不審者、駆除
「裕くん、裕くん!」
「ん、ん・・・。」
俺はむっくりと起き上がった。ここは、小高い丘の上?確か俺、魔法界の入口にダイブして・・・。
「どうしたの裕くん、記憶喪失?」
「失礼な。」
俺はよろめきながらも立ち上がった。
そこから見た景色に、俺は啞然とした。
「ここ、本当に魔法界か?」
「そうだよ?」
当然でしょ、とミオは笑う。
いや、ここは魔法界というより、
「ど田舎じゃん。」
「ほお、もっとファンタジーな感じのを想像してたな。残念、現実は厳しいのだよ。」
ミオが言う。正直、図星だった。
「でも、見た目で騙されちゃあいけないよ。ここの住民は全員魔法が使えるのだ!」
「へえ。兄ちゃん、凄いな。」
「ああ。たしかに。」
「でしょ?じゃあまず、私の実家に案内するね。ついてきて!」
ミオは、丘を下り始めた。
俺は颯真の手を引いて、後に続いた。
「ここ。さ、遠慮なく入って。」
「お邪魔します。」
俺は靴を脱いで、ミオの実家に上がった。
ミオの実家は四方八方畑や田んぼの平屋だった。
「今お茶淹れるから、そこ座っといて。」
大きな机を指して、ミオが言う。俺と颯真は並んで着席した。
俺は横目でじっとミオを観察する。
ミオは緑茶の入ったやかんを取り出すと、それの底の部分を鷲づかみにした。
すると、掴んだ方の手から炎が噴き出した。
「!?」
一瞬にして茶は沸き、蓋の隙間から湯気が上がった。
ミオは平然とした様子でそれを注ぎ分けると、俺たちのもとへ持って来た。
「はい、お待たせ!」
「お、おう。」
「ありがとうございます。」
俺はミオから茶碗を受け取ると、すぐに一口飲んだ。
いたって普通の緑茶だ。
「さて、本題に入りましょう。」
ミオは向かい側に腰掛けると、俺たちを見つめた。
「私の家族探しについて。私はここの辺りをもう一度探してみるから、成田兄弟は田んぼ近くを探して。」
「わかりました。」
「了解」
「よろしい。じゃあ、早速・・・」
「待って茶を飲ませて。」
「ああ、ごめんごめん」
ミオはへらへらと笑った。
俺は一息で残りの茶を飲み干すと、立ち上がった。
「兄ちゃん、そっちどうだった?」
「人の気配すらない。」
田んぼのど真ん中で、俺たち兄弟は揃って溜息をもらした。
あれから今で一時間経過するが、未だにミオの家族はおろか、住民すら一人も見つけられていない。
そして近くに来てわかったのだが、ここの作物は、全て人間界には存在しないものばかりだ。
真四角の実や、角度によって色の見え方が変わる野菜。見ていて、驚くほど飽きない。
ただ、見つけたのはそれだけ。
「次は、あっち探す?」
「そうだな。」
俺たちは、今度は逆方向を探すことにした。
背の高い作物をかき分けながら、狭い道を進んでいく。
すると、前方に人影が見えた。
きっと、ここの住民だ。何か知っているかもしれない。
「すみませーん!」
俺は呼びかける。その人はゆっくりと振り向いて、こちらを見た。
大きな帽子のせいで顔はよく見えないが、おそらく女性だ。
「あのー!」
「・・・。」
すると、急に女性は高く飛び上がり、上から何かを投げつけてきた。
「うおっ!」
俺は間一髪でよける。それの正体は大きな氷塊だった。
「フシンシャ、クジョ。フシンシャ、クジョ。」
心無い声でそう繰り返す。そして、今度は大量の氷塊を投げつけてきた。
すると、
「はっ!!」
目の前に透明なバリアが現れ、全ての氷塊を弾き返した。
はっとして振り向く。そこには掌を前に突き出した、ミオの姿があった。
ミオはバリアを解くと、宙に浮かんで女性と向き合った。
「フシンシャ、クジョ。」
女性はまた攻撃を繰り出す。しかしそれより早く、ミオが炎を投げつけた。
「やああっ!!」
「グオオオオオ・・・。」
炎は見事に命中。女性はふらふらと地面にへたり込み、動かなくなった。
「裕くん、怪我はない?」
「ああ。ありがと。」
「素直でよろしい。…さて。」
ミオは倒れた女性に歩み寄ると、彼女の帽子を外し、顔をまじまじと見つめた。
「裕くん。信じられないけどこの人、実家のお隣さんだ。」
「え。」俺は言った。「じゃあなんであんな事・・・。」
「わからない。でも、この目のところ、よく見て。」
「ん?」
俺はあんまり気乗りしなかったが、女性に近づいて、目を観察した。
「あ、白目の部分がちょっとだけ紫っぽくなってる。」
「でしょ?腐ってるみたいで。あと、さっきの喋り方も変だった。まるで、誰かに操られているみたい。」
「確かにな。」
俺はもう一度、女性の目を見つめた。