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Loyal Tomboy  作者: EN
第四話「涙の理由+」
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04-19:○心に巣食う見えない枷[1]

第四話:「涙の理由+」

section19「心に巣食う見えない枷」


「・・・続いて最新情報をお伝えいたします。本日、セルブ・クロアート・スロベーヌ帝国軍に占領されたリトバリエジ都市ですが、帝国軍に対し、激しく抵抗を見せた一部の市民に、怪我人が出た模様です。帝国軍の発表によりますと、この負傷した市民達は何れも軽症で、命に別状は無いと言う事です。現在同市は、帝国軍による厳重な監視態勢にあるものの、市民の生活に対しては比較的大きな圧力も無く・・・。」


真っ暗な闇夜から降り注ぐ雨水が、ガラスに当たっては弾け、細かに散り散りとなった水滴がまとわり付くかのように群をなして、ツルツルと滴り落ちていく。


締め切った薄暗い世界の中に、ほのかに光る速度計のライトに照らし出された自分の顔を、直ぐ脇のガラス越しに、じっと見つめている少女が一人。


やや疲れきった様子の彼女は、左手で衝立ついたてをした上に頬を乗せ、淡々と現状報告を垂れ流すラジオの音声に浸りながら、DQを搬送する大型トレーラーの後部座席で、静かに時を過ごしていた。


「・・・両軍共にスーノースーシ川両岸を挟んでの睨み合いが続いており、今後も予断を許さない状況が続くと見られていますが、共和国防衛司令長官メルデンス・ハウアー陸将によれば、帝国軍に新たな動きは確認できず、近日中の首都ランベルク侵攻は無いであろうとの見方を強めている模様です。また、帝国軍の支配下に置かれることとなったリトバリエジ都市市民に対しては、決して軽率な行動を起こさぬよう自重を強く促すと共に、帝国軍に対して、人道的判断を求めたと言う事です。尚、今後両軍の間で、72時間の休戦協定が合意に達する見通しであり・・・。」


夕方過ぎから降り始めた雨足が更に強さを増していく中、只管ひたすらに道幅の広いハイウェイを走る事約6時間半。


それまで過酷な戦場に追いやられていた戦士達から見れば、平和で静かな一時を満喫できようとものなのだが、生憎軍用トレーラーに彼等を満足させるような機能が施されているはずも無く、窮屈で退屈な時間を、ただ虚しく浪費するだけであった。


彼等ネニファイン部隊の先発パイロット達は、ディップ・メイサ・クロー作戦終了後に、南方から迂回してきた輸送部隊と接触。


そのままリトバリエジ都市東方に位置する「シムナム基地」へと向かう予定だったのだが、余りにも帝国軍の攻勢が激しかったために、急遽、レイナート山脈麓を南下するような迂回コースを取らざるを得ず、目的地もランベルク基地へと変更を余儀なくされたのだった。


(ルワシー)

「運ちゃん。ランベルク基地まで後どんぐらいなんだ?」


(運転手)

「あと30分ぐらいですかね。もうしばらくの辛抱ですよ。空港のサーチライトが見えて来たら直ぐです。」


(ルワシー)

「そういやよ。帝国軍に使用されない様にって、ネミッサ空港の滑走路を全部爆破したって話。ありゃぁ本当なんか?」


(運転手)

「さあてねぇ。単なる輸送部隊の下っ端に、そんなこと解るわけ無いでしょが。そういう事は、旦那の方が詳しいんじゃないですか?」


そして、少女の隣の席に座っていた大柄のモヒカン男が、持て余した暇な時間に耐え切れなくなると、しばしば前席に座る運転手を相手に、退屈凌ぎと話しかけるのだが、それでも見知らぬ男同士の会話が花開く事も無く、また直ぐに長い沈黙の時が訪れるのだった。


降り注ぐ大粒の雨水が、バチバチとフロントガラスを叩きつける音が響き渡る車内で、じっとりと湿った空気は何処と無く重く、淀んだもののようにも感じる。


まるで昼間に行われた戦闘の全てが、夢であったかのような静けさを匂わせながらも、すり減らされた感覚は未だ休まる事無く研ぎ澄まされ、眠気を欲する体に反してドクドクと脈打ったままだったのだ。


普段であれば、こと細かい事に関しては、完全に無頓着を突き通すルワシーなのだが、さすがに過酷な戦場を人生で始めて経験した直後とあって、この時ばかりは、そんなもどかしさが彼の心の中に立ち込めたままだった。


そして、彼の隣に座る少女もまた、同様の感覚にさいなまれていたのであろうか。


一切口を開かずく、ただじっと真っ暗な窓の外へと視線を向ける彼女は、まるで眠りこけているかのように、ずっと同じ姿勢を保ったままだったのだが、はっきりと見開いたその視線は、薄っすらと曇る窓ガラス越しに、何かを見つめているようでもあった。


(運転手)

「シデーロス平原では主力部隊が、6割から7割もやられたって言うじゃないですか。旦那の部隊は大丈夫だったんですか?」


(ルワシー)

「うちの部隊だって1/3はやられちまったぁぜ。奇襲したつもりが奇襲されちまった挙句に援軍も来やしねぇ。そりゃぁひでぇのなんのってな。あんな状況で良く生きて帰ってこれたもんだ。」


(運転手)

「そりゃ災難でしたねぇ。でもまあ、もっと酷い災難にあった人も多かったでしょうし、生きて帰れただけでも感謝しませんとね。」


(ルワシー)

「まあ、そりゃ違いねぇな。」


そう言うとルワシーは、一つ大きな息を吐き出して深々とシートに持たれかかると、横目でチラリとセニフの方へと視線を向けた。


どれだけの経験を積んだ熟練の者でも、いとも簡単に死んでいく凄惨せいさんな戦場において、ほとんど新米部隊に近いネニファイン部隊が相手にしたのは、自分達の十数倍はあろうかと言う大戦車部隊。


しかも自軍の主力部隊からは見放され、挙句の果てには約束された上空からの支援も一切無いという状況を強いられる始末だ。


更には、ありえないほどの高威力を誇る帝国軍の新兵器に追い回される羽目となり、成す術もなく逃げ惑っていた自分は、まさに「死に組」の一員であったはずだった。


DQを操舵する技術に関しては、人より秀でた能力を有していると言う自負もあり、自分が簡単に死の縁へと追いやられる事など、甘っちょろくも考えてい無かった彼だが、おぞましい程にうねり狂う殺意と憎悪が渦巻く戦場においては、そんな僅かな能力の差など、何の役にも立たなかったのである。


あの巨大なDQが彼の目の前に立ちはだかった時、もはや彼には、死ぬ以外の道は残されていなかったのかもしれない。


しかし、それでも彼は生き残った。「生き残り組」として今日を生きる権利を、そして明日を迎える権利を手する事が出来たのだ。


勿論それが、決して自分一人の力によるものではない事は十分に解っている事であり、少なくとも、彼の横に座る小さな少女の存在なくして、自分がその権利を手にする事は出来なかっただろうと、彼女へと据えた視線の上に思うのである。



こんな奴。見れば見るほどにただの餓鬼じゃねぇか。


こんなチンケな小娘に、一体どうやってあんな戦い方が出来たんだ?


確かにDQを操作する技術に関してだけは、女も子供も関係ねぇが、あれほどの相手を前に逃げ出すどころか、逆に手玉に取っちまうんだからよ。


実戦経験どころか、戦闘経験さえ浅いはずのこの餓鬼に。


覇気の欠片も感じねぇただの小娘によ。


現にこいつを助け出した時だって・・・。



彼はメイサ崖の縁でバスターマンティスとの死闘を終えた後、部隊内でやり取りされる通信内容から、メイサ渓谷内に閉じ込めた帝国軍戦車部隊を、リプトンサムの支援砲撃で一掃するという作戦が発動された事を知った。


このリプトンサムが常備する弾道ミサイルは、TAG弾と呼ばれる強烈な破壊兵器の一つであり、ようやく巨大なDQの猛威から逃れる事が出来たとは言え、新たな脅威が彼の身に迫っている事を示唆していた。


しかし、いつまでもその戦闘区域に身を置く事は許されない状況下にありながらも、彼はまず、バスターマンティスのスタンボム攻撃で黒焦げにされてしまった、トゥマルクの元へと駆けつけると、即座にセニフの救出活動を始めたのだ。


あれほどに強力な威力を誇った電気的衝撃波をまともに食らった状態で、決して彼女が無事である保証は無かったのだが、それでも彼は、この作戦の最大の功労者であろう少女を見捨て、一人で逃げ失せようなどと言う気にはなれなかったのだ。


(ルワシー)

「セニフ。・・・よぉ。セニフ。」


(セニフ)

「・・・ん?・・・んん・・・・・・。」


真っ黒に焼かれた前面装甲を無理やり機体から引き剥がし、分厚いコクピットハッチを手動で操作する開閉装置にトゥマルクの右手指を宛がうと、ルワシーは体躯に似合わぬ繊細な作業を難なくこなしてみせる。


と言うのも、コクピットの手動開閉装置は、DQなどの大型機械でも簡単にこじ開けられるように、大きめに作られているのがほとんどであり、開閉作業を行うための行動ファンクションも、DQ制御システムの中に標準機能として備わっているため、猿でも出来る作業の一つなのだ。


(ルワシー)

「何でぇ何でぇ辛気臭ぇなセニフ。いつもは糞うるせぇはずのてめぇがそんなんだから、馬鹿みてぇにドカ雨が降んだよまったく。やっぱ初めて戦場ってもんが怖かったんか?ああ?」


(セニフ)

「・・・んん・・・?・・・怖い?」


そして、簡単にこじ開いたコクピットハッチ越しに、彼は覗き込むように少女の様子をうかがって見たのだが、コクピットシートの上に仰向けに寝そべったままの少女は、何の反応も見せなかったのだ。


彼はすぐさま自分のDQのコクピットを開放して身を乗り出すと、鼻に付く焼け焦げた匂いが周囲に立ち込める中、今度は大声で彼女へと呼びかけた。


生きているのか。死んでいるのか。それとも気絶しているだけなのか。


この時、既に時間に追われる身であった彼には、もはやその結果が何れであっても関係なく、彼女の身を引き上げて連れ帰る為に、薄暗いコクピットの中に降りて行こうとしたのだが、そんな時、ようやく彼女のまぶたがゆっくりと開いたのだった。


そして、その様子に安堵したように大きく溜め息を付いた彼が、憎まれ口を持って彼女の生還を祝おうとした時、突然彼女は、耳をつんざかんばかりの大声で泣き始めたのだ。


(セニフ)

「怖い・・・。怖いか・・・。そうだよね・・・。うん・・・。」


真っ暗な外の世界を大型トレーラーの後部座席からじっと眺めたまま、セニフが覚束おぼつかない口調で静かに肯定して見せたのだが、果たしてそれは、彼の問いに対する答えだったのだろうか。


自分のDQのコクピットにセニフを乗せて戦場を脱出してから、輸送部隊の大型トレーラーで延々と身を揺さぶられる間、セニフの態度は一貫して曇ったままだったのだ。


元気が無いのは戦闘の疲れから来るものだろうとしても、それでも彼には、あからさまに彼女の様子が普段と異なっていることに気がついていた。


(セニフ)

「雨。ほんとよく降るよね。流されるだけ流されて。一体、何処まで行っちゃうのかな。」


(ルワシー)

「はぁ??」


少し視線を傾けて、ようやく意識を外の世界から狭い車内へと寄り戻した彼女が、隣に座る大柄の男に突拍子も無い質問を投げかける。


勿論、彼女の言いたい事は全く別のものを意図しているのだろうが、未だ出会ってから二週間程しか経っていない間柄では、不可解に暗号化された彼女の言動を解き明かす事など不可能に近い。


怪訝けげんな表情で彼女を見据えるルワシーには、機械的に発してしまった甲高い声を返す事しか出来なかった。


しかし、持て余した時間をどう使おうが、暇以上に退屈な事は無いわけで、彼はその後も続けられた彼女の不思議な問いかけに対し、すこし相手をしてやる事にした。


(セニフ)

「高いところから、低いところへさ。真っ暗でも、何も見えなくても、水は行き場所を知っているんだ。なんか羨ましいよね。」


(ルワシー)

「はっ。なんのこっちゃよう解らんが、行き先なんてな、解ってても行けるもんじゃねぇだろが。流れ着いた先がちっこい水溜りで、晴れと同時に干上がっちまうのがオチってこともあらぁな。」


(セニフ)

「干上がって空に上れば、また雨になって降ってこれるじゃない。流されるだけ流されて、海にたどり着いてしまったら、深い海底で一生空に上れない可能性だってあるよね。結局、どっちが幸せなんだろ。」


(ルワシー)

「おっかしなこと言う奴だな。水に幸せも糞もあるかい。自分じゃどっちに行こうかなんて、決める事も出来ねぇ流されるだけの奴等に、そんなもんを感じる意思なんてねぇのさ。行きたい所に行けたら幸せ。行けなかったら不幸せってこったろ?」


(セニフ)

「行きたい所に行けたら幸せ・・・。・・・か。ふぅん・・・。行きたい所に行くためには、一体どうしたらいいのかな・・・。」


(ルワシー)

「ああん??そりゃぁ努力するしかねぇだろうよ。必死こいて駆けずり回って、泥に塗れながらよ。」


(セニフ)

「ルワシーはさ。努力してんの?」


(ルワシー)

「がはっはっは。俺様のような天才には、そんな努力必要ねぇってもんだ。てめぇみてぇな小馬鹿なドチビと違ってよ。」


(セニフ)

「そっか。そだよね・・・。それなりだもんね・・・。」


(ルワシー)

「・・・。てめぇ・・・。今の一番むかついたぞ。」


(セニフ)

「やっぱさ。頑張らないと幸せになれないのかな。」


(ルワシー)

「あのなぁ。何もしないでポッと手に入った幸せってぇもんが、本当に幸せな事だとおもうんか?過酷な状況を乗り切ってこそ、男ってぇもんだろがよ。頑張りゃ頑張った分だけ、良い事があるってもんよ。」


(セニフ)

「でもさ・・・。実際、何をどう頑張ったらいいのか解んないし・・・。行きたい所って・・・。・・・。」


セニフはふと、そう言いかけると、ゆっくりとうつむいて黙り込んでしまった。


さほど長い会話の中でとまでは行かないにしろ、どうやら彼女の心の中には、魚の骨のようにわずらわしい棘が、突き刺さっているような気配がする。


身動きするでもないが、そのむずがゆさに耐え切れないように、心を懸命によじっては、取れぬもどかしさが彼女の心に暗い影を落とすのであろう。


(ルワシー)

「ははぁ〜ん。なぁんだ。さてはてめぇ。なんか悩み事でもあんな。なんだ?言ってみぃ。ほれっ。」


(セニフ)

「う・・・。うっさいな!」


悩み苦しむ少女を前に、こんな言いかたしか出来ない彼の性格にも問題はあるのだが、それでも一瞬、彼女の心に刺さった棘を、ほんの少し揺り動かす事に成功したようだ。


彼自身、さほど親密でもないこの少女を相手に、自分がしてやれる事などほとんど無いのだということは自覚しており、そのぐらついた意識の片隅にいつもの小娘の姿を確認すると、ほのかに野蛮な笑みを浮かべて、彼女の意識をあおり立てるのだった。


(ルワシー)

「へっへぇ〜。てめぇみてぇな糞馬鹿女に悩み事があんなんて思わんかったな。俺ぁまたちっこい頭ん中は、鼻くそ程度の脳みそしかねぇカラッカラの空洞だと思ってたんがよ。喚き散らすことしか能のねぇ馬鹿が、慣れねぇ事ばっかしてっと、残りすくねぇ脳細胞が焼け焦げちまうぜ。それとも何か?スタンボムでもう真っ黒な墨にでもなっちまったんか?」


(セニフ)

「脳みその隅まで脂肪に包まれた誰かさんと、一緒にして欲しくないもんだね。戦闘中でも食べ物の事しか頭に無かったくせに、そんなにお肉が食べたけりゃ、自分の脂肪でも食べてりゃいいじゃん。デブがデカブツにヒーヒーいって追い回されてた癖に。」


(ルワシー)

「はっ!!チョロチョロ動き回るだけの単細胞が、偉そうな事ぬかしてんじゃねぇよ。後先も考えずにてめぇが動きまわっから、馬鹿なデカブツが辺りに弾丸をばら撒くんじゃねぇか。迂闊に身動きが取れなくなった周りの迷惑も、ちったぁ考えて行動したらどうなんだこのボケナスが!」


(セニフ)

「はんっ!あの程度の攻撃で身動き取れなくなるですって??あ〜ぁ。ほんと、心底デブにはなりたくないもんだね!その点、私はスマートな動きだったでしょ?少しは私の事を見習って、ダイエットでもしたらどうなんですか?おでぶちゃん。」


(ルワシー)

「けっ!!てめぇを見習うだと?てめぇみてぇに遺伝子からちっちゃく出来てるような奴には、元々ダイエットなんざ必要ねぇだろよ!身なりに似合わないデカ口を叩く神経に栄養を全部吸い取られて、必要な所に行き届いてないんだろよ!板張り貧乳娘さん!」


(セニフ)

「なっ!?お前みたいに余分な脂肪だらだらの豚に言われたくないね!そのうちきっと食用ラードが取れるよ!食用ラーーード!!幾ら胸が欲しくたって、そんな汚いもん絶対食べたくないけどね!ほら見てよココ、ココ。くびれって言うんだよ。く・・・び・・・れ!何でこの魅力的なラインが解んないのかなぁ。まあ、どんなに絞っても一生凸型体系から抜け出せないデブ男に、同意を求めても仕方が無いっか!あっはは!」


(ルワシー)

「そんなひねれば折れそうなガリガリの何処に魅力があるってんだ。女はもっとこう、ムチムチっとした感じの方が良いに決っとるだろが。煮ても焼いても食え無そうなドチビにかれるほど、俺も暇じゃねぇのさ。」


(セニフ)

「ヤラシイんだよその手つき!!馬鹿っ!!まっ!お前みたいなデブなんか、だ〜れも相手にしないけどね!豚は豚らしく豚小屋にでもこもって、餌でもあさってるがいいさ!!このデブデブデブデブデブ!!」


それまでとは一変して、騒々しい空気が車内へと充満し始める中で、運転席で真面目に大型トレーラーを操る運転手が、バックミラー越しに二人の様子をマジマジと観察していた。


そして、いたって低レベルで、内容にも乏しいなじり合いを前に、会話に参加するどころか溜め息を付いて見せる事しかできない運転手は、以前耳にした噂を思い出すのである。


新設部隊「ネニファイン」は、若者を寄せ集めて作られた問題児部隊であるという事を。


後部座席に座る二人の男女の振る舞いは、まさにその噂を肯定すべきものであって、恐らく彼等自身には、そう称される事に対して、何ら自覚が無いのだろう。


やがて、呆れた様子で頭を掻いた運転手は、バックミラーから視線を断ち切ると、その後も続けられた幼稚な戦闘に対して、完全に素知らぬふりを決め込むのだった。


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