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流転するアルケウス ~inherited Meme~  作者: イトウ モリ
第12章 哀傷の紫 ~affliction~
128/395

piece.12-13



「さてと、じゃあいよいよ明日には出発すっか。これからは俺とお前の二人旅だなあ」


 シロさんは荷物をまとめ始めた。ロバリーヌとはここでさよならになる。


 ここの家族が飼っている若い(オス)ロバと、ロバリーヌはすっかり仲良くなってしまったのだった。

 このまま引き離すのもかわいそうだということになり、ロバリーヌをお嫁に出すことになった。


 宿のおじさんはロバリーヌを買い取ろうとまで言ってくれたけれど、シロさんが壊したものの弁償もあるし、僕たちはロバリーヌを譲り渡すことに決めた。


 ロバリーヌはこれからここの宿のロバになる。

 今夜の食事からロバリーヌの乳入り料理がふるまわれる。もちろん僕はお腹いっぱい食べるつもりだ。


 ちなみに今夜の夕食代はサービスしてくれるらしい。それは、とっても嬉しい。

 

(メス)は現金だよなあ。あんなに可愛がってやったのに、二、三日ほっといただけですぐ他の(オス)に夢中になっちまってよお」


「……毎回名前を適当に呼んでるからじゃない?」


「だってよお、愛着がわくと……」


 そこから先はシロさんが口をつぐんだ。言うのをやめたらしい。

 でも僕はシロさんが続けようとした言葉がなんなのか、すぐに分かった。


「……あ、分かった。『なんだよお、俺と離れるんじゃねえよお』ってさみしくなるんでしょ?」


 シロさんが僕にデコピンした。


「なんだよそれ。俺の真似のつもりか? 全然似てねえよ」


 似てる。絶対似てる自信がある。そっくりだと思う。


 シロさんは絶対本当はさみしがりやだ。間違いない。

 言ったら殺されるから、口が裂けても言わないけど。


「なあ、そんなことよりここの姉妹、さすがに今夜は最後だし、部屋に来るんじゃねえの?

 お前、いい加減どっちにするか決めたか?」


 シロさんが意地の悪い笑顔を僕に向ける。


 ……うーん、たぶん僕とシロさんがラブラブカップルだと誤解しちゃったから、きっと部屋に来たりはしないんじゃないかなあ。


 なーんて、これも口が裂けても言えないやつだ。僕自身が口にしたくもないし。


「忙しくて無理なんじゃない? お店も大繁盛だし、夜遅くまで営業して、そのあと後片付けしてれば夜中になっちゃうし。きっとそれどころじゃないんじゃないかなあ」


「ちっ、せっかくタダでレベル高めな女とやれると思ったのに……。なんだよつまんねーの!」


 そんなこと言って残念がってるように見せてるけど……本当はシロさんって、ちゃんと好きな人がいるんじゃないのかなあ。


 シロさんが本気で好きになる女の人って、一体どんな人なんだろう。


 あ。そういえば――。


「シロさんってさ、なんでときどきハギって偽名使うの?

 使うときと使わないときがあるよね? お尋ね者ってわけでもないんでしょ?

 女の人に使ってるみたいだけど、どういう意味があるの?」


 シロさんは面倒くさそうに顔をしかめた。

 しばらくなんて返事をしようか考えていたみたいだったけれど――。


「おこちゃまには、な・い・しょ♡」


 と、妙に色っぽいウインクでごまかされてしまった。

 シロさんは言いたくないことは絶対に言わない人だ。


「あっそ。はいはーい。どうせオレはへなちょこなおこちゃまですよー」


 僕は早々に諦める。シロさんに口を割らせるなんて、僕にはまだできない芸当だ。


「んだよ、ふてくされんなよカイン」


 シロさんは笑いながら僕の頭をぐしゃぐしゃになでる。

 僕はいつの間にか『へなちょこ』ではなくなったらしい。



 無性に、(くや)しかった。


 へなちょこじゃないって、シロさんに認めてもらえたことが嬉しくて。


 シロさんにちゃんと名前を呼んでもらえたことが、こんなにも嬉しいなんて。



 こんなことくらいで嬉しいと思っている自分が悔しくて。


 僕はなんだか泣きそうになった。



 そのことが余計に悔しかった。

 

 第12章 哀傷の紫

<AISHO no MURASAKI>

~affliction~ END

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