ラスボスですけど勇者パーティに加わることになりました~あの勇者さん?俺に聖剣を託さないでください。俺じゃなくてあなたが魔王を倒すんですよ?あの、求婚するのもやめてください反応に困ります
「ダルクー」
俺の名前を呼ぶ少女メアに答える。
「どうしたんだよ」
「えへへー。私ダルクのことだいすきー。結婚しようよー」
俺はその少女の言葉に苦笑いを作る。
「お待ちなさいな。ダルク様が結婚するのはこの私ですが」
そこに現れた別の少女ルミア。
と、ここで終わってくれたらいいのだが
「えぇ?!私と結婚するんじゃないんですか?!」
そこに3人目の少女アヤノがやってくる。
俺を囲う3人の少女。
それどころじゃない。
俺を取り合っている。
俺と結婚するのは誰なのか。
正直に言おう。
俺の立場を考えないのであればこの求婚は嬉しいのかもしれない。
だが俺は今それどころじゃない。
だって俺君らの敵だよ?
そしてこの子達だけじゃない。
「ダルクさん!今日も俺に剣技を教えてください!ダルクさんのような強くてかっこいい男になりたいんです!」
やってきたのは勇者君。
更に
「ダルク!あんたになら妹のアヤノを任せられる。幸せにしてやってくれ」
タンク君までやってきた。
おいおい、勘弁してくれ。
何度も言うし確認するぞ?俺ラスボスだぞ?
◇
その日。
朝から魔王城に俺の叫び声が轟いていた。
「はぁぁぁ?!!!俺に勇者パーティの様子を見てこい、だぁ?!」
頷く魔王メシア。
「はい。ダルク様、是非とも様子を見てきていただきたいのです」
「何だって急にそんなことになってんだよ」
「それは、これです」
そう言って魔王は俺に水晶を見せた。
そこに映るのはよく分からん鉱石だった。
「んだよ。これは」
俺は魔王じゃないからラスボス業務なんて知らない。
「これはダーククリスタルです」
「それがどうしたんだよ?」
俺は頬杖を付いて訊ねる。
「これはまだ活性化していません。ダーククリスタルの力の源は人間の負の感情です。活性化させるには負の感情が必要ですが」
「ですが?」
俺は続きを促す。
「何と言うかダメなんですね。普通はですね。四天王も倒した!残りは私だけ!我々魔王軍にもう少しで勝てる!といった時に負け濃厚になると凄い絶望感漂うじゃないですか?」
「そうなの?」
「そういうものなんです」
その辺はよく分からないから続きを話してもらう。
「ですが!彼らは初めから諦めモードなのです!」
「それじゃだめなの?」
「だめなんです。希望が絶望に変わるその瞬間のエネルギーじゃないとこのダーククリスタルは活性化しないのです」
めんどくせぇ我儘なクリスタルだな。
あれはやなのーこれじゃなきゃだめなのー。子供かよ。
「まぁ、理屈は分かったが俺に何をしろって言うんだ?」
「これを見てください!」
そう言って水晶に別のものを映す。
それは勇者君だった。
『100G無くした……この世の終わりだ……』
そこには100G無くしただけで膝から崩れ落ちている勇者君が映し出されていた。
ちなみに100Gは別に高くない。リンゴ1個分だ。
「こいつ、何でこんなメンタル弱いの?」
「知りませんよ、私が聞きたいです」
俺は黙って水晶を見つめる。
『おらぁ!勇者!金出せや!』
『ひっ!や、やめてください!』
そこには別の男にボコボコにされる勇者君の姿が映されていた。
その姿に涙が出てきそうだ。
「俺は今何を見せられてるの?」
「何気ない勇者の日常です」
おいおい、ひでぇな勇者の日常。
てか情けなさすぎだろ?
「何でこいつが勇者なわけ?勇者のゆの文字もないけど」
「知りませんよそんなこと。人間側のクリスタルが選んだみたいですよ」
どう考えてもこいつを勇者にしたの人選ミスだろ。
というより何でこの世界のクリスタルは揃いも揃ってこんなにポンコツなんだよ。壊れてんじゃないのか?!
「という訳で酷いんですよね。この人たち」
「まぁ、酷かったな」
「何も思わないんですか?あなたは」
「何が?」
「勇者が情けなさすぎることに対してです」
「どうでもいい」
俺がそう答えると
「私はどうでもよくありません!」
ドン!
テーブルを叩いて立ち上がる魔王メシア。
「さっきの見てわかった通りあの勇者達じゃ1万年かかっても私のところにこれませんよ?!ダーククリスタルの力がないと世界征服出来ないんです!」
「じゃあしなけりゃいいじゃん」
「私は息をするように世界征服をしないとだめなんです!死んじゃうんです!そういう病気なんです!」
「それは大変だ。薬を出してもらえ。じゃあ俺はこれで」
立ち去ろうとするも
「ぶべっ!」
襟首を掴まれた。
「痛いじゃないか」
俺がそう言うとメシアは右手の人差し指にリングを通していた。
そしてそのリングに付いているのは鍵。
「何の鍵だ?」
「え?あなたの部屋の鍵です」
ニンマリと笑うメシア。
「あ、あのメシアさん?俺腐ってもあなたより強いんですけど?捻り潰しますよ?」
「それ、あの部屋だけの話ですよね?それにそんな事してもお互いに意味なんてないですよね?」
「うぐっ……」
何も言えない。
俺は本来この時空にいる存在ではない。
俺は本来【闇の間】と呼ばれるここじゃない世界で暮らしている。
その中では俺は文字通り最強だ。
俺の右に出るものなんていない。
そこで俺はひたすら勇者が来るのを待つ。それが仕事だった。
でも勇者は来ない。
理由は見ての通り勇者があの有様だからだ。
そして俺の部屋とこの次元を繋ぐ扉がある。
それはメシアしか開けられないものだった。
そして閉めるのもメシアだけ。
そう。この鍵はその扉のものだった。
そして俺がこの鍵を奪っても開けられないのだ。メシアの意思がないとあの扉は開かない。
だからお互い、と言うより俺側に一切のメリットがない。
くそ、やられた。こちらの世界に出てきた段階で判断ミスだったのだ。
「という訳で勇者パーティのサポートお願いしますね♡それにずっと暇ですよね?たまには引きこもってないで外に出てくださぁい」
「はぁぁぁぁぁ……」
盛大に溜息を吐いた。
パワハラやめてください。
◇
そんなこんなで俺は勇者がいるという始まりの村という場所に来ていた。
さっさと勇者を鍛えて魔王の所に連れていこう。そうすれば俺はまたあの部屋に戻れるんだから。
「さて、勇者君はどこかな」
とりあえずあの情けない勇者と合流しないと何も始まらないということで探してみることにした、のだが。
「あーあー……」
言葉が出ない。
「おい!勇者!魔王は倒したかよ!」
「やめてやれって!こんな情けない奴に魔王を倒せるわけないだろ」
2人組の男に虐められている勇者を見かけた。
「や、やめて」
先が思いやられるけどさっさと先に進めるために助けてやるか。
俺は歩いて近寄る。
「取り込み中のところ悪いけどさ」
俺がそう口にするとギロリと2人の男が俺に目を向けた。
「なんだコイツ」
「お前には関係な……」
2人目の言葉は最後まで聞かない。
俺は風魔法を使ってフワリと2人組をどこかへ吹き飛ばした。
そうしてから髪の毛をクシャリと握ってから勇者に声をかける。
「大丈夫か?」
「は、はい!助かりました!」
「そうか。なら良かった」
俺はそう言ってから何を言おうか考えていると先に勇者が口を開いた。
「あ、あの」
「何?」
「名前を教えてくれませんか?」
「ダルク」
短くそう名乗った。
別にこの名前は人間たちには広まってない。
だから名乗っても問題ないだろう。
「ダルクさんですね!あの、ダルクさん、俺もダルクさんみたいに強くなりたいです」
そうだな。強くなってくれ。
じゃないと俺は何時までも自分の家に帰れない。
「あのどうやったら強くなれますか?」
「修行するだけじゃないのか?」
俺は闇の間で生まれてずっと修行していた。
そうしたら強くなっただけだ。
「なるほど、修行、ですか」
「それよりお前は聖剣を取りに行けよ」
お前が聖剣を取りに行かないと話が1つも進まないんだよ。
聖剣があれば何だって出来るだろ。
「聖剣、ですか」
「勇者なんだろ?」
「は、はい。そうですけど」
俺達がそんな会話をしていた時だった。
じーっ。
俺を見ている視線に気付いた。
そちらを見たら
女の子が物陰から俺を見ていた。
サッ!
でも直ぐに隠れてしまった
何なんだ?そう思って見ていたらまた顔を出して何かを決心した感じでこちらにやってきた。
そうして
「あ、私はメアといいます」
と自己紹介してくれた。
「俺はダルク、だ」
そう名乗ると
「私は勇者の幼馴染です。先程は勇者を助けて下さりありがとございます」
と頭を下げた。
ふぅん。勇者と違ってシャキシャキしてるな。
「さ、ダルクさん。こちらへお礼をさせてください」
少女はどうやら勇者を助けたお礼をしたいらしく俺を先導してくれる。
好意は素直に受けておこうか。
そう思った俺は少女について行くことにした。
案内されたのはメアの家だった。
「邪魔するぞ」
そう言って上がろうとした時奥から人が出てきた。
「まぁ、メアが男の人を連れてくるなんて」
「お母さん、紹介するわ。こちらダルクよ」
ここに来るまでに砕けていいと言ったら口調を砕いてくれたメア。
俺としてはこの方が話しやすいか。
敬語で話されるとメシアを思い出す。
「ども」
じーっと見られて俺は思わずそんなこと返事しか出来なかった。
「まぁまぁ、娘をお願いしますねダルクさん」
お前何か勘違いしてないか?
そう思いながら俺は上がる。
その間も俺から視線を外さない母親。
「いい人捕まえたわねメア」
「もう!そんなんじゃないから!」
小声で話し合ってる2人だが全部聞こえている。
その後に勇者君が居心地悪そうに上がってきた。
俺は話を変えることにした。
「メア、案内してくれ」
「う、うん。こっちよ」
俺と勇者はメアに案内されて応接間に向かった。
そしてそこの椅子に腰掛ける。
「改めて勇者を助けてくれてありがとうダルク」
俺はそれに答えずそれっぽく話を切り出すことにした。
「なぁ、勇者」
「は、はい!何でしょう!ダルクさん!」
こいつも砕けていいと言ったが変わらなかったのでもう諦めた。
「お前は勇者に選ばれたのだろう?何故こんなところでグズグズしている。俺は旅人だが色んな国でお前の活躍を待っている人を見てきたぞ」
もちろん捏造だが活躍を期待している奴は多いだろう。
「そ、それは……」
俺から目を逸らし右下を見る勇者。
「別に責めてるわけじゃない。そこんとこ考え直して欲しいだけだ」
俺がそう言っている間に勇者は右手と左手でジャンケンをしていた。
右手がグーで左手はチョキ。
「だめだ……」
「何がダメなんだ」
「右手側に座っているのはダルクさんです。これはつまり俺よりダルクさんの方が勇者に相応しいということでしょう……俺の生きている意味って……ないんだろうな……ははっ」
……何なんだよこいつは。
「兎に角、俺は何があってもお前に勇者として振舞ってもらう」
そう言って俺は立ち上がると勇者を奮い立たせる。
「クリスタルが選んだのは他でもないお前なんだ。踏ん張れ勇者」
勇者は一瞬俺を見たかと思ったら直ぐに視線を下に落とした。
「は、はい……」
何なんだよこいつ……。もうやだ。おうち帰りたい。
「大丈夫?勇者?」
メアにもこうやって心配されている。
「む、無理……もう無理……だよ」
無理じゃないんだが。
もうちょい頑張ってくれ。
◇
翌日。
俺たちは聖剣があるとされている場所に来ていた。
それは奈落の谷という場所。
「無理無理無理無理無理!!!!!!」
俺の隣でガクガクと震えている勇者。
「こ、この谷を渡るなんて無理ですよ!!!!ダルクさん!!!!!」
目の前にあるのはボロい吊り橋だ。
こいつは今その吊り橋のロープの部分にしがみついてる。
「この谷を超えないと聖剣が取れないって言ってるだろ?」
「無理無理無理無理無理無理無理ですよ!!!!」
「そうだよ。勇者、ダルクの言う通りここ抜けないと」
メアまで呆れているけど無理無理無理と言って勇者は動き出しそうにない。
しかも今気絶した。
「はあぁぁぁぁぁぁ……」
こいつを待っていたら時間がいくらあっても足りない。
「捕まってろ」
「だ、ダルク?!」
メアが驚いているが俺は勇者と一緒に両脇に抱えた。
「ど、どうするの?ダルク」
「こうするんだよ」
俺は一気に谷を跳んだ。
「きゃ、きゃあぁぁぁあ!!!!」
悲鳴を上げているメアと気絶してるせいで何の反応も示さない勇者。
両極端だったけど
「よっと」
俺は直ぐに着地して2人をどサリと降ろす。
「ぶべっ!」
勇者はその衝撃で目を覚ましたらしい。
そして今のを見て目を見開いているメア。
「だ、ダルク?今のは?」
「ただ跳んだだけだよ」
「と、跳んだ?!な、何メートルあると思ってるの?」
「???何?普通だろ?」
別に大したことしたつもりはないんだが。
別に何メートルあるかなんて知らない。跳べるから跳んだだけだし。
「えぇ?!!!普通じゃないよ?!」
そう言ってくるメアだが
「あ、ありがとうございますぅぅぅぅぅ!!!!!ダルク様ぁぁぁぁぁ!!!!!」
勇者の方は相変わらず情けない反応を示すだけ。
本来はお前が先導して渡るべきだったんだがな。
と、そんなこと言ってまたネガティブになられても困るからグッと飲み込み代わりの言葉を渋々吐き出す。
「まぁ、次からは頑張ってくれ」
「は、はい!」
さて、こいつが頑張ってくれるのはいつになる事やら。
それは分からないけど俺達は橋を渡った先にあったほぼ壁になっている山を見上げた。
このテッペンに聖剣が突き刺さっているらしい。
「えーっと、何処から登るんでしょう?登山ルートなんて見えませんけど」
勇者はそんなことを言っている。
お前聖剣を抜きに行く作業をピクニックだと思ってないか?
「勇者?そんなものある訳ないじゃない」
ほらメアにも怒られてる。
なんでこんなに頭の中お花畑なんだこいつ。
「えぇ?!じゃあどうやって登るの?!」
「よじ登るしかないだろ」
そう言ってみたら勇者の顔からさっきまで見えていた光が消えた。
「ど、どうせ僕なんて……勇者にはなれないんだ……」
3角座りして砂をいじりはじめる。
本当になんなんだこいつは面倒くさいな。
「あぁ、もう分かったよ」
もう一度俺は2人を抱き抱える。
「そら!」
もう一度ビューンと飛んで山頂に降り立つと2人を下ろした。
「す、すごいです!ダルクさんは竜騎士なのですか?!」
そう聞いてくる勇者。
「違う」
「そ、そうなんですか?!」
「それより聖剣を抜け」
目の前に聖剣があるのでさっさと抜かせることする。
「は、はい!えい!」
ズボッ!
勇者が聖剣を引き抜いた。
「や、やりました!聖剣を抜けました!」
いちいち俺に報告してくる勇者。
別にそんな報告しなくても見てたから分かってる。
「さぁ、帰るぞ」
聖剣も抜けた事だし村に帰ろう。
なんか無駄に疲れた。
◇
俺達は酒場で食事をすることにした。
その席で俺はただただ黙っていた。
理由は一つだ。
俺は勇者ではない主人公でもない。
この物語の主人公は勇者だ。
彼に動いてもらわなければならない。
だからその動きを待っていた、のだが。
先に動いたのは誰でもなかった。
「ダルク!ダルク!ダルク!」
俺の名前を呼びながらメアが抱きついてくる。
「どうしたのだ?」
少し痛い頭を抑えながら尋ねる。
「あんな魔法初めて見たの!ほんとに凄かった!」
そんなことでいちいち飛びついてくるな、と思って勇者を見ていたら
「ダルクさん!」
やっと立ち上がる勇者。
やっと勇者らしいところが見られるのだろうか?
期待の眼差しで見ていたら、とことこと俺の隣にやってきた。
そして
「この世界を、メアをお任せします」
そう言って俺の前に聖剣を突き出してくる勇者君。
「はぁ?」
断言しよう。
俺がさっき口にしたのは生まれてきて初めての渾身の「はぁ?」だった。
「僕は勇者に選ばれてしまいました。でも僕より相応しい人が目の前に現れた。完敗です。僕は貴方に勇者を譲ります」
シーン。
誰も何も発さない中俺は考える。
勇者って譲れるのか?
そもそも。俺が勇者になってどうする?
俺はこれでもメシア側の存在だぞ?
そいつが勇者の剣を持って真央を倒しに行くのか?
何の茶番なのだ?
「お前だろ?勇者は」
俺は聖剣を突き返した。
「な、何故受け取ってくれないのですか?僕よりダルクさんの方が相応しいですよ」
「お前の中ではそうなのかもしれないがこの世界のシステムはお前を選んだのだ」
この世界のシステムは間違いなくポンコツだろうがな。
はっきり言って俺もこいつが勇者に相応しいとはお世辞にも言えないし。
だがここで聖剣を受け取る訳にもいかない。
「そ、そんなぁぁぁぁぁ……」
落ち込んでいる勇者に言う。
「頑張れよ勇者はお前だよ」
そう言い残して俺は立ち上がる。
「じゃあ俺はこれで」
元々俺はサポートをしろと言われただけだ。
適当なタイミングで適当にサポートをしていればいい。
それ以外はただこいつらを眺めているだけでいいはずだからな。
そう思った俺はこの酒場を後にしようとしたのだが
「ま、待ってください!ダルクさん」
俺の裾を掴んでくる勇者。
「どうしたのだ」
「で、では仲間になってくださいよ」
また呆気に取られた。
「仲間、だと?」
「はい。それならいいですよね?勇者は僕がやりますから」
これはどうなんだろう?
俺が聖剣持ってメシアの城に乗り込むより遥かにマシになったけど。
悩んだけど
「分かった。仲間になろう」
俺がそう答えると勇者が顔に笑顔をうかべた。
「あ、ありがとございます!!!」
◇
酒場を後にした俺はとりあえず木の幹の上に座っていた。
下には俺を追ってこようとした2人の姿が見えた。
「ど、どっちいったのかな?!あの人!」
メアがそう言いながら勇者君を引っ張っている。
「ど、どうしたのさ?メア。そんなに焦って」
「あの人は私の運命の人なの」
そう言い始めるメア。
ズルっと木から落ちそうになった。
何故、そうなる?
「勇者!探すよあの人を!」
「な、何で僕まで」
「文句言ってないで黙って探すのよ」
そう言って俺を探し始める2人。
俺は今自分の姿が周りに見えなくなる魔法を使ってるから見つかることはないだろうがな。
それにしても今日はどっと疲れたな。
もう寝たい。
次に目覚めたら夜が開けていた。
「んー」
背伸びをしてから木の枝から降りる。
「さて、今日も勇者の様子でも見に行くか」
そうして俺が勇者を探していると今日も見てしまった。
「勇者!聖剣手に入れたんだってな」
「勇者のくせになまいきだ!俺たちが代わりに聖剣を使ってやる!」
ただの村人にいじめられている勇者君を。
「やめて!叩かないで!聖剣あげるからいじめないで!」
あのさぁ、勇者君?
「へへへっ、分かってるじゃねぇか勇者」
はぁ、ため息1つ吐いて俺は勇者の方に向かおうとしたけど
「ちょっとやめてよあなたたち」
そこにメアが現れた。
勇者と男達の間に立つ。
「勇者、おめぇ女に守れてんのか?」
「だっさ」
男2人組みがその光景を見て笑う。
メアに任せようかと思ったけど流石に分が悪そうだ。
俺も合流することにしよう。
「よう」
2人組みに声をかけると。
「げっ、お前こないだの」
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!!」
俺を見た2人組みが去っていった。
会話を聞く限りどうやら昨日の2人組だったらしい。
「怪我はないか?」
怪我が無いことなんて最初から見てたから分かるけど。
俺はさも今までの光景を見ていないかのように振る舞う。丁度今来ましたよ感を出すためだ。
「う、うん。ないけど……」
顔を赤く染めるメア。
どうしたんだ?
そう思いながら勇者に目をやると。
「ひ、ひぃぃぃぃい!!!聖剣あげるから許してぇぇぇ!!!!」
お前には何が見えてるんだ?
そう思いながらメアに目を戻すと。
「た、助けてくれてありがとう。そ、その怖かった」
「そっちの勇者はお前位以上に怖かったみたいだけどな」
まだブルブル蹲って震えている勇者。
「頑張ってくれたよメアは」
「う、うん」
満更でもなさそうなメア。
「ね、ねぇダルク」
「ん?」
「わ、私もパーティに入れてくれないかな?私はダルクのために働きたい」
「はぁ?」
何で俺に確認するんだ?
「そういうのはそこで寝てる勇者に聞けよ。俺は1メンバーに過ぎない。そんな決定権はない」
「あっ」
そこで気付いたような反応をするメア。
本気で俺に決定権があるとでも思っていたのか。
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!!許してぇ!!!!」
でも会話にならなさそうだ。
そんな勇者を見てから溜息を履いてメアは俺に目をやる。
「ねぇ、ダルク。私一目惚れしました」
そう言ってくるメア。
「はぁ?」
昨日から俺「はぁ?」ばっかりな気がする。
「わ、私を彼女にしてくれませんか?」
上目遣いで聞いてくるメア。
おいおい、どうなってんだよ。
俺は咄嗟に勇者の方を見る。
「そ、そんなメアがダルクさんの事を好きだなんて……」
ショックを受けているような勇者だが。
「そうだね。ダルクさんが相手なら仕方がない。ダルクさんメアを幸せにしてあげて下さい」
真剣な顔でそう言ってくる勇者。
何を話をまとめようとしてるんだこいつらは、流石の俺も動揺を隠せない。
「僕はここで引き下がりますよ」
そう言って自分の持つ聖剣を俺に渡してくる。
「やはり僕は勇者には相応しくないようです。ダルクさんみたいに強くてかっこいい人じゃないと勇者なんて……ぐすっ……務まりませんよ。僕の勇者人生終わっちゃった。も、もう終わりだ」
俺の顔からサーっと血の気が引いていく。
な、何だこの展開?!
「勇者?!も、もっと頑張ろうよ?!」
「も、もうだめだよメア……僕は終わりなんだ……」
メアの言葉を受けても頑張れないらしい勇者君。
「さぁ、受け取ってくださいダルクさん。僕は勇者にはなれないんです」
「いや、お前には勇者を続けてもらう」
そう口にする俺。
その後説得にかなりの時間がかかることになるのは当然の話だった。
◇
その日の夜。
「ダルク様。進捗の方伺いに来ましたよ」
メシアと俺はとある洞窟で密会を行っていた。
俺は手で頭を抑えて答える。
「いいと思うか?」
「その顔を見ていると確かに、ですね。そろそろ始まりの村は出られそうですか?」
「今の調子で行くなら1万年も経てば出れるだろうな。こんなに1つのことに時間をかけることなんて今までになかったよ」
皮肉を口にする。
あいつはあいつの生を終えるまでにこの村を出られるかすら分からないレベルだ。
「な、何とかしてくださいよダルク様」
「無茶言うなよ。お前も見れば分かるぞ。あれのだめさは」
「明日、草原で待ってます」
「はぁ?どういうことだ?」
俺の問いかけに短く答えるメシア。
「勇者を連れてきてください。貴方も仕事は早く終わる方がいいでしょう?」
「まぁ、そうだが」
俺もさっさとあの部屋に帰りたいしな。
しかも、何で俺が勇者のお守りさせられてるんだよ。
「俺お前が言うにはラスボスなんだろ?」
「そうですね。私を苦労して倒した先に貴方が待っているんです」
自覚はないけど俺は一応ラスボスらしいんだよなぁ。
で 、何でそのラスボスの俺がこんなことさせられてるんだほんとに。
「勇者の心に火をつけないとどうにもならないので明日草原集合でお願いします」
「善処しよう」
はぁ、大変なことに巻き込まれたものだな。ほんとに
◇
翌日。
俺は勇者とメアを連れて草原に来ていたが殆ど無理やりだ。
「何処へ向かうつもりですか?ダルクさん」
不安げな顔で聖剣を持ちながら俺に付いてくる勇者。
「あぁ、レベル上げだよ」
適当な事を言いながら俺は待っていた。
奴の到来を。
待ち合わせして来ないとか論外だぞ?
そう思って待っていたら
いたー!!!!!
岩の上で仁王立ちしている誰かがいた!
「あ、あれは魔王軍四天王の1人カーナ!」
メアがそう叫んだ。
「ふっ。誰かと思えば人間か」
ゆったりとした動作でぴょんと岩から飛び降りて俺たちに向かってくるカーナという人物。
魔王軍四天王、そういうのがあるんだな。
「ひ、ひぃぃぃいぃぃ!!!!あ、あのカーナ?!!!!!」
勇者はと言うとそう言って俺の後ろに隠れる。
「に、逃げましょうよ!ダルクさん!」
「何を言ってる?丁度いいだろう。探す手間が省けたと思え」
俺は勇者を前に出すと口にする。
「さ、倒しにいけ」
「む、むむむむ、無理ですよ?!!!」
聖剣を握ってはいるけどガクガクと体を震わせている勇者。
「ふふふ、勇者と言えど私の圧には屈するようだな」
カーナがゆったりと近付いてくる。
そして
「闇魔法レベル3 ダークソード」
魔法を使い魔法剣を作り出すとそのまま斬りかかってくる。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
勇者が吹き飛ばされた。
そしてそのままピクピクと体を動かして起きてこない。
アイツ気絶してないか?
「こ、このよくも勇者を!!!!」
メアがカーナに向かっていく。
しかし
「闇魔法レベル1 ダークウィンド」
カーナの魔法ダークウィンドによって軽くあしらわれてしまう。
「きゃぁぁあぁぁあ!!!!!」
どサリ、背中から叩きつけられるメアだが勇者と違ってまだ起き上がる。
「な、なんて強さなの……うぅ……」
「ふん。勇者と言えどこの程度か」
笑いながら近付いてくるカーナ。
どうやらトドメを刺そうとしているらしい。
お、俺はどうしたらいいんだ?この場合。
おいおいおい、やばそうではないか?
ここでメアを殺させていいのだろうか?
勇者だぞ?あの勇者の目の前でメアを殺されてはあいつは絶望して2度と立ち上がらない可能性がある。
そう思った俺は
「闇魔法レベル5───────アビスゲート」
アビスゲートをカーナに使う。
「むっ!何だこれは?!」
アビスゲート、深淵と呼ばれる場所に繋ぐ穴を対象の下に作り出す魔法。
その穴から出てきた無数の手がカーナを拘束する。
「う、動けない!!!何だこの魔法!ぎにやぁぁぁぁあ!!!!!」
よく分からない悲鳴を残してカーナはそこへ取り込まれていったが死にはしない。
あれが続いている先を魔王城にしてあるからだ。
「大丈夫か?」
俺はメアに駆け寄り確認を行うと彼女はその瞳から涙を流していた。
「う、うぇぇぇぇぇぇん!!!!だ、ダルクぅぅぅぅ!!!怖かったぁぁぁぁぁ!!!!!」
「お、おい?」
そして俺に抱きついてきた。
その後俺は2人を連れて宿に戻った。
◇
「な、何をやってんすか?!ダルク様?!」
俺は夜再度メシアに呼び出されていた。
隣にはカーナもいた。
「何って言われた通りにやっただけだが」
「カーナを倒してしまってどうするんですか?!」
「ごめん。どうすればいいか分からなくてさ、でも何も説明されてなかったし」
「そ、それは私も謝りますけど」
メシアが頭を下げてくる。
「あの後私が『この程度かつまらん』と言って辺境の地に勇者パーティを飛ばす段取りだったんですよ」
カーナがそう言ってくる。
「そういうのは先に言ってくれないとさ。あの勇者メンタル弱すぎだからさ。万が一考えちゃった」
「たしかにメンタルも弱いし実力もないですよねあの勇者」
カーナもそう言っている。
「どうするんですか?ダルク様。私のプランが水の泡ですけど」
ジト目で見てくるメシア。
「また考え直してくれ」
「そ、そんなぁぁぁぁ」
ガクリと肩を落とすメシア。
悪いことをしたけど仕方ないよなあれは。
「それより俺、勇者君に呼ばれてるからそろそろ行くな」
「わ、分かりました。こちらも次の作戦が立ち次第お知らせするので」
「任せた」
そうして俺たちは別れた。
俺は勇者の下へ。奴らは魔王城へと戻るのだ。
そうやって村に戻ってきた時、勇者の家の前で勇者君とメアが会話していた。
「メア。俺は勇者として冒険するよ」
「ようやく決心したの?」
呆れたような声で言うメア。
「うん。ダルクさんのような強い男になりたいんだ」
「ぷ。ぷぷぷ。な、なれる訳ないじゃないあなたが」
笑いながらそう言ってるメア。
そこまでにしてやれよ。
「そんなこと分かってるさ。でも僕はダルクさんと共にパーティを組めばどんなところだって行けそうなんだ。だってあの人強いから任せてればどんな敵だった倒せるよ」
何でお前のお守りを俺が全面的にしないといけないのだ。
そう思う。
はぁ、こいつが一流の勇者になるまでどれくらい時間がかかるんだろうな。
にしても俺はかなり動いたと思ったけど、俺たちの旅はまだ始まってすらないことに驚いた。
だってここはまだ───────始まりの村なのだから。