piece.11-4
僕とシロさんはひとまず手近な町へと着いた。
もちろん、目的地は森に飽きたシロさんの言うがままだ。僕に選択権はない。
いつかシロさんがナナクサと合流したら――。
そうすれば、セリちゃんの行方の手がかりが見つかるかもしれない。
そのかすかな希望だけを胸に、僕はシロさんのわがままにつきあうと決めた。
シロさんは町に入るなり、真っ先に食事をしようと言い出した。
僕はお金の持ち合わせがないと言ったんだけれど、シロさんがおごってくれると言い出した。
……すごく罠のにおいがした。だけど、僕に逃げる術はない。
未だかつて、罠だと気づいても逃げられたことがない。
毎晩寝る前にどうしたらシロさんの罠を回避できるんだろうって考えるんだけど、どれもうまくいった試しはない。
仕方なく、僕はおごってもらうことにした。嫌だけど。
シロさんは食堂で、いろいろな食べ物をどんどん注文していく。食べ物の頼み方が豪快だ。セリちゃんとは大違いだった。
本当に食べきれるのだろうか。
「へなちょこはさあ、野菜食えねえの?」
「そんなことないよ! 野菜は大好きさ!」
シロさんに好き嫌いのことがバレるわけにはいかない。僕は笑顔で野菜を食べた。
「へなちょこはさあ、豆食えねえの?」
「まさか! 好きだから最後に取っておこうと思ったんだよ!」
シロさんに僕の弱点を知られるわけにはいかない。僕はシロさんのすすめてくる料理を、おいしそうな顔でがんばって食べた。
シロさんも、この細い体のどこにそれだけの食べ物が入るんだろうかってくらい、いっぱい食べていた。
シロさんは、けっこうよく食べる人だ。
そこもセリちゃんとは大違いだった。
そしてセリちゃんとの違いといえば、この食事の時間……僕は決して気を抜けないってことだ。
そう、きっとこれが罠なんだ。
僕の嫌いな食べ物を見つけて、あとで罰ゲームするときに絶対登場させる気なんだ。
――一瞬も、油断はできない……!
今まで生きてきた中で一番緊張する食事を終えると、シロさんは会計を済ませた。
そして店を出ると、ひとことつぶやいた。
「あーあ……今のでカネがすっからかんだ……」
……なんですと?
僕は自分の耳を疑った。すっからかん? それはつまり一文無しということでは?
思わずシロさんを見上げた僕は、にっこり笑うシロさんと目が合ってしまう。
見るんじゃなかったと後悔したときにはもう遅い。
「へなちょこ。お前も食ったもんな。協力しろよ?」
なんてこった。ここからが罠だった……。
最初からシロさんはこのつもりで僕に食事をおごったんだ。
気づいてももう遅い。たぶん、気づいてもやっぱり逃げられなかった気もする。
僕は観念してため息をついた。
「……分かったよ、何すればいいの?」
「お前は本当にものわかりがいいなあ」
シロさんはそんな僕を見て、勝ち誇った顔をして笑ったのだった。




