第二話 戦族の冒険者
第二話です!
ここに来てくれたということは興味を持っていただけた、ということでしょうか…。感激で涙が滝のように…ミイラになりそう…。
「おいおい、連結術式ってお前、今いくつだよ…リオ。」
男は頭に派手なバンダナを巻き、片目に眼帯を付けている。背中には弓を担いでいる。腰のベルトには冒険者の格付けを示す黒いプレートが下げられている。冒険都市アダンガルドにおいてもごく上位少数の者にしか持つことを許されない、名誉の象徴だ。
男の名はホーク・ガスタ。戦の里から冒険者として里を出た、数少ない人物である。冒険者になってから、依頼で近くを通るたびにここに来る。
ホークは冒険者というだけあって、冒険者を目指す者たち―――リオ達の憧れの的だった。
「ホークさん…!」
「もう連結術式をマスターしているとはな、驚いた。こりゃあ同業者になるのも遠くねぇかもな。楽しみだぜ」
憧れのホークからの賞賛だったが、リオは首を振った。
「まだまだです、まだ三つしか連結術式を繋げられないし、剣も訓練しないと…。」
当然ホークは本当の冒険者のレベルを知っているが、それを伝える気にはなれなかった。冒険者になったころの自分が受けた仕打ちを考えれば、当然と言わざるを得ない。
「…ああ、頑張れよ。」
無理やり笑みを作るホーク。純粋な少年に嘘をついている、という罪悪感に苛まれつつも、なるべく心の内を悟られないように話す。
と、その時。
「あ、親父じゃん。よっ。」
「ヴァン、もう少し何か言ってあげてよ…」
黒髪と白髪の少年が歩み寄ってきた。
「おお、ヴァンにコーザ!」
ヴァンと呼ばれた黒髪の青年は身長が非常に高く、左には黒、右には白い眼を持っている。片手には弓矢を持っている。
もう一方の青年は白髪にヴァンとは色が反対の目に位置しており、双子であることが明白だ。身長はヴァンと同じくらいで、無表情を貫いている。
「おまえたちも、もしかして連結術式出来たりするの?」
「「当然」」
「冗談じゃねえぞ…。」
彼らは年はリオの二つ上。この里でもリオの一枚上をいくトップツーだ。この二人はヴァンが弓、コーザが槍を得意としており、二人の連携は里の戦士たちをもてあそぶレベルだ。さらにそこにリオが加われば、確実に里一の戦力となり得るだろう。
「おい、親父。また実践やってくれよ。リオも入れた連携も最近練習してんだ。この前みたいに右手だけじゃ苦戦すると思うぜ?」
「またやられるよ。父さん、槍を持ったら化け物なんだから。…っていうかヴァンしばらく手合わせ禁止だったよね? 暴れて里長の壺割ったとかで」
「げっ、なんで知ってんだよそれを…」
二人の変わらぬ意見の食い違い用を見て父親として安心したのか、二人の成長ぶりが嬉しかったのか、ホークは呵々と笑った。
「はははっ、俺のギルドには化け物みたいなやつがたくさんいるぞ? 俺より全然強い奴らがな。」
それを聞いて三人は鳥肌が立った。ホークをたやすく超える存在に畏怖し、高揚したのだ。
戦族は驚異的な戦闘能力を誇るだけに、種族的なポテンシャルを上回る種族が少ない。そのため自分より強い者に会う機会が少なく、よって強い者の話を聞くこともない。
それだけに冒険者の話を聞くのが新鮮で、自分もその世界に身を投じたくなる。血には逆らえなかった。
「今回は何を獲りに来たんだよ、親父?」
今回のターゲットについて尋ねるヴァンに、ホークはさらりと答える。
「ガルーダを二つと、キラービートルを四つ。」
それを聞いたヴァンはわざとらしく驚くそぶりを見せた。
「ガルーダをふたつゥ? さすが親父、獲物の格が違うね!」
「すごいです、ホークさん!」
お前ら三人なら比較的余裕で倒せちゃうんだけどなァ…。と内心ため息を憑きつつも「そ、そうだろー」とぎこちなく答える。
その時、リオが不思議そうに尋ねた。
「そんなに危険なモンスターなのに、一人で行って大丈夫なんですか? お仲間は…?」
その時、ホークがすぐに「大丈夫だ」と答えていれば、彼らに厳しい現実の一端を見せなくて済んだだろう。
しかしコーザは鋭く告げた。
「……戦族だから」
その場の空気が凍り付いた。周知の事実であったものが、戦族は毛嫌いされているという事実が、唐突に突き付けられた。
「戦族だからでしょう? 今の世界は僕たちを…この左右違う色の目を受け入れていない。父さんのギルドは希少種族が多いって聞いたけど、冒険者や町の人たちはそれを許さない」
コーザは手を強く握りしめた。噛み締めた唇からは血が流れる。
「コーザ…。」
リオはかける言葉が見つからない。里から一歩も出たことのないリオは、戦族がどれほどの仕打ちを受けているかわからない。
コーザの予感は外れていた。ただ単にコーザは単独で依頼をこなしているだけだった。
とはいえホークは今こそ嫌悪の目を向けられていないが、新人冒険者の時は、少なくともあの男に出会うまでは耐え難い苦難を強いられた。
同業者に殺されかけた。
パーティーを組めず、単独で強敵に挑んだ。
それは全て当たり前のように行われていたことであって、あの時手を差し伸べてくれなかったら。そう思うと今でもぞっとするほどの差別。
この三人に限らず、この里から出る者たちは皆その苦難を強いられることは間違いない。自分のように救世主がいるとも限らない。
「コーザ、お前の言っていることは確かなことさ。俺にも迫害された時もあった。」
だからこそ父である自分が、前に立つ自分が、道を示さなくてはならない。
「だが俺は冒険者になったことを後悔していない。俺はこの黒いプレートを、『白狼』の二つ名を誇りに思っているし、槍と弓の腕をアダンガルドのために使ったことは決して後悔しないだろうぜ。」
リオ、ヴァン、そしてコーザを一人ずつよく見て、ホークは微笑んだ。
一年前にあった時とはずいぶん顔付きが変わった。連結術式を使いこなすことができるとなれば、リオは上級冒険者の実力をすでに兼ね備えているだろうし、ヴァンとコーザはすぐにでも自分のように二つ名を得ることができるだろう。
「お前たちも外の世界に出れば、多くの人間に出会う。人やエルフ、家くらいの巨人だっている。…最初は苦しいだろうが、お前たちなら必ず乗り越えられるさ。この俺だって超えられる」
自分の槍を継ぐ短髪の陽気な息子。
自分の弓を継ぐ長髪の陰気な我が子。
旧友の二刀を継いだ、かつての相棒の息子。
「現実を見るのもいい。耐え難い事実を受け入れるのはそうそうできることじゃない。でもよ、そんなもん飽きるほど見つめるくらいなら―――」
三人とも、自慢の教え子だ。
「一秒でも長く、前を見ろよ。ホラ、ここに立派な戦族の冒険者が立ってるぜ?」
それを聞いた三人は、ほんの少しだけ、泣きそうになった。
「…自分でそれを言うかよ!」
「おお、何度でも言ってやるぜ。俺は自他ともに認める優秀な冒険者さ!」
少しの沈黙の後。
立派な冒険者と、三人の少年は吹き出した。
コーザは口元を抑え。
ヴァンは涙を流して笑い転げた。
ホークが呵呵大笑し。
リオも声を上げて笑った。
次回、とうとう竜が出てきます。
ご期待ください。
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