墓参り
「あ、ここだ」
地図から顔を上げた百花が、明るい声で指差した。
商店と民家が入り混じる古風な町の大通りから少し外れた場所に、目的の寺はあった。
始めて訪れた場所である。百花は額に浮いた汗を手の甲で拭いながら、荘厳な門構えを見上げた。
どっしりとした門の両脇を、瓦を乗せた漆喰の塀が囲んでいる。
造りからして随分と由緒正しい寺のようだ。
美加と亜樹美は気後れした表情で、百花の後ろに立っていた。
「ほら、行くよ」
後ろの二人に手招きしてから、百花は率先して門を潜った。
美香と亜樹美も百花の後から寺の敷地に足を踏み入れる。
門を潜ると、切れ目なく車が行き来する通りの喧騒が消えて、嘘のように静かになった。
高校生の百花達が寺を訪れるなど滅多にない。
三人は人影のない境内を、もの珍しそうにきょろきょろと見回した。
手入れの行き届いた植栽と大きな桜の木の奥に、歴史のありそうな寺院が建っている。
雲一つない空を燕がキュルキュルと元気に囀りながら飛んでいく。
久しぶりの梅雨の晴れ間に、太陽がえらく眩しかった。
手書きの地図を頼りに、境内から三か所に分かれて作られた細い道の一番右端を少し歩く。
目の覚めるような青い紫陽花が数株並んでいる小径の奥に、墓地が広がっているのが見えた。
右から左へと視線を移動させる。意外と広い墓地だった。。
目に入るのは墓石ばかりだ。百花は墓地の入り口に立って、二枚目の地図を取り出して広げた。曲がりくねった墓道を記す赤い線が目的地まで伸びている。
「田中家の墓ってあった?墓石が丸いやつ」
百花が地図に目を近付けながら言った。
「そこを左に曲がるのね。それから?」
三人は額をくっつけるようにして、地図を見ながら足を進めた。
「このまま少し歩いて、と。行き止まりに寺本家のお墓があって……寺本家の墓を右に曲がって、ザクロの木が生えている手前にある佐々木家の墓を、また右」
「ザクロの木って見たことないんだけど」
「私も知らないけど、多分、あれかな?」
首を傾げる美香と亜樹美に、百花は、濃い緑の葉の間から橙色の花をのぞかせている木に顎でしゃくった。
「あったよ。谷崎家の墓」
案内図がなければ、一度や二度来たくらいでは絶対にたどり着けない墓の前に、三人の女子高生は立っていた。
からんと晴れた空の下、あまり広くない墓の敷地の真ん中に、墓石が一基ぽつんと立っている。
長方形の墓石に谷崎と苗字が大きく彫ってある。花立に仏花はなく、線香置きも空だった。
「本当にここで合っているの?死んでからまだ二か月も経っていないのに、随分と殺風景ね」
訝しげな顔をした美加が首を傾げる。
「そうなんじゃないの。苗字が一緒だもん」
「同じ苗字の別の人の墓だったりして」
「まさか」
百花が墓石の後ろに回って確認した。
そこには自分達と同じクラスに在籍していた少女の名前が刻まれてあった。
佐弥子 令和〇年 四月二十八日没 享年十七歳
「やっぱり佐弥子のお墓だわ」
百花は墓石の前にしゃがむと、神妙な顔で手を合わせた。百花に追従するように美加と亜樹美も手を合わせる。
「佐弥子、成仏してね」
墓石に向かって一礼すると、百花は顔を上げた。
「さてと。美加、亜樹美、あんた達、何かお供え物持ってきた?」
百花に突然聞かれて、美加と亜樹美は困った顔を見合わせた。
「え~。私達、何も持ってこなかったよ~」
間延びした二人の返事に、百花が鼻に皺を寄せる。
「ひっどーい。あんたたち、それでも同級生?お墓参りって、普通、お花とか線香とか持ってくるでしょうに」
その言葉に少し鼻白んだ美加が百花に聞き返す。
「じゃあ聞くけど、百花はお供え物、何か持ってきたの?」
美加の問いに、百花は得意げな顔をしてバッグの中をごそごそとやりだした。
「ほらこれ」
手に持っていたのはコーンポタージュスープの入った細い円筒状の缶だった。
それを見た美加と亜樹美はぷっと噴き出した。
「ちょっとぉ、なにそれ。やだぁ!」
「こんなに蒸し暑い日にポタージュスープだって。ひどくない?」
けらけら笑う二人に、百花が嘲るように鼻を鳴らした。
「いいの。最後の嫌がらせだもん」
百花から投げるように手渡された缶の熱さに、美加はきゃっと叫んで亜樹美に缶を放った。
「あちちっ」
亜樹美は笑いながら百花に缶を投げた。
百花は自分に投げられた缶を叩き落とした。缶は三人の足元に落ちて転がった。
「はい。佐弥子、あんたへのお供え物」
缶を拾い上げた百花は、爪先立ちして佐弥子の墓石の天辺に置いた。
コーンポタージュスープの缶を頭に乗せた墓石は、えらく間が抜けて見える。
「じゃあね、佐弥子。くれぐれも化けて出たりしないでね」
三人は軽く手を振って、佐弥子の墓を後にした。
「来た時もだけど、すごいくねくね道で、目が回りそう。出口が分からなくなっちゃう」
亜樹美が辺りを見渡した。どこを見ても目に映るのは墓ばかりで、不安げな表情になる。
「大丈夫よ。詳しい案内図があるんだから」
百花が自分について来れば安心とばかりに案内図を広げた。
取り敢えずは、ザクロの木が目印だ。
来るときは、ザクロの木を右に曲がったから、今度は左に道を曲がればいい。
百花はザクロの前をすたすたと通り過ぎた。美加と亜樹美が、百花の茶髪に染めたロングヘアを眺めながら後ろから付いて来る。
「次は寺本家の墓を左へと。それから田中家の墓を、今度は右に曲がる」
口の中で呟きながら、百花は両脇に墓が並列する狭い通路を進んで行った。
「あれ?」
素っ頓狂な声を上げたのは亜樹美だった。
「ねえ、私達、元の場所に戻っちゃったみたいだよ?」
「何言ってんのよ。そんな筈ない……」
怒ったように顔を顰めた百花の目の前に、頭に缶を乗せた墓が現れた。
「え!あ、あれ?」
百花は驚いて墓石を見た。
佐弥子の墓だった。
缶に目をやると、コーンポタージュスープの銘柄が目に入った。自分がさっき置いた缶に間違いない。百花は自分と同じように目を剥いている二人に顔を向けた。
「曲がるところを間違えたみたい」
手に持った案内図を凝視しながら百花は歩き出した。
一番最初はザクロの木が目印だ。
「ザクロの木を左、だよね?」
百花は美加と亜樹美を振り返ると、確かめるように聞いた。
「う、うん。そうだね」
美加が百花の持っている手書きの案内図を覗き込みながら頷く。亜樹美は顎を小刻みに震わせるだけだった。
「次は寺本家の墓を左」
断言するように百花が大声を上げる。
「最後に田中家の墓を右」
百花が次第に急ぎ足になる。美加と亜樹美も歩を早めてその後を追った。
「ねえ、見て」
亜樹美が悲鳴を上げた。三人の前に、佐弥子の墓があった。
「一体、どうして……」
絶句して立ち竦む百花に亜樹美が縋りついた。
「ねえ、どうして私たち墓地から出られないの?!なんで?なんで?」
自分の二の腕にぎゅうとしがみ付き喚く亜樹美を、百花は乱暴に振り払った。
「うるさいわね。道を間違えたからに決まってるでしょ!」
百花は手に持っている案内図を広げようとしてはっとした。
いつの間にか握りしめていたらしい。案内図の薄い紙がくしゃくしゃになって所々が破けていた。震える手で広げると、水性ペンで描かれていた道順が手の汗で滲んで見えなくなっている。
「そんなぁ。これじゃ、道が分からなくなっちゃったじゃないの」
悲惨な状態になった案内図を見た美加と亜樹美が、非難の声を張り上げた。
「何よ、あんた達。私のせいだっていうの?」
カルガモのヒナのように何も考えずに自分の後ろを歩くだけだった二人を、百花は睨んだ。
「私がずっと案内図を見てたのよ。ぼんやりしているあんた達と違って、道順はしっかり覚えているんだから!」
美加と亜樹美を怒鳴りつけると、百花は踵を返して歩き出した。
「百花、待ってよう」と、後ろから情けない声が聞こえてきたが、構わずに足を速める。
「ザクロの佐々木を左。寺本を左。そして田中を右」
呪文のように唱えながら歩いた。田中家の墓を右に曲がった百花は小走りになっていた。
待ってよぅ。待ってよぅ。
美加と亜樹美の泣き喚く声が次第に遠くなる。はあはあと息を切らしながら走る百花の前に、またしても佐弥子の墓が姿を現した。
声を失って立ち竦む百花の後ろから、美加と亜樹美が泣きながらよろよろと走って来る。二人は百花の背中にぶつかると足を止め、ひいいいっと、息も絶え絶えな悲鳴を上げた。
「やだ!また佐弥子のお墓に来ちゃった!私たち佐弥子に呪われちゃったのよ!」
美加が大声で泣き出した。
「百花、あんたのせいよ!あんたが佐弥子にひどい事するから!」
百花は呪われたと繰り返しながら泣き叫ぶ美加に向き直ると、その頬を思い切り引っ叩いた。あまりに強く叩かれた美加は、地面にばったりと倒れ込んだ。
「私のせいだっていうの?じゃあ、美加、あんたはどうなのよ。佐弥子の制服をプールに投げ込んだの、あんたじゃないか」
百花は地団駄を踏みながら美加に怒鳴った。
「佐弥子の教科書、表紙だけ残して中身のページを全部カッターで切り刻んだのもあんたでしょ!あの子のお弁当、廊下にぶちまけたのも美加だったし」
「全部、あんたがやれって、言ったんでしょ!」
美加が派手な嗚咽を繰り返しながら百花に言い返した。
「百花が指図したんじゃないの。私、あんたに脅されて仕方なくやったのよ。だって、あんたは三年の不良グループと付き合いあるんだもん。あんたの命令を聞かなかったら、今度は私がいじめのカーゲットにされちゃうから」
「うるさい、うるさい!」
百花は地面にへたり込んでいる美加を両手で叩き出した。
「ねえ、やめなよ。こんな所で喧嘩したって、どうしようもないじゃない」
亜樹美が立ち竦んだまま、蚊の鳴くような声で言った。百花は歪んだ笑みを口元に浮かべて亜樹美を睨み付けた。
「なによ、亜樹美。あんたはいつも他人事みたいな顔して、美加が佐弥子をいじめるの笑って見てたくせに。私が佐弥子の上履きを男子トイレに投げ入れろって命令した時、あんた、市橋にやらせたでしょう?市橋はあんたに気があるからね。自分の手は絶対に汚さないあんたが、一番ずるい。佐弥子に呪われるとしたら、亜樹美、あんただ」
呪われると百花に言われて、亜樹美の顔がすっと青くなった。
「何言っているの、百花。佐弥子に呪われるのはあなたしかいないわよ。だってあなたが佐弥子を屋上から突き落としたんだもの」
亜樹美の言葉に今度は百花が真っ青になる。
「私は佐弥子を屋上から突き落としたりなんかしていないわ。あの子が勝手に落ちたのよ」
「嘘ばっかり。私も見ていた。百花が佐弥子を屋上のフェンスから突き落としたんだ!」
涙と土で汚れた顔を百花に突き出して、美加ががなり立てた。
「佐弥子をフェンスまで引き摺って行ったのは美加でしょ?私じゃないわ」
「ナイフで脅して佐弥子をフェンスの外側に追いやったのは、百花、あんたよ」
佐弥子の墓の前で、百花と亜樹美は醜い言い争いを始めた。
「もう、やめて!墓地から出る方が先でしょ」
「ええ、そうね」
亜樹美の言葉に、百花は二人を置いて脱兎の如く走り出した。
「佐々木、左!寺本、右!田中、右!」
号令を掛けるような大声を出しながら、百花は記憶している道順を全速力で走った。
友人二人の情けない声が次第に小さくなっていく。百花は立ち止らずに走り続けた。
照り付ける太陽の下、髪を振り乱しながら必死の形相で、百花は走った。
視線の両脇を流れる風景は墓、墓、墓。
全て墓だ。
走っている途中で、何度も橙色の花が右側の視線を掠っていく。
あれはザクロの花だ。
何故、何回も目に留まるのだろう。
汗だくで立ち止った百花は、また、佐弥子の墓の正面に立っていた。
「ぎゃあああぁぁ」
あらん限りの悲鳴を上げると百花はその場にへたり込んだ。
「きいいいぃぃっ」
布を手で裂くようなヒステリックな悲鳴に後ろを振り向く。美加と亜樹美が百花の後ろで腰を抜かして、全身をがくがくと震わせていた。
「ごめん。ごめんね、佐弥子。本当にごめんなさい!」
美加が号泣しながら顔を地面に擦りつけて、佐弥子の墓に土下座した。
「あなたもさっきの話を聞いていたでしょう?本当は私、あなたをいじめたくなかったの。百花に無理やりやらされていたの。だから許して。墓地から出してよう」
美加の行動をぽかんと見ていた亜樹美が、慌てたように地面に膝と手を付いて頭を伏せた。
「そうよ。私たち、百花に付き合わされただけなの。それにあなたを殺したのは百花だからね。私じゃない。お願いだから許して!ここから出して下さい」
「バカじゃないの、あんたたち。墓に土下座なんかして」
そう言って、佐弥子の墓前に並んで土下座する美加と亜樹美を、百花は軽蔑したように眺めた。
地面から立ち上がった美加と亜樹美は、何も言わずにふらふらと歩き出した。百花はザクロの木を右に曲がる薄汚れた格好の二人を唖然と見つめていた。
「ねえ、ちょっと。そっちは反対方向だって」
声を掛けたが、二人は足を止めることなく墓石の林立する細い道を無言で歩いて行く。
「美加、亜樹美、待ってよ。私を置いていくつもり?」
百花が急いで後を追う。二人の姿は墓地から忽然と消えていた。
「二人ともどこ行ったの」
一人にされて、百花は悲鳴を上げた。
美加と亜樹美が歩いて行った墓地の中の小径を、百花は駆け出した。
走っても走っても二人の姿は見つからない。灰色の墓石ばかりが視野を流れていく。
突然、小さな橙色が百花の視野を鮮烈に彩った。
「ザクロの花!」
百花が足を止める。進路を塞ぐように佐弥子の墓が目の前に姿を現した。
がっくりと膝を落とすと、百花は美加と亜樹美と同じように佐弥子の墓前で深く土下座をした。
「ご、ごめん…なさい」
百花は覚悟を決めて大声で喋り出した。地面についた両手の震えが止まらない。
自分は気が狂ってしまったのではないかと思った。
「佐弥子、私、あんたが気に入らなかった。だって、あんたは私より可愛いいし、性格もいい。成績だってずっと良かった。……それに私の好きな先輩が、あんたを好きらしいって噂で聞いて……それで、あんたなんかいなくなればいいと思った」
少しだけ顔を上げて墓を見る。自分が乗せたポーンポタージュスープの缶が目に入って、百花は慌てて顔を伏せた。
「やり過ぎたとは思ったよ。だけど、あんたはちっとも泣かないし、哀れんだ目で私を見るから、ついエスカレートしちゃったんだ」
屋上でも、そうだった。
「屋上に連れて行ってフェンスの前で脅した時も、あんたは泣かなかった。だから私、かっとなって、あんたを突き落としちゃった」
そんなことするつもりじゃなかったと、百花は泣きながら叫んだ。
「殺すつもりなんてなかった。本当だよ。いくらでも謝るから。だから、私をここから出して!」
どこからか微弱な風が吹いてきて、ひいひいと泣く百花の頬をそっと撫でた。弾かれるように顔を上げると、青い空を、つうっと燕が飛んでいくのが見える。
百花は両膝に力を込めて何とか立ち上がると、ふらふらしながらザクロの木を左に曲がった。
寺本之墓と刻まれた墓を右に曲がり、田中と彫られた丸い墓石をまた右に曲がる。
少し歩くと紫陽花の青い花が目に焼き付いた。
「で、ら、れ、た」
百花は安堵の涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、土で汚れた両手を前に突き出して、幼児のような足取りでよたよたと墓地を出た。
来た時にはいなかった住職が、境内寺院の前に立っている。
突然、墓地から姿を現した少女を見て、年老いた住職があんぐりと口を開けた。
「あの、二人の女の子を見かけませんでしたか?」
百花の頭から靴先にまで視線を走らせてから、住職が訥々と喋り出した。
「そういえば、さっき、女の子が二人、墓地から出てきたな。あんたの連れかね?」
住職の質問には答えずに、一礼すると百花は寺の門を潜って外に出た。
髪はくしゃくしゃ、服は汗と埃と土まみれという酷い格好に、行きかう通行人がぎょっとした顔をする。
奇異の目を向けられるのも構わずに、百花は、佐弥子が眠る墓から一刻も早く離れようと、遮二無二足を動かした。
お姉ちゃんへ
わたしは今、お姉ちゃんに手紙を書いています
本当は日記を付けているんだけど、今はもういないお姉ちゃんに手紙を出すつもりで、いつもより丁寧に書いているの
今日、刑事さんが二人、家に来ました
長い時間、お父さんとお母さんが客間の和室で刑事さん達と話していました
本当は、わたしも刑事さんの話を自分の耳で聞きたかった
でも、お父さんが凄く怖い顔をして「瞳は自分の部屋にいなさい」って言うから、仕方なく言いつけ通りにしたんだけどね
刑事さんが帰ってから、お父さんにリビングに呼ばれました
お姉ちゃんが自殺だったというのは誤りで、本当は同級生の女子生徒に殺されたのだと聞かされて、私は胸の動悸が止まらなくなりました
お母さんは涙をぽろぽろと零して泣いていました
お父さんは歯を食いしばっていましたが、目から涙が溢れていました
わたしもわんわんと大声で泣きました
泣きながら、わたしは、やっぱりって思った
お姉ちゃんが自殺する筈ないもの
妹の事をいつも気に掛けてくれているお姉ちゃんが、絶対に自殺なんかする筈ないもの
お姉ちゃんが受験の相談に乗ってくれた時、わたしもお姉ちゃんと同じ高校に行きたいって言ったよね?
その時、お姉ちゃんは「瞳は私より頭が良いから、もっと上の高校を目指した方がいいよ」って寂しい顔をして言っていたっけ
お姉ちゃんが辛い思いをしていることに気付けなかったわたしは、本当に、本当に、能天気でした
中学校から帰って来たわたしを、あの人達が家の近くで待ち伏せしていたの
「私達、亡くなったあなたのお姉さん、佐弥子ちゃんの同級生なの。お墓参りをしたいから場所を教えて」
そう言われて、わたしは、お寺の地図とお墓の案内図を描いて渡しました
まさかその人達がお姉ちゃんを殺した犯人とも知らずに
知らなかったとはいえ、わたし、すごく自己嫌悪に陥りました
だけど、彼女達がお姉ちゃんのお墓参りをしたお陰で犯人だと分かったと、刑事さんがお父さんに話していったそうです
その人達がお姉ちゃんの墓参りをする一か月前くらいに、墓石に落書きをする悪戯が何回かあって、檀家から相談があったんだって
それに困った住職が、墓地に監視カメラを設置したの
お姉ちゃんのお墓の後ろにも監視カメラ付きポールが立っていたのに、あの人達は全く気が付かなかった
監視カメラの映像に、自分達が殺人を犯した告白がしっかりと録画されてしまった事にもね
墓地に監視カメラが設置されてからは、お墓の落書きはなくなったそうです
もしかして、自分を殺した犯人を知らせる為に、お姉ちゃんがお墓に落書きしたのかな?
まさかね
でもね、そうであって欲しいと思っているよ
だって、わたし、あの人達に地図を渡した時に、お姉ちゃんの気配を感じていたから
落書き事件がなかったら、あの人達は何食わぬ顔で、今も高校生活を送っていただろうしね
百花と美加の二人は、女子専用の少年院に行くそうです
亜樹美という人は保護観察で、勿論、高校は退学させられたって
あの人達が罪を償っても、わたしの元にお姉ちゃんは帰って来ない
それが、ものすごく、悔しい
だから、わたしは一生懸命勉強して、弁護士になろうと決心しました
理不尽に命を奪われた被害者と、その家族の味方になるの
わたし、頑張るから
だから、お姉ちゃん、天国から応援してね
瞳より
大好きなお姉ちゃんへ
――終――
感想等、お聞かせ頂けたら嬉しいです。
宜しくお願いします<(_ _)>