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Loyal Tomboy  作者: EN
第五話「平行線の彼方に」
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05-08:○心開いて[2]

第五話:「平行線の彼方に」

section08「心開いて」


人の抱く人への想いは人それぞれ。


周囲の様々な外乱要素に揺さぶられ、拠り所無く彷徨さまよい歩く不安定な感情ではあるが、それは純粋にその人自身を投影した分身たる自分想い。


時に優しく包み込む様な暖かな愛情をかもし出し、時に荒れ狂う嵐のような怒りを放つ。


そして、お互いに抱いた想いをやじりの先にくくり付けて、力いっぱい弓の弦を引き絞るのだ。


狙うべき相手の心の的を見定めながら、届かぬやも知れぬその想いを込めて。


アリミアが抱き、力いっぱい引き絞った弓矢の軌跡は一直線。


それは、セニフの心の中の小さな的をすら、適確に射抜かんばかりの想いと願いが込められており、如何にその両手が黒く淀んでいようとも、彼女の抱いた想いを純粋に反映した、暖かな光矢であったのだ。


しかしそれでも、自らの殻の中に隠れるように身を丸め、意固地いこじにその的を小さくしぼめてしまったセニフの心に、彼女の想いが届く事はなかった。


確かにそれは、ほんの極僅か狙いがそれてしまった程度の微々たる誤差である。


受け手となる相手の感情に、それなりの広さと深さが存在すれば、あれほどの激しい口論のやり取りへと発展する事は無かっただろう。



私・・・。何であんな事・・・。



激しい怒りの念を抱きつつも、心のどこかで相手を求めていた事は確か。


かつてて味わった大きな悲しみの上に、更に大きな憎しみの想いを被せて、火の出るような怒気を放つ心情に駆り立てながらも、必死な表情で語りかける相手の想いを、心のどこかで欲していたのかも知れない。


真っ暗な闇に閉ざされた脅威きょういの渦中で、ヒタヒタと忍び寄る目に見ない恐怖におびえ、必死に自分の身体を自分で抱きしめて助けを待っていたのだ。


一体、何処へ向かおうと言うのか。何を求めようと言うのか。


錯乱に錯乱を重ねた思考を必死に振り解こうと、彼女は真っ暗な地下通路を、ただ只管ひたすらに走っていた。


そして、進む通路を二つに分かつT字路へと差し掛かると、彼女は疲れ果てた身体を一時休めるために、突き当たった壁に身体を預けた。


(セニフ)

「はぁ・・・。っはぁ・・・。はぁ・・・。」


右手で胸元を押さえ付け、必死に乱れる呼吸を整えるように深呼吸を繰り返すも、彼女自身の抱く感情の矛盾点と同様に、中々思うようにぎょする事ができない。


やがて彼女は、示された二通りの道筋の中に、己の心の迷いの逃げ道を探しつつ、自分の辿ってきた道筋を振り返りると、ゆっくりとその場に座り込んでしまった。


右へ進めばいいのか。それとも左に進めばいいのか。


自分では全く検討も付かない。


彼女の左手方向に示された通路は、真っ暗な闇の壁に閉ざされた未知の世界。


そして、右手方向に示された通路は、ある程度の明るさによって照らし出されてはいるものの、長く険しい道のりが続く果てしない細道だ。


どちらを選ぶにしろ、彼女にとっては茨の道になろう事は、その現実を直視せずに逃げ回るだけの彼女にも解っている事だろう。


身の丈に見合わない大きな過去を背負い、自分ではどうする事も出来ない大流を前に、ただ自身を伏流ふくりゅうの上に漂わせる事しか出来ない身でありながら、何故、投げかけられる唯一の命綱を自ら投げ捨ててしまうのか。


セニフは座り込んだ床の上で両膝を抱え込むと、つたい光をかもし出す蛍光灯の光を見上げて大きな溜め息を付いた。


そして、その照らし出す光の残像を網膜の裏に焼き付けながら、それまで歩んでいた過去の記憶を辿たどるように、ゆっくりと両目を閉じた。



自分ひとりじゃどうする事も出来ないって解ってる癖にさ。


何でまたそうやって人の好意を簡単に蹴り飛ばすのさ。


2年間もの間、一緒に暮らしてきた二人の関係って、その程度のものだったの?



だって・・・。だってそうじゃない。


たとえアリミアがお母様を殺した張本人じゃないとしても、今まで数多くの人間達を殺してきた人間だよ?



でもさ。私達には優しく接してくれたよね?


確かに冷たい感じがする時もあるけど、それも全部、皆の事を想ってくれての事だって、解ってるよね?


ブラックポイントでは、必死に私の事守ってくれたじゃない。



解ってる・・・。解ってるけど・・・。


私だってファルクラムって言う組織が、一体どういった組織なのか知っているよ。


無実な一般市民を巻き込んで、数多くのテロ行為を実行してきた犯罪者の集まり。


そんな中で平然と暮らしてきた人間を、どうやって信用しろって言うのさ?



アリミアが過去に何をして来ようと、私がとやかく言えた立場じゃないでしょ?


私は過去に一体何をしてきたって言うのさ。


自分の父親を殺して、ここまで逃げ延びてきた癖に。



ち・・・。違うよ!私は殺してなんかいないよ!



あれっ?そうだっけ?だって皆そう言ってるよ。


皇女は自分の父親を殺しましたって。


そしてみじめに処刑されましたって。



そんなの嘘!私は殺していない!


私はめられたの!解ってるでしょ!?



でも、そんな証拠、何処にも無いしね。


皆きっと思っているよ。この人殺し!ってさ。


よくもまあ、恥ずかしくもなく生き永らえていられるもんだってね。



私はお父様を殺してなんかいない!


人殺しなんかじゃないよ!



嘘ばっかり!自分の事しか考えていないいやしい人間が、幾らわめき散らしたって、他の人達は聞く耳持たないよ!


もう私は人殺し!戦場で数多くの人間を殺した殺人者でしょ!?



そんな・・・。それはだって仕方ないじゃない!そうしなきゃ・・・!



仕方なければ人を殺してもいいんだ。


じゃあ、アリミアだって仕方なかったかもしれないじゃない。


生まれた頃から戦闘マシーンとして教育を受けてきたんでしょ?


抵抗も出来ない、本当に幼い頃からさ。



そんな事・・・。私知らないもん!



そんな事言って。何も受け入れようとしないのは私の我儘でしょ?


少しでも相手の事を知ろうとしてみたの?


少しでも相手と会話してみようと思ったの?


何でもかんでも自分の思い通りにしようなんて、ほんと呆れちゃうほど癇癪かんしゃく持ちのお子様なんだから。


もう私、嫌んなっちゃうよ・・・。



・・・。



こんな時代に清く正しく生きていける人間なんてほとんど居ない。


皆辛くて悲しい過去を持っているんだ。


そんな中でも、皆で手を取り合ってさ。仲良く幸せに暮らして行きたいって。


それを望んでいたんじゃないの?


違うの?ねぇセニフ。


違うの??



(作業員)

「あれっ?こんなところでどうしたんですか?具合でも悪いんですか?」


綺麗に彩られた純粋な自分自身と、疑心暗鬼ぎしんあんぎに揺れ動く淀んだ自分自身とで、激しく論争を繰り広げていたセニフの意識に、一人の男の声が横槍を入れた。


それまで、余りに意識の深くまで潜り込んでいたため、その声が一体何処から聞こえてきたのか解らなかったのだが、少し驚いたような表情で両目を見開いたセニフが左右を見渡すと、彼女の左手方向通路から、くすんだグリーンの作業服を身にまとった男が現れた。


それは、セニフの記憶の中にさほど強く印象付いている人物ではなかったが、それでも彼の声色と立ち姿とが、セニフの記憶の鍵を簡単にこじ開ける事に成功した。


(セニフ)

「あっ。あの時の人。」


(作業員)

「おや。これはまた偶然ですね。」


薄暗い地下室の通路内で、つい数時間前に偶々(たまたま)出会った二人が、不思議そうな表情でお互いを見合う。


見知らぬ二人が短時間の内に異なる場所で偶然出会うなど、そこに何かしら必然性があるのではないかと疑いたくなる程だったが、如何にランベルク地下基地が広かろうと、お互いの活動範囲が重なり合ってさえいれば、それほど確立の低い出来事ではない。


セニフはキョロキョロと周囲を見渡しながらゆっくりと立ち上がると、ほこりを落とすためにお尻を軽くはたいた。


(作業員)

「こんな薄暗い地下通路を、女の子が一人でうろついていたら危ないですよ。もしかして、道に迷ったとかですか?」


(セニフ)

「ま・・・まあ。そんなとこだね・・・。」


この時セニフには、道に迷ったと言う認識は無かったのだが、見渡した3本の地下通路を眺めてみても、全く見覚えの無い悲しき記憶に大きく肩を落とすと、彼の言葉を否定する事が出来なかった。


そして、考え事をしていた自分が悪いに違いないのだが、こうも簡単に道に迷う事が出来る自分の迂闊うかつさを恨めしく思うのである。


(作業員)

「この辺は軍の機密情報が数多く保管されている場所ですから、余り立ち入らないようにしてください。それで、どちらまで行かれますか?」


優しげな口調でそう問いかけた男だが、セニフの姿をくまなく観察する彼の視線は、如実にょじつに不信感が込められている様にも見受けられる。


確かに彼のように倉庫を管理する側の立場から言えば、似たような場所で二度も出会う事となった少女に、何かしらの疑いを持ってかかるのは当然の事であろう。


(セニフ)

「えっと・・・。」


と、直ぐに返事を返す事を躊躇ためらったセニフは、左手人差し指を唇の下に宛がい、少しの間じっと考え込んだ。


彼女はもはや、自分自身が求めるものの為に、一体何をすべきかを解っていた。


それでもその回答へと辿り着くまでに、ほんの数秒かかってしまったのは、未だに彼女の心の中でくすぶる、根強い反意があったからなのだろう。


しかしセニフは、ようやくそこへと辿り着いた足を持って、力強くそれを踏みつけると、何処か吹っ切れた様子で回答を示した。


(セニフ)

「じゃあ、中央区まで。」


(作業員)

「解りました。」


自分の歩んできたその道を振り返り、もう一度、アリミアと会う事を望んで。


セニフは真っ直ぐな自分の想いを、アリミアにぶつけてみる覚悟を決めたのだった。


とにかくアリミアと一度話をしてみよう。


アリミアは決して私を利用しようなんて考える人間じゃない。


いつも私の事を想ってくれている、かけがえの無い友人の一人。


さっきは酷い事を言っちゃったけど、まずアリミアに謝らなきゃ。


セニフはじっと地下通路の先を見据えたまま、胸元にかざした左手をギュッと強く握り締めた。


(作業員)

「それじゃですね。まずこの通路を真っ直ぐ進んで、二つ目の十字路を左手に曲がってください。そして突き当たりのT字路を右に行って、三つ目の十字路を更に右に進んでください。その後、右手に階段のある角を左に曲がればグリーンオアシスが見えてきますから。」


(セニフ)

「・・・。」


しかし、そんなセニフの心意気の出鼻をくじくかのように、作業員の男は彼女の辿るべき複雑な道順を淡々と連ねていく。


一体何処をどう歩み進めば、そこまで深く迷う事が出来るのだろうか・・・。


セニフは自分のあまりの方向音痴振りに、少し辟易へきえきしてしまった。


(作業員)

「なんでしたら、私が案内しましょうか?」


(セニフ)

「あ・・・。いや。大丈夫です。2回も助けて貰って、そこまで迷惑かけらんないし。それじゃ、私急ぐんで。ありがとうございました。」


セニフはほんのりと顔を赤らめてお礼の言葉を述べると、何処か気恥ずかしい気持ちに駆られながらお礼の言葉を述べた。


そして、すぐさま作業員の男に背を向けてその場から走り去ろうとしたのだが、不意に彼女の脳裏を過ぎった一つの疑念に意識をとらわれると、何かに蹴躓けつまずいたかのようにその足を止めてしまった。



あれ?2回?


2回って・・・。1回目の時はどうしたんだっけ?


この人に助けて貰ったんだっけか?


いやいや。あの後、フロルとルーサと出会って、そして3人で薄暗い地下通路を小一時間迷い歩いたんだった・・・。


そうだ!そうだよ!あの時この人、私の前から突然姿を消したんだ。


まるで幽霊みたいにいなくなったんで、凄く驚いてさ・・・。


(セニフ)

「そうだ、そう言えば、あの時さぁ・・・。」


と、セニフがその男に問いかけようと、再び男の方へと振り返った時だった。


セニフは不意に、自分の直ぐ背後へと忍び寄っていた大きな影の存在に気が付くと、一瞬驚いた表情で身体を仰け反らせてしまう。


彼女がその影の正体をつかみ取るまでに、それほど時間を必要としなかったが、まさかあれほど紳士的に接してくれた男の瞳の中に、これほど背筋に悪寒を覚える程の鋭さと冷酷さが含まれていようとは、思っても見なかった事だ。


そして、一瞬にして血の気が引いて青ざめるセニフを他所に、男は素早く彼女の左手首をつかみ上げると、強引に自分の元へと彼女の身体を引き寄せた。


(セニフ)

「なっ!!嫌っ・・・!!ちょっと!!」


セニフは、出来る限りの力を振り絞って、この危機的状況から脱しようと必死にもがいて見せるのだが、男の強烈な力で縛り付けられた身体は、完全に行動の自由を奪い去られており、もはや非力な彼女の力ではどうする事も出来なかった。


男は左腕でセニフの身体を押さえ付けたまま、作業服のポケットの中から一枚の白い布を取り出すと、徐にセニフの口元へと押し付け、もがく獲物がじっと弱るのを待った。


やがて十秒ほど経った頃だろうか。


次第に抵抗力が衰えていったセニフの両腕が力なく垂れ下がると、最後にはぐったりとしたまま薄暗い地下通路の床の上に崩れ落ちた。


気になる部分があったので、妄想シーンから一文削除しました。

別に何処とは言いません。気にしないでください。


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