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流転するアルケウス ~inherited Meme~  作者: イトウ モリ
第10章 鍛練の白 ~submission~
100/395

peace .10-6



 ……。


 モンスターが僕の体を押しつぶしている。ものすごく重たい。でも痛くない。かじられてない……?

 あれ……? 何が起きたんだろう。


「ホントお前は、何から何までセリちゃんセリちゃんだなあ」


 シロさんの声がする。


「シ……シロさん!? どこにいたの! 話が違うじゃん!」


 僕はモンスターの下敷きになりながら文句を言う。


「せっかくなら毛皮も調達しちまおうと思って、なるべく傷つけないように始末するつもりだったんだよ。そしたら予想外にデカくて、しびれ薬がなかなか効かなくてよ。

 そしたらお前がいきなり『てやぁ〜』なんてへなちょこなかけ声で向かっていくから、マジ爆笑しちまってさ。おかげでしばらく吹き矢が打てなくなっちまったんだよ。

 俺の足を引っ張ってどうすんだよ、バーカ。

 ――にしても……なあ、へなちょこ。お前へなちょこの分際でこれに勝てると思ったのか?」


 ……シロさんが言う『てやぁ〜』の、へなちょこ感がハンパない。


「……シロさんがいなくて……自分の力でなんとかするしかないと思って……」


「でも結局、『うわぁん、たしゅけてー! セリちゅわぁん!』だろ? だっせえ」


「そんな言い方してないっ!」


「ま、そんなことより……」


 シロさんは僕に向かって、さっさとそこから動けと手で合図をする。僕がモンスターの下から這い出ると、シロさんは大きめのナイフを取り出した。僕が初めて見るナイフだ。


 シロさんはいろんなナイフを持っている。小さいのや、刃が広いのや、ギザギザがついてるのとか――。いったい何本持ってるんだろう。


 倒れているモンスターの頭を持ち上げると、シロさんは一気に首をかき切った。


 大量の血が、こぼれるようにあふれてくる。モンスターは、びくびくっと痙攣すると、二度と動かなくなった。


「デカいからな。皮剥ぐのも一苦労だし、肉をばらすのも時間がかかる。へなちょこも手伝えよな」


 そう言ってシロさんは、いくつもナイフを収納してある布を広げてみせた。


 シロさんは、僕が想像している以上に、ものすごい数のナイフを持っていた……。



・・・



 僕とシロさんは、お腹いっぱい肉を食べた。


 解体を手伝っていたときは、本当にこのモンスターが食べ物になるのか不思議でしょうがなかったけれど、串に刺して焼くと、ちゃんと肉だった。それも、すごく美味しい肉になった。


 でも僕はこの()に、さっき食べられそうになってたんだよなあって思うと、なんか不思議な感じだった。


 なんでこんな余計なことを考えちゃったのか、自分でもおかしいとは思ったけれど、――僕のことを食べ終わったモンスターの肉を食べているシロさんを想像して――、僕の体がぶるっとふるえた。



 【エサになる】



 ……もうしばらくあの字の書かれたカードは見たくない。いくらおいしい肉が食べれるのだとしても――。


「やっぱ新鮮なうちに食うのが一番うまいんだよなあ。残りは腐る前に焼くだけ焼いといて煮込みにでもすっかな。

 ……ん、ごちそうさん」


 シロさんが手を合わせて挨拶する。僕は思わずシロさんを見た。


「……なんだよ、なに見てんだよ。

 食わせてもらったこいつに、せめて美味かったって言ってやんなきゃ、こいつが浮かばれねえだろ?」


「……あ、うん」


(……生き物の命をいただきますってことだよ)


 セリちゃんもそう言って、食べ物に手を合わせてた。


 やっぱり、セリちゃんとシロさんは似てる。

 全然似てないけど、なんか似てる。


「さてと、腹ごなしも済んだし、残りの毛皮の処理をしちまうか。お前も手伝えよ、へなちょこ。

 うまくできたら、お前もあったかい毛皮が手に入るぜ?」


 僕はシロさんの言葉が信じられなかった。


 もしかして、シロさんは僕に毛皮をプレゼントしてくれるつもりで……?


 僕は嬉しくなった。


 もしかしたら……すごく分かりにくいけど、シロさんは、実は優しいお兄さんなのかもしれない。


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