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流転するアルケウス ~inherited Meme~  作者: イトウ モリ
第2章 荼毘の赤 ~annihilation~
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piece.2-2




 村についた途端、セリちゃんが小さな声でつぶやいた。


「これは……ダメだな」


 セリちゃんの言葉を聞かなくても、何がダメなのかということは僕にも分かった。


 村はすっかりボロボロにされていて、誰ひとり住んでいる様子がなかった。


 でも、なぜか一番大きくて立派な家だけが壊されずに残っている。


「セリちゃん、ラッキーだったね! 今夜はあの家で休もうよ!」


 僕は嬉しくなってセリちゃんの(そで)を引っ張った。


「いや……。あそこはやめた方がいいと思う」


 セリちゃんは怖い顔をしながら、注意深く周辺を探りだした。


「カイン。あまりひらけたところを歩かないように。

 木の陰に隠れて、向こうまで行こう」


 なんだかよくわからないけれど、僕はセリちゃんの言うとおりにすることにした。


 村の(はし)っこまで来てしまい、それより先に続くのは山になってしまう。セリちゃんはいったいどこまで行く気なんだろう。


「……人がいるよ、カイン」

 セリちゃんがささやくように言った。


 地面が掘り返されて、また土をかけたような跡がたくさんあった。でも、僕にはどこにも人がいるような感じはしない。


「ごめん、急に人が来てびっくりさせちゃったよね。

 何もしないよ。ちょっと話を聞かせてくれないかな」


 セリちゃんが、どこかにいる誰かに向かって声をかけた。


 しばらくずっと静かだったけど、大きな木の割れ目の中から、泥まみれの子供が出てきた。僕より小さいか、同じくらい。すごくガリガリだった。


 僕は、前に裏通りで死んでいたガリガリのゴミのことを思い出した。そいつもすごく小さかった気がする。


「キミ、ひとり?」


 セリちゃんはとても優しい声でその子に声をかけていた。

 もしかして、その子のことも連れて行くって言うのかな。


 そんな疑問が浮かぶと、よくわからないけれど、僕は急にお腹が変になってきた。


 どうしてだろう。


「何してたか、聞いてもいい?」


 セリちゃんがその子の前にかがみこんで尋ねている。

 僕に会ったときも、そうやって――僕の目を見て、優しく話しかけてくれた。


 じゃあ、やっぱり、その子も連れて行くって言うのかな。


「……おはか……つくってた」

 その子の声は消えそうなくらい小さかった。


 ずっと前に村が襲われ、自分だけが助かってしまったと、その子は泣きながら話してくれた。


 そして、セリちゃんが泊まらない方がいいと言っていたあの家――。

 たまたま通りかかった旅人が、あの一軒だけ無事な家で泊まったことがあったらしい。そのときに村を襲った野盗が、またこの村に戻ってきて、旅人を襲ったのだそうだ。


 この村を襲ったやつらは、この近くに住んでいるらしい。


「山賊か……。根城はどの辺だろうな……」


 セリちゃんが低い声でつぶやく。


「まだ、みんなのおはか、つくれてない。わるいひとくるかもだから、ひとりずつここにつれてこないと……でも……おもくて……みんなはこべない……」


 そう言ってその子はまた泣き出した。


「キミはすごいね……。逃げないで、ずっとひとりでがんばってたんだね。

 明日、手伝うよ。3人でやれば、きっと全員のお墓、すぐに作ってあげられる」


 その子は信じられないという顔をしてセリちゃんのことを見つめていた。


「そのかわりと言っちゃなんだけどさ、この村の人の靴で、ここにいるカインのサイズにぴったり合うのを持ってる人がいたら、その靴、カインにもらってもいいかな?」


 セリちゃんの顔を見つめていたその子の顔色はどんどん良くなっていった。


 目に光が戻ってくる。

 まるで、生き返ったみたいに――。


 その子は「うん!」と、元気いっぱいにうなづいた。


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