第三話 灼竜王《グニールメイズ》
ついに竜が登場DA★
それではお楽しみください!
少し肌寒い風に背を押されるようにして、ホークは里を後にした。
「行っちまったな、まァ止めんのは二年ぐらい前に飽きたけどよ、もうちょっとゆっくりしてけばいいのによー」
ヴァンが唇をとがらせる。なんだかんだ言って父親が好きなんだとリオは苦笑する
「ホークさん、忙しいから…。黒プレートは相当優秀な冒険者なんでしょ? 無理もないよ」
でもよー、と文句を垂れているヴァンを置いて、コーザがぼそりとつぶやいた。
「…あのプレートのエンブレムかっこいいよね。冒険者マークかな。」
「バーカ、あれは親父のギルドのマークだよ。《魔物檻》、聞いたことあんだろう」
大小さまざまな牙が交わった禍々しいエンブレム。最上位クラスのギルドだと聞いたことがある。ホークが槍と弓の腕をアダンガルドの為に使うことに後悔はないと言っていたが、《魔物檻》はあまり冒険者組合に協力的なギルドではない。国家直属の指令さえも蹴ったという話も耳に入るくらいだから、よっぽどなのだろう。自分の師がそんなギルドに入っているという事実にリオは唸った。
「なァ」
いつの間にか立ち直っていたヴァンが人差し指を立てた。
「…なんだよ」
「手合わせしないか?」
「えーっと、いつ?」
「今だよ」
「「アホ抜かせェ!」」
血相を変えて否定する二人の少年と、両手を合わせて懇願する少年。
道を示すように淡く輝く夕日が、役目を終えたように霊峰の向こうに沈んだ。
その夜、リオ・ディゼイルは夢を見た。
途方もない赤茶色の岩石地帯。空は真っ黒に塗りつぶされたようで、足場の岩石と岩石の間には溶岩が脈のように通っていた。
(ここは…?)
辺りを見回すが、溶岩石と黒い空が広がっているだけ。生き物どころか、物体が存在しない。リオは一歩、足を踏み出した。
―――その瞬間。
リオの周りに業火の壁が現れた。
驚いてもう一度周囲を確認するが、やはり何も見えない。炎の壁はその先が見えないほど高く燃え上がっており、大きな空間を生み出していた。戦族の里も丸々入ってしまうほどの空間。その真ん中に、リオは立っていた。
その時、何かの気配を感じた。
(誰か、いや、何か、この壁の向こうに―――)
『お前が、リオ・ディゼイルか?』
重く、全身のが粟立つような声が響いた。人間のものではないことは瞬時にわかる。リオが今までに戦ったモンスターのどれより強く、高貴な威圧感が炎の空間を覆いつくす。壁の向こうにいる何かの圧倒的な存在感に、リオは固唾を飲んだ。
その時、炎の壁が一部開いた。
奥にいたのは、巨大な生き物。
リオは、背筋が凍るのを感じた。
それはあまりに大きく、山と見まがうほどだった。
全身を覆う、紅の甲殻。
天に突き刺さるような五本の角。
空を覆うほど巨大な翼。
羅列した無数の牙の隙間からは、時折火の粉が舞う。
左右二つずつ並んだ金色の眼には、目玉が存在しない。
『何を呆けている』
「まさか、そんな…!」
腰が抜け、その場に倒れこむ。息がしにくくなり、全身からは汗が噴き出す。
「実在、したのか…!?」
その姿を、子供の頃お伽噺で聞いたことがあった。
かつて世界には百の竜が存在し、その頂点には、七頭の竜王が存在した。
死した竜は魂となり、選んだ者に力を与える。
目の前にいる生き物は、お伽噺に書いてある一頭の竜に酷似していた。そのお伽噺には挿絵がないが、直感でわかる。こいつ以外ありえない。
認めざるを得なかった。
目の前にいる業火の生物は。
七竜の一角、《灼竜グニールメイズ》であると。
灼竜は笑みを浮かべて告げた。
『お前に力を貸してやる、俺を体に住まわせろ』
リオは喉の奥から、やっとのことで声を絞り出した。
「僕の、体を奪うつもりか…?」
『体を奪う、だと?』
グニールメイズは唸り声をあげる。頭部を近づけリオを睨みつけた。
どんどん呼吸が苦しくなる。また嫌な汗が流れ始めた。
ややあって、グニールメイズは言った。
『アホか、お前は』
「…ふぇ?」
一瞬時が止まった。七竜の一角の口から、「アホか」という言葉が出てきたことに、脳の処理が追い付かない。
『だからよ、俺はお前に炎の力を渡すから、住みかとして心の一部を貸してくれって言ってんだよ。なんで乗っ取るとかいう話になるんだ? お前は力を得る。俺は住む場所が貰える。利害の一致なのよ、わかる?』
「え、え?」
『わかんのかわからねぇのかはっきりしやがれ。これから五十年は一心同体なんだぞ?』
脚をばたばたして返答を急かすグニールメイズに、リオの空想の竜は完全に崩壊した。
「わ、わかる! わかるよ! でも何だろう、イメージとちょっと違うというか…」
しどろもどろになるリオ。
グニールメイズは大きな顎をあんぐりと開けた。
『それは人間の勝手な妄想だろ、確かに厳格な竜もいるが、俺は違う。』
「は、はぁ」
いつの間にか汗はぴたりと止まり、息も自然にできる。威圧感が消えた。
『お前に火炎の力をくれてやろう。随分と火炎魔法の才に恵まれてるみたいだからな。そこを見込んで《眷属》にした。今はまだ俺の力が使いこなせないだろうが、練度を上げればかつての竜の力の半分くらいなら使えるようになるだろうよ。今お前が使えるのはせいぜい力の一割程度だが、冒険者になるのには困らないだろ』
「ま、待って!?」
何だよォーとあきれ顔でこちらを見る。
「君はいったい何者なんだ? いきなり僕の心に入り込んで力を貸すって、なにが―――」
そこでリオが見ている景色は、業火の世界から、見慣れた部屋の天井に切り替わった。
「どうしたんだよお前、朝から『グニールメイズ!』って、悪夢でも見たか?」
「あー。うん。見た」
あの夢のあと、リオの体に変化は一切なかった。
しかし夢の生々しさはとてもただの夢には思えず、しびれを切らしたヴァンに正午に起こされるまでうなされていたそうだ。
「…あ、おそよう」
「おそようって…」
コーザはすでに訓練場で槍を振っていた。額には汗がにじんでいる。
「次、ヴァンの番だよ。」
「おう」
ヴァンが訓練場のかかしを見据え、魔法を展開した。
指先から広がるのは緑に輝く四つの魔法陣。
「連結術式・風切操作」
指先から四つの小さな竜巻が生まれる。竜巻はかかしをその中に取り込むが、かかしには損傷を与えていない。渦の真ん中に入ってしまったようだ。
「…不発じゃん、何してんのヴァン」
「バーカ、…見てろッ!」
すかさずヴァンは弓に手を掛けた。同時に四本の矢を放つ。矢はかかしを取り巻く竜巻に当たると、その竜巻の中を視認できない速さで回り始めた。
「風魔法は拘束力は高いが攻撃力に欠ける。」
指先の魔法陣が再び光りだした。竜巻は徐々に細くなっていき、ついにその中の矢がかかしを貫通する。
しかし、一度では止まらない。二度、三度、最後には数え切れないほどの回数に及んでかかしを貫き続ける。
「しかも弓は矢の数が決まっているから、無駄にたくさん撃つわけにもいかねえ」
ヴァンが魔法を解除すると。そこには体の七割以上の藁が欠損したかかしがあった。
「こんな風にスマートに仕留める訳だ」
竜巻の中にかかしを取り込むことは狙ってやろうとすればかなりの技量が要求される。さらに矢は魔法の操作次第で渦の外にはじき出されてしまう。
恐るべき技量だ。
「やるじゃん、ヴァン、四つも連結術式を繋げられるなんて心底うらやましいよ。」
「へへっ、ありがとよ。ほれ、次はお前の番だぜ。自慢の炎魔法を見せてみろ」
リオは笑ってうなずくと、すでに用意してあった三体のかかしを見据える。
この時、頭を今朝の夢がよぎった。
グニールメイズはリオに火炎の力を貸す、と言った。もし本当に自分の炎魔法が強化されているのなら、一割とはいえかつての竜の力の一片。魔法に変化があるはずだ。
手を突き出し、魔法を発動する。
「連結術式・火炎槍」
指先には、三つの魔法陣が生まれる―――
はずだった。
指先に現れた魔法陣は、五つ。
さらに。
「お、おい! リオ、お前なんだそれ!?」
両肩からは、翼のように魔法陣が展開されていた。
その数、約十。
どこかから声が聞こえた。
『降竜術式・灼竜槍』
弾かれたようにリオは叫んだ。
「―――逃げろ、これは僕の魔法じゃない! 発動が抑えられない、僕から離れろ!」
ヴァンとコーザの行動は迅速だった。
「暴風翼」
「連結術式・電撃捕縛」
ヴァンは足元に竜巻が、コーザの指からは五本の電気の紐が生まれる。
二人はリオから十分離れると、呟いた。
「「竜の、翼?」」
直後、どこからか獣とは明らかに異なる号砲が轟いた。
十五の魔法陣から、巨大な火炎の槍が放たれた。
一本が地面を直撃する。三体のかかしが一瞬で燃え尽きた。
三本が民家をかすめる。火が民家を覆いつくし、悲鳴が聞こえる。
槍は里中を縦横無尽に飛び交い、手当たり次第に燃やし尽くした。
「なんだよ、これ…!」
ヴァンが槍を避けながら魔法を発動する。
「連結術式・水流弾ッ!」
大きな水球がふたつ放たれ、槍の一部を削るが、勢いは止まらない。
グニールメイズが放った魔法は、里の半分を灰に変えた。
あと竜が九十三、竜王が六ですね。全部出す予定はないですが…
提案してくださったものはできるだけ使いたい…まだ二十くらいしか決まっていない…!
人物案も募集中です!