本音
「待って、兄ちゃん。」
振り返ると、颯真が俺をじっと見つめていた。
「そいつは動かなくなっただけ。生きてるか死んでるかまだわからないから、近づかない方がいい。」
「へー、流石忍者ね。慎重。」
「この職業やってると、自然にそうなるんですよ・・・。」
ミオに言われ、颯真は頭をかいた。
「なあ、ミオ。」
「ん?」
「この女性だけなのかな、操られてるみたいな人」
「どういう事?」
「さっきから、人ひとり見てないよな。で、見つけたと思ったらこいつだったし。もしかしたら今いない人、こいつみたいに操られてるんじゃね?」
「・・・。」
「いや、あくまで俺の推測で…」
「ぷっ、あはは!何言ってんのよ!不吉な事言わないでよね!」
笑われてしまった。
「でも、なかなか興味深いわね。こういう存在があること、頭に入れておこう。」
「そうだな。」
俺たちは、捜索を続けた。
結局、その日はミオの家族を見つけることはできなかった。
「まだ一日目だもん。仕方ない。」
ミオはそう言うが、俺は少し不安に思っていた。
昼間に見た、紫色の目の女性。
もしかしたら、と思ってしまうのだ。
「おーい、裕くん。晩御飯の準備、手伝って。」
「あ、オッケー。」
俺は立ち上がった。
「このナッツ持ってって。」
「はいはい。」
俺は木製のお椀を渡された。中には、昼に見た四角い実が入っている。
「ほい、颯真。」
「あ、これ畑で見た。」
「お前も?」
「うん。」
俺は座布団に座った。
「はーい、お待たせ。」
ミオが机の真ん中に土鍋を置く。
「ピリジャヤ汁でーす。ここらへんの伝統料理。」
「へえ。全く知らね。」
「そりゃそうだ。魔法界でしか栽培されてないんだもん。ピリジャヤ。」
「そのピリジャヤって、どれ?」
「一番上に盛ってある黄緑の葉っぱ。」
「ああ、これか。」
俺は箸でそれをつまみ上げた。
「いただきます、っと。」
口の中に放り込む。
「・・・。」
食感はチンゲンサイみたいにシャキシャキしているが、味は全然違った。まろやかで甘味が強い。
なんだか不思議な野菜だ。
「さ、遠慮せずにじゃんじゃん食べて。」
ミオがどんどん勧めてくる。俺たちは腹が減っていたのもあって、一気に食べ終わってしまった。
「あー、美味しかった。」
「でしょ?やっぱ澪サマの料理は一流なのよ。」
「それよりさ、俺たちどこで休めばいい?」
「それより…」
「俺たちはここで寝ればいいんじゃね、兄ちゃん。」
「ああ、そうだな。」
「…私の部屋で一緒に寝る?」
「なっ」
「ぷっ、冗談だよ。本気にしてやんのー!」
「う、うるさいな。」
「ごめんごめん。布団、持ってくるね。」
ミオは家の奥にかけてった。
「ねえ、兄ちゃん。」
「ん、どした。」
「なんかミオ、寂しそう。」
「は?」
「いや、俺相手のスキを突く職業してるから、相手の感情が顔を見てるとわかる時があって。
なんかさっきの笑み、寂しそうだった。多分。」
「そうか。」
俺は呟き、下を向いた。
ミオはああ見えて、ためこんでしまうタイプだ。
きっと両親の事で、相当無理をしているのだろう。
俺は、はーっと小さく息をついた。