六話 厄災
コーデ村に訪れてから数日が経った。村の人には、来た当初は怪しい目を向けられていたが今は軽く話をするほどには仲良くなれている。門番のディアともミネアが何度も話してくれたお陰で和解出来た。今日は前々から待っていた人間の行商人が村に訪れる日だ。この世界の人間と初めて関われる貴重なチャンスでもあり、背中に担ぐ謎の武器の正体にも迫る事が出来るかもしれない。普段は遅く起きる自分だが今日はいつもより早く目が覚めてしまった。
「ん〜っ、…おはようミネアさん、ソラ」
「おはようユラさん!今日は行商人さんが来る日だよ!」
「おはようございますユラさん、朝食はもう出来てますよ」
朝から元気な様子なソラを横目に朝食が並べられているテーブルにつき、先に食べ始めていた二人と共に朝食を食べ始める。
「一応来るのは昼ぐらいと聞いてますがどうしますか?また村の施設でも周りますか?」
いつもは朝食を食べ終わった後は散歩がてら2人に村の紹介をして貰っている。施設などを周る内に村の人とも関わるようになり、仲も良くなった。普段なら即答で行きます、とでも言うが今日はその行商人が来る前に少し調べたい事があったのだ。
「今日は少し調べ物をしたいのでまた今度でも大丈夫でしょうか?お誘い頂いたのにすいません…」
「いえ、全然大丈夫ですよ!調べ物でしたら村の図書館にでも行くんですか?」
「そうですね、昼前までには帰ってきます」
「分かりました!それでは私は昼食を作って待ってますね」
「いつも有難うございます」
本当にミネアには頭が上がらない、感謝の言葉を口にしつつ家を出て村の図書館へと向かう。先日村の紹介をして貰っている時に施設の一つとして紹介して貰ったが行商人達から貰った本などを保管している場所らしい。まだこの世界は分からない事だらけなので情報を集めるに越した事は無い。図書館へと向かう道の途中で広場で二人の男が朝だと言うのにガヤガヤと雑談している。何を話しているのか気になったが気付かれると面倒なので遠回りでもしようかと考えていたら片方の男に気付かれてしまった。
「だからディアさんは分かってないなぁ、朝食に食べるなら間違いなく野菜より肉…って!その麗しい美女はユラさんでは!?」
「…やあどうも、先日は失礼な態度を取った事を謝らせてくれ。ミネアから聞いてると思うが事件の件で気が立っていたんだ、申し訳ない」
「あー、別にそこまで気にはしてないので大丈夫ですよ」
遠目で見た時に既に分かっていたが、やはり話していた2人はディアとハルであった。馴れ馴れしく話しかけてくるハルを置いて、ディアは謝罪の言葉を自分に向ける。下手くそな微笑を見せ、自分は大丈夫アピールをするがディアは真面目な気質なので結構気にしてしまってるようだ。気不味い空気が流れ、黙ってその場を離れようか迷っているとハルが
「そういえばユラさんって朝食に食べるなら野菜か肉どっち派ですか?俺は断然肉派何ですけどディアさんは野菜派らしいんですよ!朝から野菜なんか食ってたら活力出ませんよ!そう思いませんか?」
「お前は肉しか食ってないから考えが脳筋になるんだ、もう少し教養のある考えをする為にも野菜をもう少し食べる事をお勧めする」
「はぁ!?こう見えても俺そこまで頭悪くないですけど!?」
「そこまでねぇ…」
「いや久しぶりに頭に来ましたわ、最近腕が鈍ってるんじゃないですか?ちょっと外れで手合わせしません?脳筋何かに負けるのが怖いですか?」
「手合わせぐらいなら別に構わんが負けても文句言うなよ?」
「ほぉ〜、結構な事言うじゃないですか。それじゃあ先に行ってるんで逃げないで下さいね?」
朝食に食べるのが肉か野菜かという話からここまでの騒動に発展するなんて誰が予想しただろうか。勝手にヒートアップしてその場からハルが離れていったのを見て、ディアがため息をつく
「はぁ…あいつも昔から変わらんなぁ。ユラも面倒な事に巻き込んですまなかったな、その様子だと何か用事があったんだろう?俺らの事はほっといて良いからその用事を済ませてきな。俺はハルに再度上下関係を分からせないといけない」
淡々とした口調で話すが明らかにこちらも最後の言葉にドスが効いてる。これ以上関わると面倒なのでディアの言葉に甘えてその場を離れる。喧嘩するほど仲が良いというがあれに関しては別の次元の話だろう。足早に図書館へと向かい、本などを管理している者に声をかける
「おはようミカ、今日も本を少し見せて貰っても良いかな?」
「こんな朝から誰かと思ったらユラさんか!勿論大丈夫だよ!入って入って」
彼女の名前はミカ、この図書館の管理人であり、ミネア達以外の村の人の中で初めて仲良くなった人でもある。見た目はソラよりも少し大きいかぐらいの少女ではあるが実際の年齢はもう少し上らしい。出会った当初はこんな若い子が一つの施設を管理しているのかと驚いたものだ。ただミカは自分の身長があまり伸びない事に加え、顔も童顔なので小さく見られる事を気にしているらしい。最初に出会った時に少女扱いしたら怒られたのは思い出したくもない。
「今日はどうしたんだい?いつもならもう少し来るのは遅いじゃないか」
「今日は人間の行商人が来る日なんだ、色々聞きたい事があるし出会って話もしてみたいんだ。だから早めに出来る事は早めに終わらせとこうと思って」
「!確かに言われてみれば今日だったか、それで今日は何を借りるんだ?」
「ん〜、前読んだ奴とは違う種類の歴史に関する本を貸してくれないか?」
「ほいほい了解っと。…うぇ、結構ホコリたまってるなぁ…また掃除しないと」
天井付近まで螺旋状に積み重なったいくつもの本を階段代わりに使い、本を探し出す。本を引き抜く度に上からゴミやホコリが降ってくるのはもう慣れたものだ。毛先にかかったホコリなどを払って待っていると上から本を渡される
「はいっ、この本でどうかな?他の種類も読みたかったら探すけど要る?」
仮に自分の上に落ちていたら間違いなく大怪我をしていたであろう分厚い本が鈍い音をして地面へと落ちる。こんな本を軽く本棚から引き抜いて地面へと投げつけてくる様子から可愛らしい見た目とは裏腹にとんでもない筋力を持っている事が容易く想像出来る。だが本人は大人な女性として見て欲しいらしく、この件は本人には言っていない
「いや、昼前には戻るし今日はこの一冊だけで大丈夫だよ。いつも有難う」
「お礼なんて要らないよ、普段は誰も来ないしお話を出来るだけでも僕にとっては嬉しい事だからさ」
そう言って照れくさそうに顔を赤らめながら奥へと戻っていくミカ。奥の作業場まで行ったのを確認してから地面に落ちている本を開く、元の世界とは違う言語で書かれているが不思議と読めないという事はなく内容は理解出来る。
「数千年前の大厄災の元凶である厄竜『イプシロン』を討伐した人類は再びこの様な厄災が起こらないようそれぞれの種族の代表達の命を犠牲に封じ込めた…と、軽い神話みたいな話だな。しかし昔は交流が深かった多種類の種族がどうして今は全く交流が無いんだ?協力して大厄災を解決したのならそれ以降も円満な関係が続きそうだが」
「それはね、何処かの種族が裏切ってその竜の力を手に入れようとしたからなんだ」
「っ!?近くに来てるなら教えてくれないか…」
「えへへ…ごめんごめん。それでさっきの話の続きだけどその封印されたイプシロンの強大な力を手に入れようとしたとある種族が封印を解いてね、結果的には昔起こった大厄災が再び起こってしまったの。その頃には過去の大厄災を知る者なんてほとんどいなくておとぎ話の上での話みたいな物だったんだ。当たり前だけどその力を制御する事なんて出来ず多大な犠牲を払って討伐する事には成功したんだ。でも故意的に何処かの種族が封印を解いたという事実は残り続け、お互いに疑心暗鬼になり他種属同士での同盟関係は崩壊したんだって」
「なるほどなぁ…、そう考えると今もその裏切り者の種族達は悠々と生きてるって事になるのか」
「まあそういう事になるね、何処が裏切ったとかは詳しくは知らないけど他種族の事は信頼しないっていうのが大体の種族のモットーらしいよ」
「そう思うとこの村の皆はよく信用も出来ない人間達と取引なんてしようとしたな」
「僕は反対したんだけどね〜、でも村長が悪い人達では無さそうだしこちらのメリットにもなる事をしてくれるから渋々了承してるよ…っともう昼前になるけど戻らなくても良いのかい?」
そう言ってミカは時計を指差すと時刻は既に昼に差し掛かっていた
「もうそんな時間か、今日は有難うミカ。話を聞かせてくれたお礼はまた今度させて貰うよ」
「別にお礼なんて良いって言ってるのに…」
最後に小声で何かミカが言っていたが既に出口を抜けた辺りだったのでよく聞こえなかった。急いでミネア達の家へと戻り、昼食を食べる。そうして時刻が昼を少し越した頃、村に行商人達やってきた。
少し忙しくて投稿の間隔空いてしまって申し訳ないです。安定して投稿出来る様に努力させて頂きます




