の前にいたのは、僕たちを歓迎してくれた貴族のおじさんだった。


「あれ……部屋、間違ってますよ?」


 僕は女の子の声で言った。


 酔っぱらいすぎて部屋を間違えたのかもしれない……と、思いたい。

 でも実はもう僕の頭の中では、なんとなくこの後に起きそうな展開が読めていた。


 貴族のおじさんが、僕の手をつかんでベッドに押し倒した。


 やっぱりだった……。

 どうしようかな、やっつけちゃっていいかな。


「大人しくするんだな……でないと、お前の連れの女もただじゃ済まないぞ」


 おじさんが僕の部屋に来ただけじゃなくて、どうやら別の人がシロさんの部屋へも行っているらしい。


 ……そっちに行った人、大丈夫かな……?


 ついつい自分のことよりも、そっちの人を心配してしまう。きっとひどい目にあわされているはずだ。助けに行ったほうがいいかもしれない。


「あの女にひどいことをされたくなかったら、ここに残ると言え。

 そうしたら死ぬまで贅沢をさせてやるぞ? どうだ? お前らみたいな下賤(げせん)流浪(るろう)の民にはもったいない申し出だろう?」


 気持ちの悪い笑みを浮かべて、貴族のおじさんが僕の体をなでまわす。そしてやっぱり息が酒臭い。かなり酔っ払っているみたいだ。


 あんなにいい人だったのに……。

 酔うと性格が変わるタイプなのかもしれない。


 それより、触り方が気持ち悪い……っ!! ていうかたぶんこのままじゃ男だってバレる……!


「お……お姉様に何をしたの……!?」


 僕は女の子の声で、怯えたふりをしながら抵抗を試みる。

 たぶんシロさんのことだから大丈夫だと思うけど、一応シロさんがどういう状況になっているのか、ついでに聞き出してみる。


「あの女なら今頃……」


 と、言いかけておじさんが僕の胸に顔をうずめた。


 おえっ! やっぱり無理! 気持ち悪い!


 思わず反射で蹴っ飛ばした。おじさんは思ったより手ごたえもなく、簡単に転がった。


 その先に人影が立っていた。

 いつからいたのか……僕は全く気配に気づけなかった。


「やれやれ……。アタシよりも大物を釣るなんて。おもしろくないねえ」


 ナナクサが立っていた。


 いつから部屋にいたんだろう。全然わからなかった。


 ナナクサはクタクタに脱力した貴族のおじさんをつかむと、その場に座らせた。


 その時におじさんの首筋で、何か細いものが光ったのが見えた。


 ――細い針だ。


 いつの間に刺していたんだろう。

 部屋に入ってきたときには刺さってはいなかったはずだ。


 たぶん針にしびれ薬か何かが塗られていたのかもしれない。


 おじさんは抵抗する様子も、逃げる様子もなく、両手をだらりと下げたまま、おとなしく座っていた。


 けれどその目だけは、恐怖なのか怒りなのかは分からないけれど、異様な光を宿して見開かれていた。


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