師弟内の秘密
「どうぞ。」
俺たちは、リリに縁側に案内された。
「お団子持って来ますね。あ、澪様はいつものですね。」
「うん、それにして。ありがと。」
「?」
意外にもミオが接し方に慣れており、少し驚いた。それにしても、いつものってなんだ?
「あー、久しぶり。ここはやっぱ落ち着くなあ。」
「お前、よく知ってるな。ここの事」
「そりゃあ、まあ。あの子が1歳の頃からここに来てるもん。」
「1歳!?」
「うん。」
「そ、その年で一人暮らししてたのか?」
「うん。魔法界じゃ、常識。」
「じゃあ、お前は過保護ということに・・・」
「だまらっしゃい!」
ミオは俺の頭を叩く。
「私は特別なの!」
「特別ぅ?」
「そう!魔法界のお偉いさんから人間界で暮らしなさいって、命じられたの!」
「なぜ?」
「特別だから!」
「それ理由になってねーよ・・・。」
俺は頭をさする。ミオに叩かれた時の痛みが、まだわずかに残っている。
すると、
「皆さん!」
リリが戻ってきた。両手に団子の乗ったおぼんを抱えている。
「裕様と颯真様はこちらの団子。澪様は、こちらです。」
一人一人丁寧に説明して置いていく。しかし残念、俺の名前は裕也だ。
「なあミオ。それなに?」
「私お気に入りの『サレプス』だよ。人間界で言う、大福みたいなもんかな。」
「大福。」
俺は繰り返した。実を言うと、俺は大福が大好物である。
「兄ちゃん。」
「え、あ?」
「人間界帰ったら、買っとくから。」
「・・・!?」
どうやら悟られたらしい。恐るべし忍者である。
「それにしても、どうされたのですか?仲間を引き連れて、私のところなんかに」
「私のお父さんについて、聞きたいことがあるの。」
「お父さんというと、師匠のことですか?」
「そ、師匠。ちょっと前に消息不明になっちゃって。」
「ええっ、となるとあれは本当に・・・、あっ!」
「なにかあったの、梨鈴ちゃん」
颯真が優しく問いかける。リリはぷいとそっぽを向く。
すると俺の脳の中に、映像が飛び込んできた。
深刻な表情で何かを告白している男性。これは、ミオの父か。
それに対して苦笑交じりで対応するリリ。
これは、間違いない。
テレパシーだ。
ついに、俺にも活躍の場が・・・
と言っている場合じゃない。
俺はリリに集中した。
ミオの父が、リリに何かを手渡している。
槍のような、細長く尖ったもの。
そして、ミオの父はここを去っていった。
映像は、ここでブチっと途切れた。
「リリちゃん!」
「えっ、は、はい。」
「ちょっと前に、師匠がここに来たんじゃない?」
「え、どうしてそれを!」
「頭ん中ちょっと見た。」
「見た!?」
信じられないという顔でこちらを見る。そういや言ってなかったな、俺のこと。
「で、どうだったの裕くん。」
「見えた映像によると、リリちゃんはお前の父さんから槍みたいなものを受け取ったみたいだ。」
「ひい。そこまでわかってるのですね。」
リリは幽霊を見るような目で俺を見る。
「ねえ、梨鈴。案内してくれる?槍のトコに。そして話して。その日の事」
ミオは包み込むように優しく言う。さっき俺をぶった奴とは思えない。
「はい。…ついてきてください。」
リリは立ち上がり、歩いて行った。俺とミオ、そして颯真は後に続いた。
「こちらです。」
リリは物置小屋を開けて、奥を指さした。
埃まみれの荷物に囲まれて、それはあった。
「二週間前のことです。」
リリは少し俯いて言った。
「師匠が急に私を訪ねて参りました。どうしました、と尋ねると、師匠は深刻な表情で言ったのです。」
リリはぼそりと言った。
「しばらくこの地域を離れる、と。」
「どうしてなのか、分かる?」
「わかりません。でも私、噓だとおもったんです。師匠、ジョークがお好きだから。」
「でも、それは真実だった、と。」
「ごめんなさい。」
「梨鈴。その槍は?」
「帰る際にくれたんです。『我が家に代々伝わるものだ』って。」
リリは槍を抱えて、俺たちに手渡した。
「なあミオ。この槍、見たことあるか?」
「うーん。我が家に伝わるものなら、見たことあるはずだけど・・・」
ミオは首をひねる。知らないようだ。
「とりあえず、ここに・・・。」
ミオが槍を元の位置に戻そうとした。すると急に、
「皆さん、伏せて!!」
颯真が珍しく声を荒げて言った。俺たちは訳の分からないまま、地面に伏せる。
その瞬間、俺の真上に何か通り過ぎた。
「!?」
「皆さんはそのままにしていてください!」
「颯真!どういう事だ!」
「敵!昨日の敵が攻撃してきたんだ!」
「なんだって!?」
「しかも…。」
颯真は震える声で言った。
「た、沢山いるんだ。集団攻撃してきたんだよ!」