piece.13-4
豪邸にはあっさり入れてもらえた。
旅の踊り子姉妹という設定で、まったく疑われずに招待してもらえた僕たちは、とても綺麗で豪華な部屋を、ひとり一部屋ずつ用意してもらえた。
シロさんが僕にこっそり耳打ちする。
「こういうのはやっぱり女じゃなきゃ上手くいかねえんだよなあ。
男でやっても成功したことがねえんだ。基本は門前払い。ほ~んとに女って得だよなあ」
シロさんは、すでに何度もこの方法で成功しているらしく慣れたもんだ。
でも僕は気が気じゃない。
ボロが出ないようにずっと大人しくしていた。
とても豪華な夕食にもありつけた。大きなテーブルいっぱいに料理が並ぶ。
もちろん僕たちは踊り子という設定なので、貴族のおじさんに――名前が長すぎて覚えられなかった――食事をするとき、踊りを催促された。
踊るのはもちろんシロさんだ。僕は楽器を担当する。
実はちょっと前から、シロさんに簡単な曲を教えてもらっていたので、2,3曲なら一応は弾けるようになっていた。
当然だけど、シロさんはナナクサなので、やっぱり踊りはすごく上手だった。
僕のたどたどしい演奏がちっとも気にならなくなるくらい、シロさんの踊りは貴族のおじさんや、お屋敷の人たちを魅了した。
中身がシロさんだって知っているはずの僕でさえ、なんだかドキドキして変な気持ちになってしまいそうだった。
それくらいナナクサは、やっぱりきれいな女の人だった。
一目見てしまうと、もう何も考えられなくなってしまう。
心を奪われるって、きっとこういうことを言うのかもしれない。
僕はナナクサの踊りを見ながら、気がつくと手が止まっていたみたいで、何回かデコピンをされてしまった。
もちろんナナクサのデコピンも、すごく痛かった。
おいしい料理をいっぱい食べて、おいしいお酒をいっぱい飲んで、僕はとっても幸せな気持ちになった。
そして部屋はシロさんと別々だし、お湯も用意してもらえて体も洗えたし、ベッドはふかふかでいい匂いがするし、最高だった。
女装をするだけで、お金もかけずにこんな贅沢ができるなんて思わなかった。
グートみたいな嫌なお金持ちもいるけれど、ここのおじさんはいいお金持ちの人なのかもしれない。
きっとこれならシロさんも大満足だろう。
そしたら、あとは僕の質問にたくさん答えてもらおう。
僕はベッドに横になると、シロさんへどういう質問をしようか考えることにした。
えーと、まずはセリちゃんが今どこにいるのか。これが一番大事な質問だよね。
セリちゃんは前に、『ナナクサは自分の知ってる人だった』って言ってた。つまりナナクサの正体がシロさんだって分かってたってことだよね。
つまりセリちゃんが会いに行ったのは、シロさんのはずなんだ。
だけど、本来ならシロさんはセリちゃんと一緒にいるはずなのに、当のシロさんはといえば、なぜか僕と一緒にいる。
でもシロさんは前に、『セリちゃんはシロさんが生きてることを知らないはずだ』って言ってた。
……これはシロさんの嘘?
……『はずだ』っていう言い方が怪しいな。もしかして、これが言葉の綾ってやつ?
僕がシロさんのいいように踊らされてただけなのかも。……くそ、腹立つ。
――そういえばシロさん、前に『人をいろんな意味で踊らせるのが得意だ』って言ってたな……。
悔しい。完全に僕のことを踊らせながら、あのセリフを言ってたんだな……腹立つ。
そもそもシロさんは『セリちゃんと超仲良しだ』って言ってたけど、それも本当に本当なのか怪しい……。
だってシロさんはセリちゃんのこと刺した上に、ナイフに毒まで塗ってたし、その後くれた毒消し草も激マズだったし……。
もしかして、シロさんはセリちゃんのこと……実は嫌いとか……?
でもシロさんがセリちゃんとの思い出話をしてくれたときの顔は、嫌ってるような顔じゃなかった。
面白がってるような、ふざけてるような……そんな感じだった。
セリちゃんとシロさんは……本当はどういう関係なんだろう。
……セリちゃん……。
セリちゃんに、早く会いたい……。




