四話 再会
コーデ村は全体を柵で一周を囲っており、その中に大中様々な大きさの建物がいくつも並んでいる。柵は恐らくこの森に住む魔物が村に入らない様にする為であろう。この世界に詳しくない自分が見ても中々の規模の村だという事が分かる
「ママー!!!」
門番がいない村の門を越えるとソラは一目散に村の中心の広場へと走って行った。遠目から見ると複数人の大人が焦った様子で会話している
「探しに行くのは狩りに出かけた村の兵士達が帰ってきてからにしようって何度も言ってるじゃないか!一人で森の奥に行くなんて自殺行為に等しい!」
「っ!でもその人達を待っている間に娘は今もあの森の奥に残っているのよ!ただでさえ子供達が行方不明になる事件が最近多いのに!最悪私だけでも行かせて貰います!」
「あ〜分からない人だな!仮に娘さんを見つけても二人無事に森から帰って来れると言えるのか?どの辺りに居るかは分からないが少なくとも俺らが娘さんとはぐれたのは大体深部3辺りだ。深部1ならば奥さん一人でも行けるがそこから先は魔物が出る危険性がある。頼むから一旦落ち着いてくれ、貴方が死んで困るのは俺らだけじゃない」
「…申し訳ありませんでした、兵士さん達が帰ってくるのは何時頃になりますか?」
「朝に出たはずだから恐らく夕方には帰ってくるだろう、魔物も夜にはならない限り活動は控えめなはずだ。きっと娘さんもまだ無事に生きてるよ、こんな言葉しかかけれないが本当にすまない」
「いえ…元はといえば私が目を離したのがいけないのですから。ご迷惑おかけします」
「そんな事言わないでくれ、兵士が帰り次第すぐに探索に向かわせる様に手筈は整えておくよ」
「本当に有難うございま『ママーー!!!』えっ?」
どうやらこの大人達は話の流れから察するにソラと共に薬草取りに出かけた者達と簡単に予想出来た、青年に向かって娘の安否を心配していたこの若い女性こそがソラの母親であろう。深刻な話の中で突然その場にママと言いながら突っ込むのは普通はどうかと思うがこの場に関しては間違ってはいないだろう。
「ママ!!私薬草取りに夢中になっていたら皆とはぐれちゃって…心配かけて本当にごめんなさい!」
「ううん、ママもソラの事をちゃんと目から離さないでおくべきだったのに…森の奥で一人にされて怖かったでしょう?ママこそ怖い思いさせちゃって本当にごめんね…」
感動の親子の再会を目にしつつ、遅れてユラも中央の広場へと辿り着く。お互いに涙ぐんでおり、母親は娘の事を相当心配していたからか再び元気な娘に出会えた喜びからその場で娘を抱きしめて崩れ落ちる。
「本当に良かったなぁ、…しかしどうやってソラちゃんは森から無事に戻って来れたんだ?少なくとも深部3辺りにはいたはずだろう?」
青年も親子の再会を喜びつつ、少し考えたら生まれてくる純粋な疑問を口にする。その疑問に対してソラが元気良く答える
「私が無事に村に帰って来れたのはユラさんのお陰だよ!森の奥で出会ったんだ!」
そう言って自分に向けてソラは指をさす、青年と近くにいた大人達はユラの存在に遅れて気付き、武器を構えて警戒態勢を取る
「…アンタこの辺りの人間じゃないな、銀色の毛並みとその尻尾を見れば分かる。何処の村の者かは知らないがこの村に何の用だ?」
「おいおいディアさん、多分だけどこの方女性だぜ?そう武器を取ってまで警戒する必要性があるか?」
「お前は黙っていろハル、男だろうが女だろうが関係無い。この村の者として取るべき当然の行動をしているまでだ」
「はぁ…でもこの人めちゃくちゃ綺麗だぜ?こんな麗しい人が俺らの敵とでも言うのか?」
「ハル」
「…すまん」
二人の青年が先頭に立ち、自分に対して槍を向ける。確かに今の自分はただの怪しい獣人という立ち位置だ。仮に自分がこの村の人間なら同じ行動を取るだろう。しかし先程の言葉から、この世界では獣人毎にそれぞれ部族として村に住んでいるのではないかという仮説が出来た。恐らくこの村はソラと同じ様な猫の獣人の村であろう、となると自分と同じ様な姿をした獣人の村がこの世界には存在するのか?黙々と考え込んでいると二人の青年と自分の間にソラが立ち塞がる様に立った。
「ディアさん!ハルさん!ユラさんは悪い人じゃない!私を魔物から守って村まで送ってくれたんだよ!」
「だが…」
そう言って沈黙が続く場で、それまで何も話さなかったソラの母親が言葉を発する
「待って下さい、多分ですがこの方は悪人ではありません。大体悪人なら少なくとも最低限の装備はしてくるはずです。見た所この方は武器以外何も持っていなさそうですし」
「しかしそれが理由だとしても武器を所持している時点で警戒するに越したことは無いだろう」
「それならばもしこの方が私達にとって不利益な事をするのであれば全責任は私が取ります、娘を救って頂いて追い返す様な真似は私は出来ません」
「…そこまで奥さんが言うなら村に入る事を認めよう。ただし少しでも怪しい行動を取ってみろ、この村の全兵士がお前を取り押さえにかかるぞ」
そう言ってディアと呼ばれる男は広場から離れて行った。一言も言葉を発していないのに淡々と物事は進んでいき、最後には怪しい行動を取ったらすぐに兵士によって捕らえられるという捨て台詞の様な物を吐かれた。俺…この村に来て何しましたか?森の奥で困っていた少女を親切に助けただけなんですけど?そうやって心の奥底で愚痴を吐いていると
「えっと…この度は娘を救って頂き有難うございます。それとこちらの無礼をお許し下さい、最近この村では子供が行方不明になる事件が多発しており門番の彼も気が立っているんです。それで…ユラさんで良いのかしら?再度ですが娘を救って下さり本当に有難うございます」
「森の奥で一人泣いている少女を見捨てるなんて出来ませんよ。俺は普通の事をしただけです」
「ふふっ、ユラさんって面白いのね。どうして女性なのに一人称が俺なのかしら」
「あっ…それは…」
ソラの母親からの感謝を受けつつ、自分の立ち振る舞い方に反省する。忘れていたが今の自分は男では無い、ただでさえ村の人には警戒されているのにこれ以上怪しさを高める様な行動はもっての外だ。一人称が俺という事実にどう言い訳しようか必死に頭を回しているとソラが助け舟を出してくれた
「ママ!それより私お腹が空いた!」
「確かにまだお昼がまだだったわね、良ければユラさんもご一緒にどうでしょうか?」
「いえ、先程門番の方から庇って頂いた上にご飯までご馳走になろうだなんて厚かましい事は出来ませ『グ〜』……」
「………ふふふふっ、本当にユラさんは面白い人なのね。それじゃあ行きましょうか?私達の家は広場を出て近くなので」
「……ご迷惑おかけします」
「ユラさんと一緒にご飯食べれるの!?」
お誘いを断ろうとしたらタイミング悪く鳴り出してしまった腹に頭を抱えながら嬉々とした表情で手を繋いで自分の前を歩く親子に付いて行く。実際食べる物が無くて困っていたからご飯を頂けるのは嬉しいのだが恥ずかしさが勝ってしまい顔向け出来ない。
食事の場での会話から分かった事はソラの母親の名前はミネアと言い、この村では名の通った薬剤師らしい。薬を作る為にたまに森へと薬草を取りに行くのだが娘がどうしてと手伝いたいと言うので今回だけ連れて行ったらしい。今回だけ、と行って連れて行ったらこんな騒動に発展するとはミネアも思ってはいなかっただろう。村の人からはすれ違う度に不審な目を向けられるが目の前で楽しそうに会話して食事をする親子の様子を見ると、そんな苦悩も吹き飛んでしまった