piece.12-3
シロさんは顔を伏せて、ふるえ始めた。
「……え? シロさん? どうしたの?」
シロさんは耐え切れなかったようで、そのまま地面に伏せてしまう。
ただごとじゃない。
「シロさん? ねえ本当にどうしたの? その斧がどうかしたの?」
「……は……やべぇ……ウケる……」
涙目になったシロさんが顔を上げた。
あ、なんだ。笑ってたのか……。ちょっとだけドキッとしちゃったよ。心配して損した。
「その斧のどこがそんなにおもしろいのさ?」
僕もセリちゃんの斧の柄をのぞきこむ。
すると、そこには名前が書いてあった。
ひとつはセリちゃんの名前と――――もう一人は、知らない人の名前だ。
「この人、シロさんの知り合いの人?」
「いや……知らねえ。……へなちょこはさあ、これの意味、分かんねえの?」
シロさんが意地悪なニヤニヤ笑いを浮かべながら、僕に尋ねてきた。
「へ? 意味?」
シロさんは意地悪な笑顔を浮かべたまま、僕に説明してくれる。
「んー……そうだなあ……。なんつーの? 昔に流行った呪いってやつか。
こうやってこっそり人目に触れないような場所に、男女がお互いの名前を並べて書くんだよ。
んで、見つからないままだと、二人の思いは晴れて成就して、めでたく結ばれるってやつだな。
ま、俺たちに見つかっちまったから、残念ながらあいつの願いは儚くも見事に散っちまったけどな」
「……え……?」
……シロさんの言ってる意味が分からない。つまり……どういうこと……?
「今頃、お前のことなんか忘れて、自分の惚れた男のところでも通って、よろしくやってんじゃねえの? あーあ、へなちょこカワイソー!」
がん……って、頭を殴られたような感覚がした。
なんだろう。変なドキドキがする。
「……え。じゃあ……ここに書いてある人って……セリちゃんの好きな人……ってこと?」
「じゃねえの? だからわざわざここに書いて、ご丁寧に布でぐるぐる巻きにして隠してたんだろ?
あーあ、残念だったなあ、へなちょこ。
お前の大好きなセリちゃんは、お前以外の男に夢中みたいだぞ? 可哀想〜♪ へなちょこは可哀想〜♪」
「うるさいな! 斧、返してよ!」
笑いながら変な歌を歌うシロさんから、僕は斧を取り返した。
今まで巻いていた古い布じゃなくて、新しいきれいな布を出して、持ち手を巻き直してあげた。
セリちゃんの隣に並んで書かれていた名前を、目に焼きつける。
そこには木彫りで『ボルター』と書かれてあった。




