piece.12-2
シロさんは自信満々で言い切った。
「変わるさ。お前、ちょっと目を閉じて聞き比べてみろよ、いいか?
『やめろよおっ、そのコをはなせよぉっ』と、『……てめえら、その女から離れな……』な。
どうだ? どっちの方が悪者がビビって逃げ出すと思う?」
「……声の出し方を変えるのはずるいと思う」
「そういうことを言えって言ってんじゃねえよ」
シロさんのデコピンが炸裂する。
「もうっ! 痛いったら!」
「つーわけで、今この瞬間から『僕』っつったらデコピンの刑な。はい決定~!」
なにかとんでもない決定をされてしまった。
この瞬間から、僕は自分のことを僕と言うのを禁止されてしまった。
「前に言っただろ? 人間だって獣やモンスターとなんにも変わらねえんだって。
お前なら、分かるんじゃねえの?
食う側にも序列がある。やつらが食うのは自分よりも弱いやつだけだ。
自分よりも強いやつには近づこうともしない。……だろ?」
僕は自分の育った街を思い出してみた。絶対に近づきたくないって思うやつらは確かにいた。
そういうやつらが、避けるようにしているやつもいた。
ただ嫌いなのかと思ってたけど、そういうわけじゃなかったみたいだ。
要は相手の方が強いから、逃げていただけだったってことか。
「大概、群れなんて作るのは一匹じゃ何もできない弱いやつらだ。所詮群れたところで、強さなんかたかが知れてる。
強そうな雰囲気が出せるやつは、それだけで雑魚を寄せつけないのさ。
自分が食う食わないは別としてな。……だからそれにはまず言葉遣いだ、へなちょこ」
シロさんが僕にびしっと指を突きつけた。
「……オ、オレ……って言えばいいの?」
「オドオドした表情をすんな」
またしてもデコピンが炸裂した。
ひどい! いま僕って言ってないのに! もう! 痛い!
「お前がもう少しどっしりした態度をしてれば、その腰に下げてる斧だってもう少し様になるさ。
なにげにその斧、チビっこいけどモノは良いやつだしな。その斧吊ってる鎖もそうだ。
けど、今のお前がぶら下げてると、ただのおもちゃに見える。つまり物の価値が下がる」
ひどい……。
僕はセリちゃんの斧を手に取った。
セリちゃんがエヌセッズのメンバーだった証の斧。
セリちゃんの宝物の斧。
セリちゃんが、必ず僕のところに帰ってきてくれるっていう……約束の斧――。
使い込まれた柄に巻かれた布はボロボロで、解けそうになっていた。
巻き直してあげようと思ってて、すっかり忘れていた。
「……ん? なんか書いてあるな」
シロさんが僕の手から斧を取り上げた。そして持ち手に巻かれた布を勝手に解き始める。
「あ! それはセリちゃんの……!」
シロさんは斧の持ち手を見つめたまま固まった。
どうしたんだろう……。




