peace.10-9
シロさんから言いつけられたすべてのミッションを終えた僕は、ちゃんとごはんができていることに驚いた。
シロさんがちゃんと作ってくれたのだった。
……罠かな……?
思わず緊張が走る。
「そこの樽の中には酒もあったぜ。へなちょこも飲むか?」
そういうシロさんはすでに飲んでいる。
「……苦い? 苦いのはちょっと……」
「ふっ、ガキ。だっせえ」
「……くっ!」
ついムキになってしまった。木のコップに注いで、一気に飲んだ。思ってたよりは飲みやすかった。でも喉の奥からお腹の中まで一気に熱くなる。
「どこでくすねてきた果実酒だろうなあ。まあまあだな」
シロさんはすでに何杯か飲んでいるらしく、目を細めてご機嫌だ。
僕はシロさんが作ってくれた肉煮込みを山盛りによそって食べる。
……うん、罠じゃない。ちゃんとおいしい。
「あー、風呂にも入ったし、小屋もベッドも臭くねえし、最高だな」
シロさんがそんなことを言いながら、荷物の中から何かを出してきた。細長くて、不思議な形をしていた。
しまった! 罠か?
僕の緊張が高まった。
ぺぺん、と軽くて明るい音が鳴る。
どうやらシロさんが出してきたのは楽器みたいだ。
罠ではなさそうなので、僕は少しだけ緊張を解いて食事を再開する。いっぱい働いたから腹ペコだった。
その楽器は細い部分に3本の弦が張ってあった。それをひらべったい道具で鳴らすと音が出るらしい。
シロさんは何回か試しで音を鳴らすと、なにかの曲を弾き始めた。
しばらくの間、僕は黙々とごはんを食べ、その横でシロさんはずっと楽器を弾いていた。
音楽を聴きながらごはんを食べるのって、なんだかすごく贅沢な感じで、いつもよりもごはんがおいしく感じた。
雰囲気が全然違ったから、シロさんは僕の知らない曲を弾いてるんだと思ってた。
でも僕は、急に思い出した。
それは僕の知っている曲だった。
「それ……セリちゃんが歌ってた……」
思わず声が出た。
間違いない。
竜が来て、村を焼いていたあの夜に、僕はたしかに聴いている。
小人たちと踊りながら、歌を歌っていたのはセリちゃんだった。
あれは――セリちゃんの歌声だった。
「……ほーん。歌があるのか……、知らなかったな。
これは、弔いの舞の曲。だいぶ俺がアレンジしたから陽気な感じになってるけどな」
シロさんは楽器を弾きながら、つぶやいた。
「……そういえば、あいつは壮絶に楽器が下手くそだったなあ」
もう僕は、その流れで出てくる『あいつ』が誰なのかすぐにわかった。
「セリちゃん?」
「ああ……。弦も笛も、鳴り物すらダメだったなあ。ひどいもんだった……」
ぺぺぺん♪ と陽気な音を鳴らしながら、シロさんはげんなりした顔をした。
そういえばセリちゃんは、前に踊りが下手でよく怒られていたと話してくれた。楽器も弾けなくて怒られたんだろうか。
……まさか、シロさんに怒られてたり……?
僕はシロさんからお仕置きされているセリちゃんを想像して――――かわいそうすぎるので、考えるのをやめた。
想像するだけでも、ひどすぎてつらい……。
どうか、セリちゃんを怒ってたのがシロさんじゃありませんように……!




