peace.10-12
僕たちは、ついにこの日を迎えた。
「見ろ! へなちょこ! 完成したぞお!」
シロさんが満面の笑みで完成した毛皮を広げた。
シロさんと僕の二人で、毎日毛皮をなめしたり叩いたり、すごく大変だったけれど、シロさんの広げた毛皮は陽の光に照らされて、キラキラと光っていた。
これがこれから僕のになるんだ……。
僕は胸が熱くなるのを感じた。
まさかシロさんが、僕のためにこんなに一生懸命に毛皮の手入れをしてくれるなんて思わなかった。
僕が毎晩寒くて震えながら寝ていたことに、気づいてたのかもしれない。
この毛皮は大切にしよう。シロさんと二人で協力して作った毛皮だもん。
……エサにされそうになった嫌な思い出もあるけど、でもシロさんと二人で頑張って、心を込めて仕上げた毛皮……。きっと、ずっと大切に使っていこう。僕の宝物だ。
僕はシロさんのご機嫌な笑顔を見て思った。
やっぱりシロさんは、悪い人じゃないと思う。
きっと本当はいい人なのに、わざと意地悪を言ったりするんだ。素直じゃない人なんだ。
だって、本当に意地悪な人は、僕のためにこんなに毎日大変な思いをして、毛皮を作ってくれたりなんかしない。
僕は少しずつだけど、シロさんのことが嫌いじゃなくなってきていた。
「どうだ! へなちょこ! 似合うだろ!」
「あはは、うんうん。似合うよシロさん」
僕は子供みたいにはしゃぐシロさんを、笑いながら眺めていた。
「ジャストサイズだな! これでもう足も出ねえな。今晩から足の先まであったかだぜ!」
……ん? あれ……?
「シ……シロさん? それ……僕の毛皮じゃあ……?」
シロさんのご機嫌だった表情が、一瞬で真顔になる。
「は? なんでそうなる」
「え――――っ! だって! だってシロさん、うまくいけばお前もあったかい毛皮が手に入るって言ってたじゃん!」
「そんなこと言ったか? ……ああ、そうか。
ほら、こいつはもういらねえからお前にやるよ」
シロさんが今まで使っていた古い毛皮を僕に投げてよこした。
……う、嘘でしょ……?
「よかったなあ、へなちょこ。これで少しは寒さがしのげるんじゃねえの?」
……あれ? なにこれ、ひどい。嘘でしょ?
僕は結局、シロさんの新しい毛皮づくりのために毎日毎日こき使われてたってこと? なにそれ、ひどい……。ひどすぎる。
「あっれー? なんだよ、へなちょこ。うれしくないのかよ? ほーん、じゃあこの毛皮はいらねえんだな。なら、燃やすか」
「わ――――っ!! ダメっ! もらう! もらうから!!」
僕はシロさんから慌てて毛皮を奪い返す。
「ならもっと嬉しそうな顔しろよ。礼も言わねえし。
あーあ、やる気がなくなっちまったなあ。やっぱり燃やしちまおうかなあ。へなちょこは、別に毛皮なんかほしくないんだもんなあ」
「……く……っ!」
悔しい。完全に遊ばれてる。
やっぱりシロさんは意地悪だ。正真正銘の意地悪だ。
いい人そうに見せるのはすべて罠で、結局人の心をズタズタにして喜ぶ悪魔なんだ。最低だ。
だけど、僕には選択肢はない。
「……あ……ありがとーシロさん。やったー僕、毛皮もらえてうれしいなー……」
「心がこもってない。6点。……燃やす」
「わ―――――っ! 嬉しいってば! ていうか、ないと困るんだって! 毎晩寒くてしょうがないんだって! もらうよ! もらうって! ちゃんと大事にするって!」
僕はもう一度、シロさんから取られた毛皮を奪い返す。
「よし、そこまで言うなら仕方ねえなあ。
そのへんじゃあ手に入らないレアな毛皮だぜ? 大事にしろよ?」
……嘘ばっかり。さっきまで燃やそうとしてたくせに。
「あっれー? へなちょこ嬉しくなさそうだなあ」
僕はシロさんと毛皮を引っ張り合いになる。
「う、嬉しい! すっごく嬉しいから! 燃やさないで! もうすっごくすっごく大切にするから! 宝物にするからー!」
僕はシロさんから、お下がりの古くてすり切れてボロボロになった毛皮をもらった――というより燃やされないように保護した。
たしかにその日から、夜は寒くなくなった。
毛皮は古くても、ちゃんと暖かかった。
僕は少しだけシロさんのことを、見直しかけて――それをもう一度さらに見直した。
やっぱり僕、シロさんのことは苦手だなあ。
あらためて、そんなことを再認識した。
第10章 鍛練の白
<TANREN no SIRO>
~submission~ END




