piece.2-4
僕が目を覚ますと、自分の手が見えた。
寝ぼけて手を伸ばしていたみたいだ。
なんの夢を見てたんだっけ。
すごく胸がドキドキしている。
誰かを追いかけてたような気がするけど……。
「カイン? 怖い夢でもみた?」
セリちゃんが優しい声で僕のことを呼んでくれる。それだけで僕はすごく安心する。
僕たちはセリちゃんが山の中で見つけた、壕と呼ばれる洞穴の中にいる。
僕が返事をしようとセリちゃんの方を向くと、昨日出会った、泥だらけの子供がセリちゃんの膝を占領していた。
僕のお腹がまた変になった。
――ずるい。僕だってそれ、してもらいたいのに……。
「セリちゃん。その子が起きたら、それ……僕と交代してくれるかな」
セリちゃんは返事をしてくれなかった。
また僕の胸がつん、ってなる顔をして、セリちゃんの膝を枕にして寝ている子の髪をなでていた。
どうして? なんでその子にはしてくれるのに僕にはしてくれないの?
僕はお腹だけじゃなくて、胸まで苦しくなってきた。
「もう……この子はね、起きないんだ……」
セリちゃんが、ぽつりとつぶやいた。
僕はセリちゃんが何を言っているのか分からなくて、その子供を揺すって起こそうと思い――その冷たさにあわてて手を引っこめた。
この感触、知ってる。――死んでるんだ。
「死んだの? 昨日、一緒にごはんも食べたよね? おいしいって言って普通に食べてたのに」
昨日の夜は、壕に保管されてた非常食で、セリちゃんがおいしい麦粥を作ってくれて、3人でお腹いっぱい食べたのに。
食べ物がなくて死ぬのは知ってる。殴られすぎて死ぬのも知ってる。
でも元気にごはんを食べて、にこにこ笑っていたのに、いきなり起きたら死んでるなんて、そんなの僕は知らなかった。
「安心したのかな……。それとも、いっぱいごはん食べたから……みんなを追いかけていったのかもね……。きっと、空に昇るのは大変だから……」
セリちゃんはそうつぶやくと、膝からそっとその子をおろした。セリちゃんの膝は、その子の泥で真っ黒になっていた。
「カイン、足の調子はどう?」
セリちゃんに聞かれて、僕は自分の足を確認する。
「石が刺さったところは、かさぶたになってるところもあるけど……」
たぶん一回石を踏んだら、またすぐにはがれそうな気がする。
「まだもうちょっと治るには時間がかかりそうだね。
休んでな、カイン。私は……ちょっといろいろ準備するから」
セリちゃんが立ち上がる。
「ぼ、僕のこと……置いていったりしないよね……?」
僕は不安になって思わず腰を浮かせかけた。
「え? そんなわけないよ。どうしたの?」
セリちゃんが驚いた顔で僕のことを見おろしている。
「僕、足ケガして……足手まといだから……」
セリちゃんは僕の目の前にかがむと、うんと優しい笑顔で僕の頭をなでてくれた。
「全然カインは足手まといじゃないよ。私の荷物、半分持ってくれてるでしょ。すっごく助かってるんだから。
心配ならほら、ここに全部荷物おいとくから。
非常食にお金、貴重なアイテム、これ置いたままいなくなるなんて絶対できないでしょ。
……あ、そうだ。私の宝物もカインに預けとくよ。そのかわり、絶対なくさないでね?」
セリちゃんは腰の金具を外して、鎖につながった小さな斧を僕に渡してくれた。
「宝物なんてダメだよ! そんな大事なもの……! ちゃんと持っててよ!」
もしなくしたりしたら責任がとれない。僕はあわててセリちゃんの手に、大事な宝物を押し返す。
「お守りでもあるから。カインが危ない目に遭わないようにって」
セリちゃんは斧についていた鎖の端を、あっという間に僕のベルトに留めてしまった。
「……でも! セリちゃんのお守りは?」
「私にはこいつがあるから」
セリちゃんは腰に下げた剣を軽く持ち上げて笑う。剣の飾りがチャラリと音をたてた。
すごくきれいな剣だった。




