peace.10-7
「……お前さあ、なんでそんなに元気があんだよ。体、きつくねえの? ……若いからって言ったら吊るす」
朝、シロさんがそんなことを言ってきた。
モンスターの毛皮の処理が思ったよりも大変で、シロさんはぐったりしていた。寝起きから時間が経ってるにもかかわらず機嫌が悪い。
朝食べて、すぐに吊るされるのはごめんだ。なぜなら吐いてしまうから。
「まあ、疲れるは疲れるよ。でも僕、疲れが取れる技を教えてもらってたから、寝る前に一応それをやって寝てるし、それでなのかな?」
「……ほーん」
シロさんが気のない返事をする。
だから、その話はそれで終わりなんだと思っていた。
その日の特訓はすごくきつかった。
例によってシロさんのペナルティカードが出現する。
今回はちょっとだけ飛び出してるカードはなく、どれもきれいに並んでいた。だからこそ、余計に緊張する。
「なんだよ、罠なんかねえから安心して選べよ、へなちょこ」
信用できない。すべてが罠の可能性が高い。僕の警戒レベルがますます上がる。
でも僕には拒否する権限はない。でないと関節を外される。
たぶん、どのカードも関節を外したりはめ直したりするより痛いことはないはずだ。
僕は覚悟を決めて真ん中のカードを抜いた。
【心を込めてシロさんの疲れをとってあげる♡】
……なんだこれ。
緊張が一気に抜けて、なんだか急に疲れが出た。
「……疲れてるなら疲れてるって、素直に言えばいいじゃん」
わざわざこんなカードにしてさ、きっと僕が朝に言ってた疲れがとれる技をして欲しかっただけなんだよ絶対。こんな回りくどい真似してさ、普通に『俺にもやってよ』って頼んでくれたら、してあげたって良かったのにさ。
「別に疲れてねえよ。ラッキーだったなあ、超楽ちんな罰ゲームが当たって」
本当に素直じゃない。
僕は思った。たぶん今日のカードは5枚とも全部同じ内容だったに違いない。
「分かったよ。どこが疲れてるの?」
「だから別に疲れてるわけじゃねえんだって。でもなあ、そういうペナルティだからなあ、しょうがねえなあ、……しいて言うなら、背中かなあ」
……本当に素直じゃない。
僕はシロさんに、腹ばいで寝てもらうと、背中を押してあげた。そして驚いた。
――――わ! なんだこれ!
シロさんって……細いのにめちゃくちゃ筋肉がしっかりついてる! なにこれずるい! ふだんゴロゴロ寝てばっかりなのに、なんでこんなに筋肉がついてんの!? 僕の体と全然違う!!
「……ふ……っ、……んっ」
――シロさんの口から変な声が出た。
すごい。ブライトさんの技は、シロさんにもちゃんと効くんだ。すごい……! すごいやブライトさん!
「……シロさ」
「俺は何も言ってない」
シロさんがかぶせ気味に言い返してきた。
シロさんは腹ばいになっているから、こっちを見ていない。だから僕が浮かべた表情を、シロさんは気づけなかった。
――――ここは、いつもお世話になっているお礼をたっぷりしてあげなくっちゃいけない……!
ふふふ……シロさん! 覚悟しろ!
ぎゅぎゅぎゅー!
「……んあっ! ちょっと待……っ、ストップ! ストッ……! は……う……っ!」
シロさんが異変に気づき、体を起こそうとする。
逃がすもんか! ――見つけた! ここがシロさんのお疲れスポットだ! 心を込めてやる!
目覚めろ僕の筋肉! シロさんのお疲れスポットに集中攻撃だ!!
「……あっ、てめ……っ、くそ……っ! なんなんだよ…これ……っ、は……っ、はう……っん!」
やった! シロさんに『はうん』って言わせたぞ! このまま、一気に攻める!! 行け! 僕の腕の筋肉!!
「……く……っ! ……なんだよ……っ、……んっ!」
「シロさんはとっても疲れがたまってるってことなんだよ」
さあ、どんどん攻めろ! 僕の肩の筋肉! シロさんの疲れを徹底的に攻撃するんだ!
「……あ……っ! この……っ、あ! やめ……っ! 待てっ! そ、そこは……っ!」
ここか――――――っ!! いっけ――――――っ!!
ぎゅぎゅぎゅのぎゅ――――――っ!
……ぎゅのぎゅ――――!
……のぎゅ――――……。
……ぎゅ――……。
……ゅー……。
……。
・・・・・
僕はこの日、ついにシロさんに勝った。
ありがとう、ブライトさん……!
僕がブライトさんと日々積み重ねてきた特訓の成果は、ちゃんと実になっていたよ!
ありがとう、ブライトさん……!
僕は今、生まれて初めて勝利の喜びを噛みしめているよ!
僕は心の中でブライトさんへ感謝を伝えた。
森の木々から降り注ぐ光が、なぜか今日はいつもよりも、キラキラと輝いて見えた――。




