弟子
「裕くん。」
次の日の朝食、ミオが唐突に話しかけてきた。
「どした?」
「昨日考えてたんだけどさ。裕くん超能力者なのに昨日何ひとつ超能力使ってなかったじゃん。」
「あ。…確かに。」
「ばんばん使わなきゃ駄目だよ。癖をつけよう。」
「癖。」
そういや人間界ではあんまり使ってなかったな。心がけてみるか。
ミオは続けて言う。
「で、今日は一家捜索とは別のことをしようと思ってます。」
「別のことって、なにさ。」
「お父さんのお弟子さんのもとに行こうと思って。」
「お弟子さんというと、魔法のですか?」
「その通り。」
ミオはパンっと手を合わせた。
「自分の師匠なんだから、何か知ってるかもしれない。」
「そうですね。」
颯真は小さく頷く。
「どこにいるか、わかってんのか?」
「うん。ここから山を一つ越えて、しばらく行ったところ。」
「げっ、山を越える?」
「なに嫌な顔してんの。魔法使えば一瞬じゃない。」
「そう…なのか?」そんな知っている風に言われても困る。
「まあ、来て。朝食はおしまい。出発しよう!」
ミオは元気に言うと、拳を突き上げた。
俺は、これが空元気なんて信じることはできなかった。
「は、速い!ミオ、速いって!」
「いやっほー!」
大きなホウキの上で、俺はミオに振り回されていた。
これは、よく童話で見る「空飛ぶホウキ」。二人乗るのが限界だというので、忍者の颯真は現在山登り中だ。
「落ちる!死ぬ!」
「そのスリルが楽しいんじゃん!さ、加速するよ~!」
「やめろおお~!!」
俺の叫びもむなしく、ホウキはさらにスピードを上げた。落下してもおかしくない速さだ。
「颯真は、ついてこれてるのか・・・?」
俺は力を振り絞って、下を見た。
なんと颯真は、ピッタリ俺たちの下についてきていた。
山の木から木へと、ぴょんぴょんスムーズに進んでいる。なんなら今にも追い抜かしそうなペース。
まだ13歳なのに。流石忍者だ。
「ねえ、裕くん!あそこ!見えてきたよ!」
ミオが叫んだ。俺ははっと、前を見る。
山に囲まれた、殻ぶき屋根の平屋が姿を現した。
「元気かなあ。」
ミオが微笑んで、言う。
そして俺たちと颯真は、ほぼ同時に平屋に到着した。
「颯真。お前、どんだけ、速いんだ、よ・・・」
「ははっ。兄ちゃん大丈夫?めっちゃ息切れてるじゃん。」
「逆に、なんで、お前は、息切れ、ないんだ。」
「裕くんの息切れは異常だって。つかまってただけなのに。」
「うる、さいっ」
俺はしゃがみ込んだ。すると、
「あああっ、危なーい!!」
「え?」
振り返った途端、俺は何故か吹っ飛ばされた。
訳が分からないまま、俺は地面に叩き付けられる。
「痛ったあ・・・。なんだなんだ。」
「し、失礼しました。」
目の前には、黒い帽子に、黒い服を着た少女が立っていた。
「まだ未熟なもので・・・、ん?」
少女はミオの顔をじっと見つめて、叫んだ。
「み、澪様!お帰りになられていたのですね。」
「え?」
「あーあ、相変わらずのドジっ子。」
「ミオ?」
「あ、こちらがお父さんの弟子、梨鈴ちゃん。」
「えっ」
俺は思わず仰天した。
幼稚園児ぐらいの少女が、ミオ父の弟子!?
「どうしたの、そんなに驚いて。」
「いや、思ってたのとだいぶ違ってて・・・。」
俺は頭を掻く。
「澪様、この方々は?」
「私の人間界での仲間。長い付き合いなの。」
「へえ。私、梨鈴といいます。宜しくお願い致します。」
リリはぺこりとお辞儀をした。
「あ~、もう可愛い!ほんと梨鈴ちゃん天使!」
その途端に、ミオが梨鈴に抱きつく。
そういや、颯真が産まれた時もこんな感じだったな。子供好きは、相変わらずか。
「とりあえず、お入りください。今、お茶とお菓子を持ってきますんで。」
リリが家の扉を開ける。俺たちはぞろぞろと家に上がった。