piece.13-5
「カイーン。こっちこっちー!」
え? セリちゃん? ……セリちゃんの声がする。
セリちゃーん。セリちゃん、どこー?
「ここだよカイン。ここー!」
えー? どこー? セリちゃーん? 出てきてよー!
「ここだよカイン。ここ!」
セリちゃんがパッと現れて、僕のことをぎゅーって抱きしめてくれる。
――はうっ!?
僕は頭が真っ白になってしまった。
おかしい……! いつものセリちゃんの感触と違う……!
……嘘だ。ま……まさか……!
こ……この感触はまさか……!? この柔らかさは……!!
おそるおそるセリちゃんの顔を見上げた。
セリちゃんは僕の視線に気づくと、顏を赤らめて、恥ずかしそうに微笑んだ。
「……あ。もしかして、分かっちゃった?
あのね……実はね……今日、私……巻かない日なの……」
ピシャァァァァァァァァァ――――ッ!!
僕の頭の中に雷が落ちた――ような衝撃が走った。
ま、巻かない日!?
なんてことだ! セリちゃんの中で、そんな特別な日があったなんて知らなかった!
つまり今日のセリちゃんは、あの布を胸に巻かないと決めている日ということで!!
つまりそれは、セリちゃんの胸にはあの邪魔な布が巻かれていないということで!!
だから――だからこんなに……っ!!
柔らかいのかぁ――――っ!!!!
……かいのかぁ――――っ!!!!
……のかぁ――――っ!!!!
……かぁ――――っ!!!!
巻かない日最高! 巻かない日エブリデイ! 巻かない日よ永遠なれ!!
「……あ! もう、こらカイン……あんまり強くぎゅーしたら……つぶれちゃうから……。
お願い……優しく……して……?」
もちろんっ!!
つぶさないように優しくしま――――ぁっしゅ!!
僕の頭と胸が謎の大爆発を起こし、僕の体は意思とは無関係にセリちゃんを押し倒し――――。
どてっ。ぐきっ。
「――いったた!」
ベッドから落ちて目が覚めた。
すぐに辺りを確認する。
暗い。
広い部屋。
もちろん僕しかいない。
「……セリちゃん……?」
呼びかけてみたけど、セリちゃんはもうどこにもいない……。
……夢だった……。
そんな……そんなことって……ひどい……ひどすぎる……!
柔らかいセリちゃんと、もうちょっとぎゅーとかスリスリがしたかったのに……!
僕は一緒にベッドから落下したふわふわの枕を持ち上げた。
セリちゃんの正体はたぶんこいつだ。
ふかふかでふわふわでさらさらの感触。思わず抱きしめてみる。
……くそ! 本物のセリちゃんはこんなもんじゃないんだ!
セリちゃんの方が絶対にもっと柔らかいんだ。そんでもっといいにおいがするんだ!
こんな枕なんか……こんな枕なんか……っ!
「――――っセリちゃんっ!!」
枕をベッドに押し倒す。
枕にスリスリして、この感触はセリちゃんなんだと自分に言いきかせる。
セリちゃんとぎゅーしたい。めちゃくちゃぎゅーしたい。ああもうセリちゃん! セリちゃんっ!! しゅきしゅきだいしゅっきっ!!
――キィ……。
そっとドアが開く音がした。
静かに――。
音を立てないようにそっと開けられた音だった。




