peace .10-6
……。
モンスターが僕の体を押しつぶしている。ものすごく重たい。でも痛くない。かじられてない……?
あれ……? 何が起きたんだろう。
「ホントお前は、何から何までセリちゃんセリちゃんだなあ」
シロさんの声がする。
「シ……シロさん!? どこにいたの! 話が違うじゃん!」
僕はモンスターの下敷きになりながら文句を言う。
「せっかくなら毛皮も調達しちまおうと思って、なるべく傷つけないように始末するつもりだったんだよ。そしたら予想外にデカくて、しびれ薬がなかなか効かなくてよ。
そしたらお前がいきなり『てやぁ〜』なんてへなちょこなかけ声で向かっていくから、マジ爆笑しちまってさ。おかげでしばらく吹き矢が打てなくなっちまったんだよ。
俺の足を引っ張ってどうすんだよ、バーカ。
――にしても……なあ、へなちょこ。お前へなちょこの分際でこれに勝てると思ったのか?」
……シロさんが言う『てやぁ〜』の、へなちょこ感がハンパない。
「……シロさんがいなくて……自分の力でなんとかするしかないと思って……」
「でも結局、『うわぁん、たしゅけてー! セリちゅわぁん!』だろ? だっせえ」
「そんな言い方してないっ!」
「ま、そんなことより……」
シロさんは僕に向かって、さっさとそこから動けと手で合図をする。僕がモンスターの下から這い出ると、シロさんは大きめのナイフを取り出した。僕が初めて見るナイフだ。
シロさんはいろんなナイフを持っている。小さいのや、刃が広いのや、ギザギザがついてるのとか――。いったい何本持ってるんだろう。
倒れているモンスターの頭を持ち上げると、シロさんは一気に首をかき切った。
大量の血が、こぼれるようにあふれてくる。モンスターは、びくびくっと痙攣すると、二度と動かなくなった。
「デカいからな。皮剥ぐのも一苦労だし、肉をばらすのも時間がかかる。へなちょこも手伝えよな」
そう言ってシロさんは、いくつもナイフを収納してある布を広げてみせた。
シロさんは、僕が想像している以上に、ものすごい数のナイフを持っていた……。
・・・
僕とシロさんは、お腹いっぱい肉を食べた。
解体を手伝っていたときは、本当にこのモンスターが食べ物になるのか不思議でしょうがなかったけれど、串に刺して焼くと、ちゃんと肉だった。それも、すごく美味しい肉になった。
でも僕はこの肉に、さっき食べられそうになってたんだよなあって思うと、なんか不思議な感じだった。
なんでこんな余計なことを考えちゃったのか、自分でもおかしいとは思ったけれど、――僕のことを食べ終わったモンスターの肉を食べているシロさんを想像して――、僕の体がぶるっとふるえた。
【エサになる】
……もうしばらくあの字の書かれたカードは見たくない。いくらおいしい肉が食べれるのだとしても――。
「やっぱ新鮮なうちに食うのが一番うまいんだよなあ。残りは腐る前に焼くだけ焼いといて煮込みにでもすっかな。
……ん、ごちそうさん」
シロさんが手を合わせて挨拶する。僕は思わずシロさんを見た。
「……なんだよ、なに見てんだよ。
食わせてもらったこいつに、せめて美味かったって言ってやんなきゃ、こいつが浮かばれねえだろ?」
「……あ、うん」
(……生き物の命をいただきますってことだよ)
セリちゃんもそう言って、食べ物に手を合わせてた。
やっぱり、セリちゃんとシロさんは似てる。
全然似てないけど、なんか似てる。
「さてと、腹ごなしも済んだし、残りの毛皮の処理をしちまうか。お前も手伝えよ、へなちょこ。
うまくできたら、お前もあったかい毛皮が手に入るぜ?」
僕はシロさんの言葉が信じられなかった。
もしかして、シロさんは僕に毛皮をプレゼントしてくれるつもりで……?
僕は嬉しくなった。
もしかしたら……すごく分かりにくいけど、シロさんは、実は優しいお兄さんなのかもしれない。




