表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

二話 転生

『C-000に告ぐ、間もなくこちらの前線部隊は紛争地区に到着する。そちらの準備が整い次第こちらも攻撃を仕掛ける

「思ったよりも前線部隊は早く到着しそうですね」


任務当日となったその日、彼らは森の中を走り抜けていた


「ゲリラ戦とか何回もやってるけどやっぱ足場の悪い所を走るのは結構腰にくるぜ…イタタ…」


「そんな減らず口叩く暇あるならもう少し急いだらどうですか?隊長」


「ユラちゃんはもうお爺ちゃんだからね〜、僕ら若者が気を遣って足並み合わせてあげないと」


「そういう面白くもない冗談要らないから口よりも足を動かして貰える?」


先程の無線から味方の部隊が想定していた時間よりも早く到着する事を知り、走る速度を上げる。味方部隊の横を取ろうとする敵を森の中で迎撃するのが役目だ、地味な仕事だがもし自分達が崩れたら瞬く間に戦線は崩壊する。軽く話を挟みつつ緊張しているに違いない部隊の雰囲気を少しでも和らげようとするユラの冗談に仲間の辛辣な言葉が刺さる


「ユラさん、後少しで迎撃地帯に着きます」


「了解っと、『上層部に伝達、こちらも間もなく迎撃地帯に到着する。攻撃を開始するタイミングはそちらに合わせるのでいつでも構わない』」


『…了解した、合図は赤い発煙弾とする。これ以降無線は繋がなくて良い。作戦が終わった後に再び会える事を祈っているよ、武運を』


無線が切れ、数秒のディレイの内に空に赤い発煙弾が放たれる。嫌でも戦いが再び始まった事を伝えるほどの赤い煙が見える、部隊の仲間達も無言で背負っていた銃を取り出す


「俺らの任務は分かってると思うが味方が横を取られないように森を進んでくる敵の迎撃だ。敵も恐らくこれが最後の戦いだと分かって総戦力を注ぎ込んでくるだろう、だが祖国の為にここを引く事は許されない。絶対に死ぬなよ」


全員が言葉には出さないが無言で頷く、迎撃地帯に着くと奥から人が複数人走る音が聞こえる。


「敵の数は足音的に恐らく二部隊ほどでしょうね」


「ユラ!撃ち始めるタイミングはどうする!」


サラが音で敵の部隊数を予想し、大まかな位置どりを取る。既に敵は捕捉しているが今ここで撃ち始めても後方の敵に警戒されるのが早まるだけだ。それを危惧してカリュはユラにタイミングを尋ねる


「前方の川に敵が辿り着いたら撃ち始めろ、それ以降は敵を捕捉次第発砲して良い」


「ok、ユラちゃんはどっち方面に展開する?」


「ヒテンはネスクと共に左側に進め、サラとカリュは右側を、俺は単独で中央を抑える。仮に負傷者が出たらすぐに後方に引かせろ、ただし最終迎撃ラインだけは越えさせるな」


「ユラさん…死ぬなよ…」


「大丈夫だ、俺は負けんよ」


最後の言葉を交わしつつそれぞれ割り当てられた場所へと足を踏み進める。そんな部隊の仲間達の背中を見つつ、ユラは単独で中央地帯へと進む。攻撃開始の予定地としていた川を敵が越え始めようとし、主要地帯から数分遅れてこの戦争の命運を分ける小規模、かつ重要な戦いが始まった


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「…後何部隊居るんだ?ハァハァ…」


予想されていた二部隊を潰し、後続の部隊に注意を向けて森林に紛れ込む。耳を澄ませば先程よりも多くの人間の足音が聞こえる。間違いなく後続の部隊だろう。想像していたよりも数倍戦い慣れていた相手にも不覚を取ることは無かったが体力の消耗が激しい


「ハァハァハァ…、やっぱり見栄なんて張るもんじゃねぇな…ハァハァ…」


辿々しく息継ぎをするが常に敵に位置を悟らせぬように移動しつつ敵と接敵したら撃ち合い続ける行動を後何時間続ければ終わるのだろう。しかし弱音なんて吐いている余裕は無い、仮に自分が落ちたら同じ部隊の仲間達にも迷惑をかけることになる。ユラは気合で接敵に向けて息を整え、場所を変える。


「こんなハードなゲリラ戦久しぶりだな、ヒテンやサラ達は無事か…とそんな心配してる余裕すらねぇか…」


無線で連絡を取ろうとしたが敵の足音が近付き銃を構える、前衛部隊が既に潰されているので後衛は細心の注意を周囲に向けつつ森を進む。だがここは森の中、注意を払おうにも見るべき場所が多すぎる。


「ガッ…!」 「っ!?敵襲か!?ウッ…」


奇襲で数人を仕留めつつ、また場所を変える。対複数人戦では正面から全員を相手するのは馬鹿のすることだ、まずは削れる所から削っていき、少しでも自分が優位に立てるように戦うのが基本である。幸いここは視界が悪い森林地帯、発砲してすぐに距離を取って移動すれば余程の限り見つからない。


「弱音は吐くのは嫌いだが…どう考えてもこの数は抑えきれんな…。まあそれでもやれるだけやるけどな!」


自分の頭でそんな考えを叩き直しつつ、部隊に無線を繋ぐ


「こちらユラ、ヒテン、そっちは大丈夫か?」


『他人の心配するぐらいなら自分の心配を…ってユラちゃんに言っても無駄か…。こっちは今の所大丈夫だよ、ネスクが思いの外頑張ってくれてる』


「そうか…、サラは?そっちは大丈夫か?」


『こっちは思っていたよりも敵との接敵回数が少ないぐらいですかね、もう少し戦って余裕がありそうなら私かカリュのどちらかを中央に向かわせます』


「いや増援は要らんよ、こっちも敵が少なくて逆に戦い足りないぐらいだ!ハハッ…、増援ならヒテンの方に送ってくれ。その方が効率が良い」


『了解しました、それではヒテンの方に向かわせますね。武運を』


「………」


目と鼻の先まで迫ってきた足音にも動じず銃を構える、間違いなくこの数の敵は一人では抑えられない。何故増援を呼ばなかったのか。理由は簡単、絶対に死ぬからだ。これが他の部隊を増援に呼べるなら喜んで増援を求めただろう。だが増援を呼んで来るのは自分の家族同然の仲間のみ。それならばここで相討ちになろうが死ぬ気で全ての部隊を抑えるべきだという考えに至った。ユラという男はそういう男だ。


「さあかかってこいよ、この先は誰一人通る事は許可しない」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


どれだけの時間が経っただろうか、もう銃の引き金を引く感覚も無い。それでも仲間の為に戦い続けた。そしてユラは最後の部隊の一人を殺すと地面に倒れた。このまま死ぬんだろうと体の様子から頭が理解していると唐突に無線が入る


『全隊員に連絡…迎撃部隊の死亡を確認……、これより前線部隊は敵の主要地へと攻撃に入る』


既に落ちようとしていた意識が再び覚醒する、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』だと?作戦では前線部隊が戦っている間に横を取られぬよう防衛地点で敵を迎撃する手筈だったはずだ。回らない頭で必死に考える、そうして出てくる答えはたった一つ。陽動に使われたのだ。予め手に入れていた敵の情報からその進行ルートに自分達を置いて先にそこで戦いを起こさせ、敵の勢力を集中させている間に本営は全勢力で主要地を攻める。そんな事実に辿り着いてしまった自分の頭に後悔しつつ、言葉を溢す


「ハハッ…そうか…俺らは元から少しでも時間を稼ぐ為の道具として今回使われていた訳か…我ながら馬鹿なもんだ。お国の為に、軍の為に、上層の方々の為に、そして愛する部隊の仲間の為に、と。そして手に入れた結果は仲間を全員失って国に捨て駒にされたという事実のみ。ハハハハッ!本当に俺って馬鹿だな!自分で考える力も無くて仲間も守る力も無い!はぁ…本当にすまんお前ら、こんな馬鹿な隊長なのに疑いもせず信じて付いて来てくれて。…本当にすまん」


目から涙が流れ、土の上へと落ちる。泥だらけになった体はもう全ての力を使い果たし動く力は残っていない。だが体の奥底から様々な感情が溢れ出してくる。自分の無力さに嘆く後悔の感情が。自らの愛する部隊の仲間を死へと追いやったこの国に対しての憤怒の感情が。そしてそんな腹黒い人間への殺意の感情が。もしもう一度生を貰えるのであれば、必ずそんな人間を皆殺しにして二度とこんな銃を握らなくて良い世界を作り上げる。そう誓ってユラの意識は沈んでいった。







「…………………………」


誰かの声が聞こえる


「………………………?」


何か話しているが意識が混濁としている今は何も聞き取れる気がしない


「………………………」


もうこのまま眠らせて欲しい、そう思いユラは目を閉じて永遠の眠りにつこうとした


「…………起きて……!」






「っ!!」


「…………」


「…何処だ…ここ…」


誤字脱字とかありましたら教えて頂けると幸いです

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ