piece.12-9
シロさんはそのあと、ひどい咳をするようになってしまった。
どんどんひどくなっていって、息をするのも大変そうだった。
姉妹さんたちが心配して、お医者さんを呼んできてくれたのは夕方だった。
「これは……カンデラの胞子を吸ったのかもしれないね」
お医者さんが言うには、これを吸ってしまうと咳が止まらなくなるのだそうだ。
小さい子供やお年寄りが吸ってしまうと、命に関わることもあるらしい。
「若い人なら、死ぬ可能性は低いけれど……」
絶対に死なないとは言い切れないという。
「治す方法はないんですか?」
僕が尋ねると、お医者さんはすごく言いづらそうに眉を寄せた。
「よく効く薬草が生えてる山があるんだけどね。
モンスターが居座るようになって、最近はまったく近づけなくなってしまったんだ。
残念だけど、この前……最後の薬を使い切ってしまって、いま使えるのはもう……」
今すぐに使える薬はない。
なら、取りに行かなくちゃいけない。
「そこ、教えて下さい」
僕はすぐに出かける準備をした。
「……待て……へな……っ」
シロさんが咳込みながら僕を呼ぶ。
もう、まともに声も出せなくなっていた。
苦しそうに体を折るようにして咳をし続けている――そんなシロさんの姿は、見てられなかった。
「僕に命令したいんだったら、まともにしゃべったら?
なに言ってるかわかんないし、全然怖くないし」
僕はシロさんに背を向けたまま、嫌味を言った。
きっとシロさんは僕に心配なんかされるのは嫌だろう。
だから僕も、弱ってるシロさんに優しい言葉なんて、かけてあげない。
僕は姉妹さんにシロさんの世話をお願いすると、お医者さんに教えてもらった山を目指して、すぐに出発した。
山についた頃には、すっかりあたりは真っ暗になっていた。
でも満月だったから、僕は月明かりを頼りに薬草の群生地を目指した。
木々が少なくなり、ひらけた場所に出た。
月の光が茂みの小さな葉を青く照らしていた。
風が抜けた。爽やかな香りのする風だった。
――小さな葉がたくさんついて、草の高さは低め、すうっとした清涼感のある香りの植物――。
これがそうに違いない。
僕は夢中でこの植物をむしり取ると、袋の中に詰め込めるだけ詰め込んだ。
ふと、頭の中に何かがひらめいた。
お医者さんは、モンスターが出るから、薬草を採りに来れなくて困ってるって言ってた。
……もしかしたら、根っこごと持ち帰ったら、町で育てられないかな?
そうすれば、ここまで来なくても薬が手に入るようになる。
シロさんは早く助けたい。
でも、これから先に、またあんな苦しそうな咳をする人が出て、だけど薬がないなんてことになったら……。
これを持って帰ったからといって、町で育てられるかどうかもわからないのに。
でも僕の手は勝手に地面を掘り続けていた。
なるべく根っこを傷つけないように注意しながら。
土を掘るのに夢中になっていたから、僕はすぐに気がつけなかった。
威嚇をするような、静かで低い唸り声が近づいてきていることに――。




