1私は今、恋をしている。
駅ですれ違った彼を、好きになる。
偶にすれ違うと、嬉しくなる。
もっと彼を見たくなって、
彼とすれ違う時間を覚えた。
彼の電車の時間を覚えた。
彼の乗る電車を覚えた。
魅力的な彼を、もっと見ていたい。
自然体な彼を、もっと見ていたい。
いつの間にか、
彼の乗ってくる駅を知った。
彼は自転車で駅に向かうと知った。
彼はマンションに住んでいると知った。
自室に戻って、鍵をかける。
一人戻って、鍵をかける。
知る事は喜びで、
隣人を装って差し入れを持っていく。
知る事は哀しみで、
仕事を装って差し入れを持っていく。
彼は一人暮らしだった。
家族は遠くに住んでいた。
彼は病気だった。
家族は全く知らされていなかった。
彼は入院する事になった。
彼の横顔。
彼の苦しげな顔。
彼の笑顔。
彼の辛そうな顔。
様々な表情を見せてくれるようになった彼。
写真を一枚、少し離れて儚い笑顔を。
スーツを一着、少しよれてる着慣れたものを。
残り火は微かになり、
私の想いは燃え上がる。
彼が欲しい。彼しか居ない。
私が必要。私しか居ない。
横になっても格好良くて、
目をつぶっても綺麗な顔立ち。
ああ、私は今、恋をしている。
この燃え上がる様に、
弾け飛びそうな鼓動は、
誰にも止めることが出来無い。
さあ、私と共に、行きましょう。
大丈夫、喋れなくても。
大丈夫、動けなくても。
大丈夫、愛してくれなくても。
私が、貴方を好きなのだから。
私が、貴方と共に居たいのだから。
さあ、私と共に、帰りましょう。