piece.13-3
ナナクサがシロさんの声で笑った。
「だましてねえよ。嘘は言ってねえだろ?」
僕はシロさんにつかみかかった。
「――っよく言うよ! 噓ばっかりじゃないか! ナナクサと仲が悪いとか……っ、別行動中だとか……っ、噓ばっかり……セリちゃんのこと刺したり、濡れ衣着せたり、全部……っ、全部シロさんが仕組んだ罠じゃないか……っ! 最低だ!
オレはシロさんのおもちゃじゃない! 最低だ! 何がしたいんだよ! 嘘つき! ふざけんな!」
「落ち着け。泣くな。化粧が流れる」
シロさんがデコピンしてきた。
いつもと変わらないみたいに。僕を適当にあしらうときみたいに。
ひどい……。
僕がどんなにショックを受けてるかなんて……、どんなに傷ついたかなんて……シロさんはとっては、たいしたことじゃないんだ……。
くそ。泣きたくなんかないのに。
悔しすぎて涙が出てきた……。
ああもう……腹立つ。悔しい。めちゃくちゃ腹立つ……!
僕は思わず目をこすった。
「あ! こら! 化粧し直しじゃねえかよ! ……ったくよお。
お前は『言葉の綾』って粋も理解できねえのかよ。
俺の言葉を聞いて、自分に都合の良い解釈してたのはお前の方だろう?
嘘って言うのは、Q:『シロさんはナナクサなんですか?』A:『いいえ、違います』……こういうのだろ?
お前、一度でも俺にそこまで切り込んできたことあったかよ? ねえだろうが」
なんで僕が悪いみたいな言い方をされてるんだろう。絶対にシロさんの方が悪いはずなのに……。
「普通そんなの、考えるわけないよ……。だって……ナナクサは女で、シロさんは男なんだし。
声だって全然違うし……雰囲気だって……」
「んなこた知るかよ。こっちにも都合があるんだよ。
あの即席キャラバンのメンバーだって、ナナクサ団長様の中身が、男の俺だなんて誰も知らねえんだから。
お前みたいな部外者なんかにバラせるわけねえだろ」
「……え? 即席……? 誰もシロさんがナナクサだって、知らないの?」
シロさんがうんざりした顔をした。ナナクサの顔だけど、表情はシロさんだった。
「すっっげえめんどくせえんだぜ? 一つのグループ内に男女混合ってのは。
すーぐ誰が誰と寝ただの、『アタシの男を盗った』だの『これは俺の女』だの。超めんどくさくてやってらんねえの。
女だけなら女だけ。女同士でまとめた方が面倒が少なくて楽なんだよ」
「……その経緯、詳しく教えてよ。ちゃんと、オレが勘違いしないような言い方でさ。
あと、セリちゃんはどこにいるの? セリちゃんの居場所、本当に知ってるの? オレに教えてくれる気あるの? 会わせてくれる気あるの?」
僕はシロさんの目をまっすぐに見ながら質問した。
だまされないように。
かわされないように。
本当のことを教えてもらうために。
シロさんは、面白そうに目を細めて笑った。
完全にナナクサの表情だ。
思わずドキッとしてしまう。
「貴族様の豪邸で、ゆっくり休養がとれたらな」
……やっぱりかわされてしまった。
シロさんに口を割らせるのって、すごく大変だ。
「やだ。いま話してよ」
「やだ。ボクはうまいもんをたらふく食ってベッドで寝たいんだもん」
シロさんがへなちょこな喋り方で言い返してくる。……腹立つ。
ナナクサの見た目でやられると、余計に腹立つ……。
でもシロさんはこうなると絶対に口を割らない。
僕にできる作戦としては、油断させるか、気が変わるのを待つしかない。
僕は崩れてしまった化粧を直すと、シロさんを睨んだ。
「……約束だからね」
シロさんはふっと微笑んだ。ナナクサの顔で。
「だーから、俺は約束なんて守ったことねーんだって。いい加減学習しろよ」
……絶対に守らせてやる。
こうして、僕とシロさんの『自称絶世の美女コンビ』は、貴族の別荘である豪邸の門へと乗り込んだのだった。




