piece.12-8
シロさんが大暴れした次の日。
「なんか変なやつに変な粉かけられた」
出かけてたシロさんが、そんなことを言って帰ってきた。
「……粉?」
いったいどうしたらそんなことが起きるのだろう。
「ちょっと吸っちまった。でもまあ、いまんとこ呼吸も痺れも視界も異常はないし、大したもんじゃないのかもしんねえけど。
なんだろうなあ、この町の男は『貴方みたいな男の人に憧れます』っていう想いを粉に込める風習でもあるのか?」
本気でそんな風習があるとでも思ってるのだろうか。だとしてもシロさんに粉は贈らない。
「たぶん、昨日の恨みなんじゃないの?」
僕は至極真っ当な返答を返してあげた。
「昨日? なんかあったっけか?」
僕はシロさんを無言で見つめた。
分かっててとぼけてるのか、本当に覚えてないのか。謎だ。謎すぎる。
「シロさんは昨日の夜の記憶はどこまであるの?」
「んー、お前がへなちょこな言い方で『オレは寝るんだぞお! もし起こしたら許さないぞお!』的なことを言って、いなくなった後に……」
そこから思い出さなくていいのに。そしてそんな言い方は絶対にしていない。
ホントに意地悪なんだから。自分だって甘えた声で僕にスリスリしてたくせに。腹立つ。
「美人姉妹が俺のことばっかりチラチラ見てるってケチつけてきた客がいてさあ。
宿の客は体使って引っ張ってきてるだのなんだのって、女の方へネチネチ攻撃してたんだよなあ。
そりゃあ女だって、見た目の悪い男より、見た目のいい男の方が見たいに決まってるだろ? って煽ってやったら案の定食いついてきて――――そのあとカード勝負して、飲み勝負して……ぜーんぶ俺が圧勝しちまって、そしたら向こうが手を出してきたから……あ、そっから覚えてねえ。
でもたぶん俺が勝ったんだろ? 弱そうなやつらだったし」
覚えてないのにその自信……。そのとおりだけど。なんか腹立つ。
「……その中にいた誰かに粉をかけられたんじゃないの?」
「いちいち顔なんか覚えてない」
だろうね。
「シロさん、もっと気をつけたほうがいいよ? でないとろくな死に方しないよ、きっと」
ちょっと意地悪な言い方をしてしまったかな、と少しだけ僕は言いながら反省した。
「……そうだな。俺も、そう思うよ」
でもシロさんは、珍しく僕の言うことを素直に聞いてくれた。
思わずシロさんの顔をうかがうと、シロさんは静かな笑みを浮かべて、窓から空を眺めていた。
シロさんには珍しい、穏やかな表情だった。
どうしてだろう。
僕の胸が少しだけ、つん……って変な感じになった。




